町の工務店探訪②

全国には、特徴的な取り組みをしている工務店がたくさんあります。あの工務店、面白そうだけど、他の工務店と何が違うのだろう。そんな素朴な疑問に対して、それぞれの工務店の特徴を丁寧に調べて伝えたい。そこでびおでは、取材クルー(編集・ライター・カメラマン)を結成し、全国の工務店を訪ね回ることにしました。住まいづくりの現場、イベント、施主へのインタビューなどを通して見えてきたのは、地域の風土に呼応したその土地らしい工務店の姿でした。(企画=町の工務店ネット)

Vol.2  棟数よりもお客さんとのいい関係
熊本・ミズタホーム

熊本市内のミズタホームから南東に、緑川を上流にさかのぼるように車を30分ほど走らせると、山裾にのどかな田園風景が広がる自然豊かな町、甲佐町に入る。「甲佐の家」は2017年3月竣工。元は栗林だったという300坪の敷地にのびやかに建っている。ここで熊本市内の学校で体育教師をしている夫とその妻、6歳と4歳の子どもの4人家族が暮らしている。

子どもをのびのび育てる「甲佐の家」

ミズタホーム

上写真/「甲佐の家」の開放的な居間。
表題写真/のびやかな環境に建つ「甲佐の家」。外壁の仕上げは、小国町産スギ材の鎧張り+塗装。

「甲佐の家」は吹き抜けを介して1、2階がつながる、コンパクトな2階建の住宅だ。1階にはリビングダイニングと和室がある。キッチンを中心に、カウンター、木の床、畳の床といった心地よい居場所がそこかしこに存在する。居間とテラスが大きな窓を挟んでつながっているので、思い立ったらパッと庭に出ていくことも可能。これなら子どもたちも家の中でも外でも、のびのびと遊びまわることができるだろう。2階は小さなロフト付きのフリールームで、後から間仕切りをつけて子ども用の小さな個室をつくることもできる。

以前、熊本市中心部のマンションに住んでいた一家。だが子どもをのびのび育てたいと、奥様のご実家がある甲佐町に移住を決めた。「すごくおしゃれな家を建ててくれる工務店がある」と友人に勧められたミズタホームに約2年前に連絡。「子どもが小学校に上がる前に新しい家に引っ越したい」と、家づくりを始めた。


「甲佐の家」のキッチン。
テーブルが向かい合わせなのは掃除がしやすく便利だという。

「窓を大きくして欲しい、玄関の横に靴箱が欲しい、和室が欲しい、カウンターテーブル付きのキッチンが欲しい。お願いしたのは、そのくらいですね。後はほとんどおまかせでした」と奥様は、家づくりのプロセスを振り返る。

驚いたことにミズタホームは、お施主さんと、細かな収まりなどについてのあらたまった打ち合わせは、ほとんどしないのだという。

「台所のタイルとか細かいところは、工事がはじまってから現場監督さん(水田さんの長男・雄士さん)と相談して決めました」

そもそもミズタホームの場合、設計する際はお客さんから「おまかせ」されることが多いと水田さんは言う。施主の要望とミズタホームの思想をほどよくかけあわせ話を進めていくと、自然と「おまかせムード」になるのだと言う。「甲佐の家」の場合は、施主が事前にミズタホームが手がけた家をいくつか見学し、素材、風通しや断熱にこだわり、自然と共生するという家づくりのコンセプトを理解していたので「おまかせすれば、いいものができると思っていた」と信頼が厚い。

一方で、現場は驚くほどオープンだ。

「工事現場はいつ見に行ってもいいと言われたので、まめに通っていました」と奥様。施主がいつでも現場に見に行ける——材料や構法、大工の質に自信がないと、なかなかできないスタイルだろう。

取材で訪れた日は奥様も2人のお子さんも裸足で過ごしていた。以前のマンションでは子どもたちの足音に対するクレームもあったそうだが、今はいくら駆け回っても問題ない。移住で手に入れた、のびのびとした暮らしを満喫している。

