冬の味覚みかん。

日本海と県内最高峰の小蓮華山(これんげさん)をはじめ北アルプスの山々に囲まれた、私たちの暮らす新潟県糸魚川市には「上刈(うえかり)みかん」という品種の柑橘類があります。この上刈みかんは、かつて糸魚川市の上刈地区を中心に多く栽培されていたみかんの品種で、別名「糸魚川みかん」とも呼ばれています。諸説ありますが、なんと日本での食用みかん栽培の北限の温暖系品種とされています。

冬は雪もあり、寒さ厳しい日本海沿岸の糸魚川市。一般的にみかんの生育として好適地ではないこの地で育てることができたのは、対馬暖流のおかげとも言われています。海産物も、ブリ、アンコウ、ヒラメ、カレイ、アマエビ（南蛮エビ）、ホタルイカ、ベニズワイガニ、今や高級魚のノドグロ、タチウオなど、豊富な魚種に恵まれているのも、このおかげです。

上刈みかんの歴史は古く、江戸時代の宝暦年間（1751-1763年）頃にはすでに栽培されていたと記録されています。同じ品種が石川県の輪島、京都の宮津、鳥取地方などにも分布していることから、当時の北前船が苗木をこの地まで運んできたものではないかと思われます。

雪の舞う寒空の下、かつて駅前の雁木通りでは、老女のみかん売りが手ぬぐいのほお被りと黒マント姿で露店を開く光景が見られ、この地域の年の瀬の風物詩となっていました。ちなみに、上刈みかんは小粒なため、一升マスによる量り売りが主流。種が多いことから子宝に恵まれる縁起物として重宝されていたようです。

しかし、その果実はとても酸っぱく、あまりおいしいミカンとは言えませんでした。大正初期に鉄道が開通すると、甘くて実の大きい温州みかんの全国流通で急速にその人気を奪われていき、最盛期は1,000本以上あった栽培数が激減。絶滅の危機にさらされ、昭和49年には推定200年の古木１本の他4本が市の天然記念物に指定されました。

現在その5本は既に枯れてしまい、天然記念物の指定は解除されていますが、この間に上刈地区の方々を中心に保存会が結成され、育てた若木を合わせて育苗を図ってきました。その努力の甲斐もあり、苗木の命脈は現在に受け継がれています。

みかん巻き作業の様子

ちなみに、本来はとても酸っぱいはずの上刈みかんですが、ここ数年は夏の猛暑の影響により、とても甘くておいしい上刈みかんが食べられます。まだ一般の家庭に行き渡るまでの流通量ではありませんが、最近ではまちのお菓子屋さんから、上刈みかんを配合したケーキが企画商品として発売されるなど、地元では徐々に上刈みかんを盛り上げようという動きがみられるようになりました。

駅北復興住宅（私たちも建設に参加させていただきました）

約2,800ｍにもおよぶ標高の差と約5億年のもの歴史をもつ地質の多様さが生み出す東西文化の結節点、甘酸っぱい北限のまち糸魚川。海山の食文化も豊かで様々な発見があります。ぜひ一度訪れてみてはいかがですか？

ちいきの記者
猪又直登 いのまた・なおと
新潟県糸魚川市生まれ。
大手玩具メーカーでキャラクター版権を扱う仕事から家業の建設業へ異色の転身で現在社長。
学生時代は70年代ロック・R&Bをこよなく愛するバンドマン。
現在は出張先でディープな居酒屋めぐりが趣味。検索キーワードは「地名」＋「吉田類」。オーセンティックバー＆スコッチも大好き。

　

(株)カネタ建設かねたけんせつ
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「オンリーワンの住まいづくり」
創業昭和8年。85年以上の歴史をもつ新潟県糸魚川市の老舗ビルダー。「小さな邸宅　キノイエ」をはじめ、個性的な住まいを数多く設計施工。現在は、建築・土木はもとより、不動産、介護から機能訓練まで住生活をフルサポートするワンストップ企業を目指してサービスを展開中。