びおの七十二候
第26回
腐草為蛍
くされたるくさほたるとなる
腐草為蛍と書いて、くされたるくさほたるとなる、と読みます。腐った草が蒸れて、蛍になるというのです。文化5年に発行された『改正月令博物筌』によれば、「腐草はくされたる草なり。暑さに蒸されて蛍を生ず」ということだそうです。つまり、蛍は腐った竹の根や、腐った草が蒸れて蛍に化したものだと考えられていたというのです。
ホタルの語源は、〈火垂る〉〈火照る〉〈星垂る〉〈火太郎〉など、いろいろな説があります。いずれも光るものを指しています。では、蛍はどうして光るのでしょうか?
蛍は、幼虫にも発光器を腹節にもつものが少なくありません。さなぎにも発光器があって発光するのです。
平凡社の『世界大百科事典』では、
と説明されています。
蛍20日に蝉3日といわれます。旬の時期が短いことの喩えです。「蛍の光 窓の雪」ともいわれます。夏はホタルの光で、冬は雪明りで勉強するというのです。苦学なんて言葉は死語になっていますが、この歌はみんな知っています。「君が代」に似ていて、あまり意味を解さずに歌っている人が少なくありません。
蛍は、幾多の俳人によって詠まれています。
どの句も名句です。今候の句は、よく知られる子規の句です。
もう蚊帳を知っている人も少なくなりましたが、小さい頃、母と一緒に蛍狩りに行って、電気を消して、その蛍を蚊帳の中に入れたときの、幻想的な世界を忘れることはできません。光っては消え、消えたかと思うと光って、それが蚊帳の中を泳ぐように移動するのです。
網戸で蚊の侵入を防ぎ、入ってきた蚊をベープマットで駆逐するより、蚊帳は、何とも風情があってよかったなぁ、と思います。蚊帳は、風は通しますが、虫は通しません。みんな戸を大きく開け放って過ごしていました。それで恐くはありませんでした。
蚊帳といえば、一茶にたくさんの句があります。
最近、マラリアの被害に悩まされるアフリカ諸国や東南アジアなどで、低コストな蚊対策として蚊帳が注目を浴びていることを知って、井戸を掘ること以来の、日本のよき知恵、よき支援だと思いました。
子規の句は、蛍と蚊帳と人の関係を巧みに詠んでいます。子規には、
という句があります。
二階に蛍が吹き込む、という表現は絶妙ですね。
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから再掲載しました。
(2009年06月11日の過去記事より再掲載)