森里海の色
四季の鳥「シロチドリ」

寒さに適応した立ち姿

昼下がり、海岸の海鳥を見に行きました。干潮から2時間ほど経つと潮が満ちだし、沖の砂州もいつしか姿を消し、わずかに居残っていたシギたちも飛び去っていきました。そろそろ引き上げようかと浜辺を歩いていると、起伏で風を避けるようにシロチドリが点々と羽をふくらまして1本足でまどろんでいます。
日本で見られるチドリ科の鳥は15種ですが、シロチドリはそのうちの1種で、日本の海岸に広く繁殖し、秋冬は本州以南の干潟や海岸の埋め立て地でくらしています。チドリの仲間は小型のカニやゴカイ、水生昆虫を食べていますが、その食べ方は数歩歩いては短い嘴で餌を啄み、また数歩歩いては啄むというスタイルが共通しています。この特徴ある食べ方が海辺に共に暮らすシギたちとは異なるため、遠くから双眼鏡で観察していてもシギ科との識別は容易です。
チドリたちは2本の脚を交差させるような特徴ある歩き方をします。これはチドリたちの足のかたちに原因があります。ほとんどの鳥の足には前に3本、後ろに1本の指が付いていますが、大型のダイゼン、ケリ、タゲリを除いたチドリ科の鳥の足には後指がありません。このチドリたち特有の左右のバランスをとった歩き方が、酔っ払いのおぼつかない足取りの由来になってしまっていますが、本物の千鳥足はなかなかしっかりした歩みなのです。

白千鳥

それにしても爪楊枝ほどの細い一本の足でバランスをとってまどろむシロチドリの姿には驚かされます。鳥が寝る姿はお腹を地面や止まり木につけて首を背中に埋めるのが一般的ですが、お腹を冷やしてしまう干潟では水鳥たちが一本足で休んでいる姿をよく見かけます。これは皮膚の露出している部分をできるだけ暖かい羽毛で包み、わずかでも体温の無駄な発散を防ぐためです。それでも皮膚の露出したもう一本の足は外気にさらされています。ズボンも靴も履かずに人間ならたちまちシモヤケ、いや凍傷を起こしてしまうでしょう。
驚くべきことに水鳥たちの足の付け根には一種の熱交換器官があるそうです。足先で冷えた静脈血はこの器官で体内から送られた暖かい動脈血の熱をうばい、暖められてから体内に戻り、熱を奪われた動脈血は温度を下げてから足先に向かうために、足先からの体温の無駄な発散を防いでいるというわけです。シロチドリの一本足の立ち姿にはかわいいだけでない寒さに適応するためのすぐれた秘密が隠されているのです。

著者について

真鍋弘

真鍋弘まなべ・ひろし
編集者
1952年東京都生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒。月刊「建築知識」編集長(1982~1989)を経て、1991年よりライフフィールド研究所を主宰。「SOLAR CAT」「GA」等の企業PR誌、「百の知恵双書」「宮本常一講演選集」(農文協)等の建築・生活ジャンルの出版企画を多く手がける。バードウォッチング歴15年。野鳥写真を本格的に撮り始めたのは3年前から。