工務店の魅力を伝える仕事

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はじめてのイベント企画

前回は、南島原市に複合施設「風びより」をオープンするまでのことをお話しました。
その「風びより」のテナントが決まったところで、次は周知していくためには何が必要なのかと悩みました。人が動く時はきっかけがあります。その一つがイベントです。好きなお店に新商品やお目当ての商品が入荷されると行きたくなりますよね。それに、季節ごとにお祭り(キャンペーン)があれば、ついつい行きたくなってしまいます。商店では常にさまざまなイベントを企画して、お客さんの興味をそそる仕掛けをしているのです。
「風びより」でもコンセプトに沿った内容で、何かイベントを企画できないかと考えました。「癒し」「ゆっくりした時間」「自然」という3つのテーマに添って、笑顔になる瞬間はどんな時か、想像を膨らませます。そこで生まれたのが、その後毎年開催されることとなるイベント「クリスマス・キャンドルナイト」です1

工務店の魅力を伝える仕事風びよりクリスマス

「風びより」のエントランスをキャンドルで演出しました。

まず、クリスマスイベントの企画項目を書き出し、それをもとにスタッフとミーティングを重ねます。私達の会社のテーマの一つである「手づくりへのこだわり」を軸にアイデアを練るのです。そんな打合せの中で、あるスタッフが以前島原半島でシーグラスを使ったワークショップに参加したというので、早速相談してくれました。
その結果、シーグラスのキャンドルホルダーを借りて、屋外の木々に囲まれた庭に点々と置いたり、大工さんにお願いしてキャンドルを置くツリー棚を作ってもらったり、通路にランタンを並べたりして灯りを点すことになりました。「風びより」のテーマに合うように、なるべく人工的なイルミネーションではないものにしたかったからです。

工務店の魅力を伝える仕事風びよりキャンドル

全部で700個くらいのキャンドルによるほのかな灯りはネオンと違い暖かく、庭のデッキをゆらゆらと照らしてくれました。

それだけでは終わりません。そんな素敵なイベント会場で演奏会を開くことにしたのです。ここでも同じように、地域の方に協力をお願いしました。地元の音楽教室に、オープニングのクリスマスソングを披露してもらおうと考えたからです。
じつはこの音楽教室、毎年クリスマス会を開いているということでした。それを聞きつけて、ならば是非うちで披露してもらえないかと相談したところ、気持ちよく受けてくれました。保護者の親御さん達も子ども達の送迎などに協力してくれて、演奏会には可愛らしい歌声が加わりました。このイベントは、地元の人たちの協力なしには成り立たないものでした。

工務店の魅力を伝える仕事風びよりクリスマスバンド

地元の方へのお返しにと、田舎では普段聞けない生のアコースティックバンドを街から呼んで演奏をしてもらいました。

「手づくりへのこだわり」はまだまだ他にもあります。「風びより」には大きな広場はなく、庭には木々が植えられているので、ライブを聞くために観客は庭木の間に座るしかありませんでした。そこで大工さんとスタッフで小さな椅子を制作し、40席以上の客席を用意しました2。そしてクリスマスイベントの目玉であるプレゼント抽選会では、景品は各テナントさんから出してもらいました。カフェからは、コーヒー券とお食事券、エステティックサロンからはエステ券、雑貨店からは金額別で福袋といった具合です。私達らしさにこだわったイベントは、チケット、チラシ、ありがとうカード、会場の設営からお土産まで全部手作りしました。
さらに大工さん達には、イベント当日はサンタの格好で駐車場整理や誘導警備などに協力してもらいました。大工さん達にとって、サンタの格好はとても恥ずかしいらしく、照れ笑いや苦笑いをしながらも、楽しんで仕事をしてくれたようです。
お客様が来場したときから、退場されるときまで笑顔で帰ってほしい。その思いでクリスマスイベントを開催しました。その思いはスタッフ皆に伝わったのだと思っています。おもてなしの心はこうやって育まれるのではないか、と感じたひとときになりました。

工務店の魅力を伝える仕事風びよりイケメンサンタ

日焼けした渋い顔のサンタさんたち。

イベント企画のうえで大切にしたいこと

イベントをすると決めた最も大切な軸。この場所は、地域の方に開かれた場所でなければならないという信念かもしれません。言葉にするとよく耳にするようなセリフのようにも聞こえますが、それを実行するにはなかなか難しく、皆さんに協力してもらわなければ出来ないことなのです。
ブランドイメージに合わせて広告代理店や、イベント会社に依頼をすれば思い通りになりますし、手間や不具合、お願いなどわずらわしいと思うことをしなくて良いので、迷惑をかけることもありません。でも、それでは何も残るものがありません。イベントを自分たちの手ですることで、慣れない仕事、やったことない事にチャレンジする。出来ないことがやったことあるという経験に変わる。見たことがない事が知っているという経験に変わることで、仕事以外の経験が増えるのです。そのことは人生において豊かな価値になっているのではないかと思っています。
そんな経験は、準備に時間がかかったり面倒くさかったり、手間になったり、嫌な思いをしたりもあるのですが、それを皆で協力してやることで分け合えますし、頑張ろうと共通の意識をもてます。その姿を地域の人は見てますし、人と接したり関わったりすることで、伝染していきます。心が伝染するんですよ。完璧じゃないその感じに、笑顔になるんですよね。お客様には、そんな笑顔の出来る会社に家づくりを任せたいと思ってほしいものです。

少ない予算の中で何とか皆に協力してもらって開催しようとしていたことが、以外にも皆の協力を得られ大成功しました。1回目よりも2回目、2回目よりも3回目とイベント上手になったことは、会社の「経験価値」が高まったと言えそうです。

(1) その後、一昨年前に「クリスマス・キャンドルナイト」は無期限休止となった。
(2) 後にこの小さな椅子は、材木店の大工の手作り家具「モクモク」のオリジナル商品として販売することが、木工教室で1番人気の工作作品となっている。

著者について

村上比子

村上比子むらかみ・ともこ
「風の森」「風びより」の総括マネージャー

九州造形短期大学(現、九州産業大学造形短期大学部)卒業後、大手設計事務所勤務。企画コンペ専門の実務を経験し、工務店、コンサルティグ会社を経て、現在、株式会社浜松建設の企画運営マネージャーとして広報企画を担当。「風の森」「風びより」の運営ブランディングを行う。「大工の手づくり家具・モクモク」のデザイナーでもあり、「風びより」「風の森」で使われている家具やデザインをモクモクオリジナル商品として提供している。

連載について

工務店には広報が重要とわかりながらも、未だモデルケースや方法論などは明確にはない状況です。広報担当者は「孤独」に追い込まれていると『新建ハウジング vol.770』は伝えています。長崎の工務店で広報企画を担当されている村上さんのお仕事は、まさにこのテーマに対する一つのお手本のようでもあります。毎日長崎県内を縦横無尽に移動し、活躍されている村上さんが、これまでどのように広報の仕事を担当されてきたのか、教えていただきます。