森里海の色
木版画が彩る世界「モチノキ」

赤い実が印象的なモチノキ。庭木として用いられることが多いですが、かつてはトリモチの原材料となる有用樹でした。


 
モチノキは「黐の木」と書く。鳥黐(トリモチ)の原料になる木だ。
ネバネバしたトリモチで鳥を捕まえることは、現在は鳥獣保護法で禁止されているが、かつてはそこらへんで普通に売られていた。
鳥を捕獲するのには使えないし、ネズミやゴキブリなどの捕獲用にも化学合成品が使われるから、今の日本でモチノキからトリモチをつくるのは道楽ぐらいでしか行われないだろう。

モチノキのポジションは、有用樹、というよりは庭木だ。丈夫な常緑樹で、放っておいてもよし、刈り込んでもよし、だから汎用性が高い。

版画にもあるように、鮮やかな赤い実をつける。
この実を目指して鳥がやってくる。
実を食べる。
飛んでいった先で糞をする。
中に入っていた種子が発芽する。

こんな風にして、植物はテリトリーを広げていく。
庭のモチノキの種がどこかに運ばれていくし、逆に、自分の庭にもどこかからの種が運ばれてくる、というわけ。
庭というのは管理されたもので、そういう変化をなかなか許容しないのだろうけど、地域に緑を供給するのも庭のもう一つの役割だ、と考えれば、その場所に生きる鳥たちのおかげて変化していく、ということも喜ばしいことに思えるのでは。

落葉前に枝を落とされた街路樹を見て、地域の緑とは何か、と強く思う。

文/佐塚昌則