家族のかたちで住み替える
ヤドカリプロジェクトの試み

浜松市内を車で走っていたところ、ラジオから「ヤドカリプロジェクト」というプロジェクトが市内で進行中であることを知りました。進めているのは、建築家・白坂隆之介さん。白坂さんは、浜松市内で空き家を買い、リフォームしてしばらく住んだのち転売しまた次の空き家を買ってリフォームしてを繰り返す、「ヤドカリプロジェクト」という実験的な活動に取り組まれているとのこと。何やら聞きなれない話に興味を持ったびお編集部の尾内と林は、さっそく白坂さんにインタビューすることにしました。

Vol.3  空き家の多い街は宝の山

改修設計を行い住宅評価制度を利用して空き家の資産価値をあげると言う白坂さん。ヤドカリのように小さな家から大きな家へ引っ越していき、事務所と事業を大きくしていくという構想を伺いました。工務店さんも参加できるヤドカリプロジェクトを始められた白坂さんに、最後にまちづくりのことを聴いてみました。

尾内 完成はいつごろですか?

白坂 11月上旬ごろになります。

尾内 施工は地域の工務店さんですか?

白坂 そうですね。一級建築士の社長が経営されている工務店さんで長期優良住宅やZEHに詳しかったのでお願いしました。もともと探していた理想の工務店に近かったんですね。頑固オヤジでもないし、手広くやりすぎてもいないし(笑) それに社長さんが建築士なので僕が心配していることもわかってくれます。ス-パー工務店じゃないかな、って思っています。

施工中のかんばり坂の家、鴨江町

リフォーム中の新居を背に白坂さん

 ところで、浜松市にコンペがないという話を以前に白坂さんが出演されたラジオで聴きました。

白坂 東京の事務所にいたときから公共施設のコンペに参加してきました。日本全国のコンペを探して応募するのですが浜松はコンペがないんです。静岡市には多少はあるんですが、浜松市ではコンペで設計事務所を決めたというケースがほとんどないと思います。公共施設では入札があるんですが、技術的な面や意匠の面では選んでいない。東京や金沢など魅力がある街はコンペを利用していることが多いのですが。

尾内 公共施設などは街のアイコンになることが多いですからね。

白坂 そういうコンペが根付いている街は建築に対する信頼があるのだと思います。逆に浜松は建築に対する信頼が低いのかもしれない。それをポジティブな方向に変えていけたらと考えています。浜松は製造業が強いので、街並みや景観に頼らずに潤ってきた歴史があると思います。ただ製造業ばかりに頼っていると、工場が転出した際に産業が空洞化してしまいます。「転出しないまちの魅力」を高めていくことも必要で、そのためには公共建築のコンペも重要だと考えています。

尾内 一般の人でもヤドカリプロジェクトにかかわることはできますか?

白坂 私は今オーナー兼設計者になっていますが、オーナーと設計者を分けることもできます。一般の人がヤドカリ・オーナーになって、設計を建築士に頼んで自分は転々としていくということもできます。

尾内 可能性を感じますね。

 住宅レベルのヤドカリプロジェクトの話と公共施設のコンペの話をお伺いしましたが、浜松の街をどのようにしていきたいなど、ビジョンはお持ちですか?

白坂 私一人で「浜松はこういう街になるのがよい」といって方向を示せるものではないと考えています。これまでの街づくりはトップダウンで進められたものが多かったと思いますが、僕が住宅からはじめたように草の根的な活動が広まっていくくらいの方がいいなと思います。
先日、OpenAの馬場正尊さんとお話する機会がありましたが、馬場さんのお考えが私の意見に近いと思います。馬場さんは「エリアリノベーション」とおっしゃっていますが、個人が勝手に儲かろうと思ってやっていくことが波及していくのがいいかなと思います。

尾内 建築士の資格を持っている工務店さんも自社で設計も施工もできるという強みを生かしてチャレンジするといいですね。

白坂 そうですね。ヤドカリプロジェクトで一回住んだ家もちゃんと売れることが証明されれば、中古住宅の流通はさらに加速すると思います。

尾内 従来のような新築一戸建ての価値観だと、今は使わないけれどあの部屋もこの部屋も必要だと幕の内弁当のように設計が広がってしまいます。ヤドカリプロジェクトは目的がしぼられて低予算にできるのがいいですね。20年後、30年後の見通しなんて立てられない時代ですから。

白坂 35年ローンで買った家が築25年で価値がなくなっちゃうとか、おかしいことだなって思います。

尾内 当たり前だと思っていたことが建築業界でもう当たり前じゃなくなりますね。

がんばり坂

白坂さんが登下校していた「がんばり坂」に新居は建つ

白坂 お金のことでいうと、借家住まいでいくらくらいお金を使ったのか計算したことがあったんです。月5万円の借家なので7年間で420万円くらいだったんです。このくらい出せば買える家があるんじゃないかと思いました。それと、京都大学にいたときに京都で町家を買っていた先輩がいました。空き家の町家を700~800万円で買って夫婦で合わせて月々12万円で返済していったら4~5年で返せるという話があって。新鮮な発想だと思いました。

尾内 浜松にもまだまだそんな物件はありますか?

白坂 あるんじゃないですか。普通の空き家ならたくさんあるので改修して付加価値を高められる物件はたくさんあると思います。

 浜松市が宝の山に見えてきます。

白坂 確かに空き家は多いですから、僕から見たら宝の山です。

平成25年に、日本全国の空き家は820万戸を数えました(平成25年住宅・土地統計調査)。ヤドカリプロジェクトのお話をうかがい、浜松市だけではなく空き家を抱える地方都市ならどこでもチャレンジできるプロジェクトだなと可能性を感じました。白坂さん、お話を聞かせていただきありがとうございます。

「がんばり坂の家」を見下ろす白坂隆之介さん

著者について

白坂隆之介

白坂隆之介しらさか・りゅうのすけ
建築家
1979年浜松市出身。京都大学で宇宙物理学を学んだ後、同大学工学部建築学科へ学士編入。地球環境学修士。シーラカンスK&Hに8年間勤め、学校や病院などの設計を担当。2016年、REGION STUDIESを設立。浜松にUターンし、「ヤドカリプロジェクト」始動。同プロジェクトで地元信金のビジネスコンテスト最優秀賞受賞。一級建築士。

家族のかたちで住み替える
ヤドカリプロジェクトの試みについて

浜松市内を車で走っていたところ、ラジオから「ヤドカリプロジェクト」というプロジェクトが市内で進行中であることを知りました。進めているのは、建築家・白坂隆之介さん。白坂さんは、浜松市内で空き家を買い、リフォームしてしばらく住んだのち転売しまた次の空き家を買ってリフォームしてを繰り返す、「ヤドカリプロジェクト」という実験的な活動に取り組まれているとのこと。何やら聞きなれない話に興味を持ったびお編集部の尾内と林は、さっそく白坂さんにインタビューすることにしました。