ブックレビュー

他人から与えられた正解で生きるの? 岡啓輔『バベる!』ブックレビュー

バベる! ─自力でビルを建てる男

他人が正解をくれるのを待っている社会は終わる、だろう。

建築も、正解があるように私は思い込んでいた。プロである建築士が正解の家を設計し、プロである工務店が正解の家を建てる、素人はその正解に手を触れてはならない、そんな方程式があると思っていた。いや、思い込んでいた。

でもこの『バベる』を読んで、私のなかの方程式は崩れた。

「技術の値段が明らかになり、プロが緊張感をもって建築に臨み、素人とプロの健全な競争が起これば、建築はいい方向に向かう。ホームセンターの登場によって、そういう変化が起こる」(本書第一章「激闘! セルフビルド」)

建築は、家は雨風をしのげれば、それが正解なんじゃないのかな。正解の基準は他人ではなく、自分のなかにあるんじゃないのかな。そう、思うようになった。

こんなことは他にもある。例えば、法律が許す範囲で一パーセント未満の低アルコール飲料をつくる。材料は、イオンなどのスーパーマーケットに行けばすぐに全部手に入る。
人は問う。
「どうなったら正解なんだか、分からないじゃないですか」
私は答える。
「飲んで、うまい、と思ったら正解です」

自分でつくるということはそういうことだ。自分で正解を決める。

むしろコンクリートに余計な水を入れたり、建材に有害物質をまいたり、手抜きをしたりするのは仕事としてやっているプロだった、ということもある。そうだ、採算を度外視した素人の作品がプロの作品を凌駕することだってあるじゃないか!

岡啓輔の手書き文字

挿絵の手書き文字から岡さんの人柄がにじみ出る

本書は随筆としても逸品だ。岡さんが対峙した材木屋や不動産屋とのお金のやりとりの生々しさ、高山建築学校周辺の人たちとの体温のある会話が、岡さんの建築への情熱を際立たせる。読み終わったら、岡さんのファンになっていることに気づく。きっと、熱狂に巻き込まれている。

そればかりではない、本書を読んだ人は、自分の手で何か作りたくなる。手を動かして、自分の手の中へ真実を、正解を引きもどしたくなる、そんな読書体験が、本書にはある。(甲)

バベる! ─自力でビルを建てる男
著者 岡啓輔
構成 萱原正嗣
販売 筑摩書房
(献本いただきました)