色彩のフィールドワーク:もてなす緑

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ディスプレイとしての緑
––洋品店の店先にて

年が明け、冬の冷え込みが一段と厳しく感じられるようになりました。「新春」という言葉があるように、松の内が明けると徐々に春に向けての準備を目にするようになりますが、朝晩の気温を見ているとまだまだ冬は長そうだなあ、という気持ちになります。

Retailstore Jeannassaus hale o pua

太陽高度の低い冬の穏やかな光は、身近な景色を穏やかに浮かび上がらせてくれるとともに、気温や湿度を低くさせます。空気が澄むと遥か遠くまで景色を見渡すことができ、遠景・中景・近景の眺めがより印象的に感じられる日が多いように感じます。
冬はまた、道行く人の装いのトーンが下がる割合が高く、日中の光量の少なさも相まって何となく街並みが暗い印象にもなります。若い(※20~30代)頃はあまりそういうことは考えませんでしたが、最近は朝起きて今日は特別気温が低いなとか、どんよりと曇り空の一日になりそうだなと感じる日には、意識して明るい色のマフラーやストールを身に着けるようになりました。「面積が小さく地表近くにあり、命あるものが色を持つ」という自然界の色の法則に倣ってみよう、という気持ちです。人も自然の一部だということを意識していたいのかも知れません。

寒い、寒いと縮こまりながら冬のまちを歩いていると(……豪雪に見舞われている地域の方々には申し訳ないのですが)、まちなみのいかにも暖かそうな色や照明に目が行きます。このお店は年季の入ったマンションの一階にあり、入り口が道路に面しています。足元だけではなく、天井から吊るされた緑には躍動感があって、ショウウィンドウの周りを額縁のように彩っています。ディスプレイの洋服や小物はかなり頻繁に変えられていて、明るく華やかな色合いが人目を惹きます。

わずかなスペースですが、高さに変化のある緑が奥行きを感じさせます。

光に向かって伸びる緑、地を這う緑、垂れる緑。さまざまな動きのある緑が組み合わされ、僅かなスペースでありながら、随分と奥行きのある空間がつくられています。植物の種類はさほど多くはありませんが、高さに変化があるだけで多様な景色に感じられます。壁に映る影もまた、意図された演出のように見えて楽しいものです。
目の高さで捉える植物は、色の変化や乾燥の具合も相まって「……寒さの中、それぞれ頑張っているなあ」と応援したくなります。人も植物も、少し先の春をじっくりと待つ時期です。

測色の様子。明るく少し黄赤みのあるオフホワイト色が基調となっています。

ウエルカム感   ★★★
ボリューム感   ★★★★
全体のカラフル感 ★★★★★

※ごく個人的な判定ですが、この3つの指標に記録をして行きます。必ずしも★が多いことが良いという訳ではなく、シンプルでもカラフル度が高くて楽しいなど、演出のポイントや効果の発見に繋がると面白いなと考えています。

著者について

加藤幸枝

加藤幸枝かとう・ゆきえ
色彩計画家
1968年生まれ。カラープランニングコーポレーションクリマ・取締役。武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒後、クリマ入社。トータルな色彩調和の取れた空間・環境づくりを目標に、建築の内外装を始め、ランドスケープ・土木・照明デザインをつなぐ環境色彩デザインを専門としている。自著「色彩の手帳-50のヒント」ニューショップ浜松にて販売中。

連載について

色彩計画家の加藤幸枝さんが綴る、「まちの緑」に着目したフィールドノートです。加藤さんは、店先の緑は看板より人の心を動かすうえで効果的であると言います。店先にプランターを置いたり、外装を植物で覆ったりするなど、店と歩道や道路との間で、緑を生かした空間づくりが少しずつ目立つようになっているそうです。それは、街ゆく人と店とのコミュニケーションの架け橋になっているとも言えるかもしれません。加藤さんがふだんの生活の中から見つける緑のあり方から、まちへ開く住まいづくりのヒントが見つかるでしょう。