「お待たせするのはプレッシャー、
その分の期待には応えたい」

独特の家づくり手法を確立した水田和弘さん。

独特の家づくり手法を確立した水田和弘さん。

話を聞いたところ、お施主さんの満足度は高そうだ。でも、なぜ施主はおまかせしようと思うのか。どのように「おまかせ」ムードになるのか。また、家族経営で対応可能な年間7棟に依頼をどう絞りこんでいるのだろうか。水田さんに聞いてみた。

——最初から全部おまかせ!というお客さんは少ないと思いますが、どのように話を進めているのでしょう。

水田 まず、施主の趣味や好きなもの、どんな暮らしをしたいのかを聞きます。それも、くどく聞きます。もし、具体的な暮らしのイメージを持っていなければ、こちらから暮らしの提案をします。そのなかで「まかせたい」「まかせた方がいい家ができる」と施主が思ってくれることがあります。

——手がける棟数を年間7棟と絞られていますが、なぜでしょう。

水田 30代の頃は拡大主義で、数をこなそうとしてあらゆる仕事を受けていました。そうすると赤字になる現場も出てくるし、自分が良いと思えない仕事は相手も喜んでくれなくて、誰も幸せにならないなと。そこで15年ほど前、やりたい仕事だけを責任持って追求するように切り替えたんです。

——年間棟数を絞り、やりたい仕事だけをやるためには、やはりお断りされることもあるのでしょうか。

水田 様子を見ることはありますね。どちらかというと、お客さんから離れていただくようにしています。たとえばメールの返事をあえて3日間くらいしないとか。それでイライラしてしまうような方は、合わないんじゃないかなと。年間7棟、契約順に進めているので、時間がかかることもあります。だからある程度待てる、気が長い方じゃないと、お互いうまくいきません。でも、待たせる以上こちらにとってもプレッシャーになりますし、その分の期待にはちゃんと応えるようにしています。

——「甲佐の家」の奥様が、打ち合わせはほとんどなかったとおっしゃっていました。

水田 設計の打ち合わせは、あまりしないですね。事務所に来ていただいたときは、木とか、植物とか、空気の流れとか、そんな話ばかりしています。まずはうちの家づくりのコンセプトをじっくり説明しつつ、お施主さんがどんな方なのかを知るようにしています。間取りは後ですね。また、壁の色とか使うタイルの種類とか、細かい仕上げは現場で決めてもらいます。すぐに決めないと、現場が進まない……という状況で考えてもらうんですね。時間がない方が、人は決断が早い。設計段階で考えてもらうと、夫婦喧嘩しちゃって、決まらない(笑)

——床や柱、梁にスギを使われていますが、なぜスギなのでしょうか。

水田 スギは調湿効果が高いです。柱、梁には人工乾燥ではなくて葉枯らし乾燥+天然乾燥をした材を使っていますが、この方法だと色、艶、薫りがよく高い抗菌作用やカビ防止・ダニの抑制効果も期待できるんです。またスギはほどよい硬さなので、床に使うと、膝や腰に負担があまりかからないです。床には厚さ30mmのスギ材を使っています。厚みがあるほど、弾力性や耐久性が出るんです。それに足の裏って敏感なんですよね。ざらつきを感じたら、自ら掃除したくなるでしょう。床にコストかけるのは大事。熊本城の床にも、マツの30mm厚の材が使われていますが、長い間、しゃんとしていますよね。

——熊本城が比較対象とは、驚きです! 使われている材料がよいので、そもそもそれ以上の仕様を望むという方はあまりいないのかもしれませんね。

「おまかせ」で家づくりを進めることが多いミズタホーム。これができる背景には、施主のミズタホームに対する信頼感があるだろう。スギや漆喰をはじめとする上質な材料、環境負荷の少ない工法、開放的なワンルームといった、すべての家に共通するコンセプトが確立されている。そして実績や現場の様子からは、質のよい材料で、しっかりと過ごしやすい空間をつくってくれること、そしてどんな暮らしが実現できるのかをイメージできる。

ミズタホームの家づくり哲学を伝える拠点は、事務所とモデルハウス「Bioの家」、そして住宅だけにはとどまらない。次回は古民家を水田さん自らが買い取って手を加え、公開している文化拠点「山ぼうしの樹」を紹介する。

一般社団法人 町の工務店ネット