森里海の色
四季の鳥「シノリガモ」

道化師のような潜水カモ

県外にバードウォッチングに行った先日、サイドウインドウを下ろし冷たい海風を浴びながら、日が傾きかけた海岸線の鳥を探して車を走らせていました。海岸線には岩礁帯が続いています。あっ、いた! 車を止め、身をかがめて堤防に近づき、そおっと顔を出すと、眼前の岩礁の上に、この日見たかったカモが羽繕いをしていました。雄のシノリガモです。海上に浮かぶシノリガモや沖の岩礁に乗っているシノリガモを見る機会はこれまで何度もあったのですが、間近に全身を見ることができたのは初めてでした。
それにしても雄の冬羽(繁殖羽)は派手です。上面は濃青色や青黒色、頭頂や体の側面は赤褐色、腰や尾羽は黒や黒褐色。首や肩、胸の側面、腰などには白い斑紋が入り、なんだか神様が白ペンキをイタズラしたような感じです。英名がHarlequin Duck(道化師・鴨)であるのもうなずけます。
シノリガモの「シノリ」はどういう意味か、気になって調べてみると、シノリは漢字で「晨」と書き、「夜明け」の意味だと説明されていました。雄の体側面の赤を海から上がる太陽に見立てたのでしょうか。シノリガモの繁殖羽に比して、雌や雄のエクリプス(非繁殖羽)の羽衣は褐色や黒褐色で、白斑もぼんやりしており、とても地味です。

晨鴨

 

カモの仲間には潜って水底食物や甲殻類などを食べる潜水カモと水面採食カモの2グループがあることは、以前ヒドリガモの項で書きましたが、シノリガモは潜水ガモの仲間です。潜水ガモは泳ぎがしやすいように進化したため、水面採食ガモよりも足が体の後部にあり、陸上では上半身を持ち上げた姿勢で、歩くことがあまり得意ではありません。水面からの飛び立ち方にも違いがあり、水面採食ガモは水面を蹴ってその場から飛び立てますが、潜水ガモは助走が必要です。
岩礁の上にいるシノリガモを見て、注目したのはその扇のような尾羽です。シノリガモは潜水するとき、海面から飛び込むように姿を水中に消しますが、広げた尾羽の反力が瞬時の潜水を可能にしているのでしょう。撮影した写真のなかに、獲物をくわえて浮いているシノリガモが映っていました。拡大してみると、嘴からハサミがのぞいています。この岩礁帯にシノリガモが群れていたのは、海底がカニの絶好の猟場になっていたからなのでしょう。

 

著者について

真鍋弘

真鍋弘まなべ・ひろし
編集者
1952年東京都生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒。月刊「建築知識」編集長(1982~1989)を経て、1991年よりライフフィールド研究所を主宰。「SOLAR CAT」「GA」等の企業PR誌、「百の知恵双書」「宮本常一講演選集」(農文協)等の建築・生活ジャンルの出版企画を多く手がける。バードウォッチング歴15年。野鳥写真を本格的に撮り始めたのは3年前から。