森里海の色
四季の鳥「セッカ」

一夫多妻の草原の鳥

3月中旬、相模湾を見下ろす小高い丘陵に登ると、辺りは菜の花でいっぱいです。アブラナ、カブ、ハクサイ、キャベツ、セイヨウカラシナ。2月から5月まで三浦半島は菜の花のシーズンが続きます。菜の花畑のかたわらでしばらく佇んでいると、1羽の小鳥が飛んできて、菜の花に止まりました。今年初めて見るセッカでした。

セッカはスズメより少し小さな雌雄同色の地味な鳥です。頭から体上面は茶色に黒い縦斑、喉から体下面にかけては白で、長めの尾羽を扇状に広げる特徴があります。本州以南の草原で繁殖し、冬は暖地に移動しますが、わたしが住む三浦半島では越冬組がいて、菜の花畑で見た個体もそのうちの一羽なのでしょう。

あと一月も経てば、河川敷や遊水池に行くと、頭上でヒッヒッヒッヒッと鳴きながら飛び、チャチャチャ、ジャジャジャと下りてくる繁殖期に入ったセッカに遇うことができます。雄は繁殖期に入ると、チガヤやススキなどの草にクモの糸を巻き付けて楕円形の巣をつくります。セッカは漢字で「雪加」と書きますが、一説によると、巣づくりのためにセッカが咥えたクモの卵のうや植物の白い綿毛が雪のように見えることから名付けられたという話があります。

雪加、雪下

セッカは一夫多妻の鳥として知られています。雄がつくった巣を雌が気に入り、首尾よく交尾が成功して雌が産卵しても、雄は雌に代わって卵を温めたり、餌を運んだりはしません。育雛のすべてを雌任せにして、次の結婚相手のために巣づくりを始めます。

ある調査研究報告によると、1羽の雄が1シーズンにつくった巣の数は平均6.5個、最多18個の巣をつくり、11羽の雌と交尾したとあります。雌が生む卵の数は4~8個。こんなに子づくりに励んでいたら、秋には草原中がセッカだらけになりそうですが、産卵後7割近くの巣がヘビに捕食されたり、放棄されてしまい、繁殖の多くは成功しません。雌だけの抱卵や育雛はやはり多難なのです。

春に小鳥たちのさえずりで満ちあふれる森林地帯は、ヒナが孵った夏の育雛期には雄も雌も子育てに忙しく静まりかえりますが、河川敷の草原では夏の間中雄のセッカのさえずりがせわしく聞こえるのは、一夫多妻制というセッカが選択した進化の理由によるのです。

著者について

真鍋弘

真鍋弘まなべ・ひろし
編集者
1952年東京都生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒。月刊「建築知識」編集長(1982~1989)を経て、1991年よりライフフィールド研究所を主宰。「SOLAR CAT」「GA」等の企業PR誌、「百の知恵双書」「宮本常一講演選集」(農文協)等の建築・生活ジャンルの出版企画を多く手がける。バードウォッチング歴15年。野鳥写真を本格的に撮り始めたのは3年前から。