森里海の色
四季の鳥「アオジ」

冬の里山の常連

寒い朝、ストーブに当たりながら朝食を食べていると、ガラス越しに猫が外をしきりに気にしています。チェッ、チェッという歯切れのいい鳥の声が庭先から聞こえてきます。窓の外を覗くと、胸の黄色いスズメほどの大きさの鳥が、地面をホッピングしながら盛んに何かを食べています。冬の間、里にやって来るアオジです。
アオジは夏の繁殖期には本州の高地や北海道にいますが、10月下旬頃から5月下旬頃まで神奈川県下では広く見られる鳥です。アオジが生息する環境は里山や公園など周囲を雑木林に囲まれた平地で、茂みを好むアオジも餌を求めて明るい林道や住宅地の庭に姿を現します。

蒿鵐・蒿雀

私がマイフィールドにしている林道では、すぐに藪に逃げ込める林道の端で数羽のアオジが道に落ちた植物の実を食べているのをたびたび見かけます。アオジの冬の食料は枯れたカラムシやフジカンゾウ、スズメノカタビラなど林縁や草地に生える植物の小さな種子。植物から種子を採って食べているときは何を食べているかわかりますが、彼らが去った後、彼らが何を食べていたか知ろうと地面の上を探しても小さすぎてなかなか判別は困難です。
林道を歩くときは行く手の地面の上にアオジがいないかを双眼鏡で確かめながら慎重に歩きます。アオジがいればそのまま動かずに観察を始めます。草木の陰になって見づらい場合もアオジが移動してくれるのをじっと待ちます。慎重に歩いていても、私がアオジを見つける前にアオジのほうが先に藪に逃げ込むことがほとんどです。アオジの背面は淡い茶色に黒褐色の縦斑があり、藪に逃げ込まれるとほとんど藪と見分けがつきません。
胸から腹にかけて美しい黄色が印象的な鳥なのに、なぜアオジと言われるのでしょうか。それは夏の時期が近づくと、オス成鳥の頭部が灰色がかった黄緑になるからです。日本語の「アオ」はとても広い色の範囲を示しているんですね。
初夏、富士山麓や信州の高原で枝先にとまってゆったりと囀るアオジを見ると、いつも見慣れた冬のアオジが彼らにとって雌伏の時なのだという思いを強くします。

著者について

真鍋弘

真鍋弘まなべ・ひろし
編集者
1952年東京都生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒。月刊「建築知識」編集長(1982~1989)を経て、1991年よりライフフィールド研究所を主宰。「SOLAR CAT」「GA」等の企業PR誌、「百の知恵双書」「宮本常一講演選集」(農文協)等の建築・生活ジャンルの出版企画を多く手がける。バードウォッチング歴15年。野鳥写真を本格的に撮り始めたのは3年前から。