色彩のフィールドワーク:もてなす緑

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夏の日差しを遮る木陰
––商業施設内外にて

季節に合わせ、ぜひ紫陽花のあるお店を……と探していたのですが、そうこうするうちに関東では梅雨が明けてしまいました。何でも、6月に梅雨が明けたのは観測史上初めてのことだとか。雨の少なかった6月の記憶が、この夏の猛暑を予感させます。

レストランIVY PLACEアイビープレイスの入り口

足元の濃い緑、立ち上がる明るい緑。


30℃を超える気温の中、まちを歩いていると、つい木陰に入りたくなるものです。先日、お子さんがうまれたばかりの建築家(男性)が『子どもを抱いて歩くと、普段の倍時間がかかる。これからの時期、日陰がつながることが本当に大事、実感。』と言われていて、なるほど、小さなお子さんや高齢者にとっては一層、木陰の連続が大切な役割を持っているのだなと思いました。
代官山IVY PLACEアイビープレイスの抜け道

日陰になった抜け道は、犬を連れた方が多く行き来していました。

都市やまちにおける樹木(緑)の役割は、防災や温暖化の緩和などがよく知られていますが、アメリカ・ボルチモア市の研究では「都市の樹木が10%増えると犯罪が13%減る」という研究結果もあるそうです。季節毎の緑の変化が心地よいな、と感じる以上に、私たちは公共空間の緑に大きな恩恵を受けているのだと思います。

バーIVY PLACEアイビープレイスまでの小道

日向から影に、また日向に。その先には、カフェがあります。


私はまちの色彩調査をする際、沿道や公園の樹木の色なども「測る」ことが多いのですが、先日、調査に同行していた現地の方に「自然物の色とまち(人工物)の色は、どう影響し合っているのか。なぜ、樹木の色を参照するのか。」と尋ねられました。人工物の色彩を考える(選ぶ・提案する)とき、ひとつの指標として「基調となる大面積の色は周囲の植物の緑が持っている彩度(鮮やかさ)の半分以下とする」ということを設定しています。私たちの暮らしに様々な良い影響をもたらしてくれる緑が、より生き生きと印象的に見えるように、という指標です。

この商業施設の舗装は、透水性のあるコンクリート舗装です。様々な色の砂利や砕石が混入しているもので、YR(黄赤)系の低彩度(2~2.5程度)色でした。自然の土色に近似しています。こうして写真に撮ってみると、日向と日陰で随分と色が異なります。強い日差しが舗装の色を輝かせると共に、強烈なコントラストにより明度(明るさ)を下げ、落ち着きと涼しさをもたらしていました。何度も訪れている商業施設ですが、改めて夏の日差しを通して見てみると、多くの木陰が・その心地良さが、人を集めているのだなと感じました。

IVY PLACEアイビープレイスの舗装

舗装の測色の様子。近づくと、黒色の骨材が多いことがわかります。

道行く人たちを眺めていると、多くの方が木陰に導かれるように、濃い影の中へ引き込まれて行きます。夏の明るい日差しと、大きなコントラストを持つ緑陰。雲ひとつない晴天のもと、鮮やかに浮かび上がるカラフルな家族連れや白いシャツを着た若い人たちの姿が、とても生き生きと印象的に見えました。

※参考(英語サイト):https://www.nrs.fs.fed.us/pubs/jrnl/2012/nrs_2012_troy_001.pdf

ウエルカム感   ★★★★
ボリューム感   ★★★★
全体のカラフル感 ★★

※ごく個人的な判定ですが、この3つの指標に記録をして行きます。必ずしも★が多いことが良いという訳ではなく、シンプルでもカラフル度が高くて楽しいなど、演出のポイントや効果の発見に繋がると面白いなと考えています。

著者について

加藤幸枝

加藤幸枝かとう・ゆきえ
色彩計画家
1968年生まれ。カラープランニングコーポレーションクリマ・取締役。武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒後、クリマ入社。トータルな色彩調和の取れた空間・環境づくりを目標に、建築の内外装を始め、ランドスケープ・土木・照明デザインをつなぐ環境色彩デザインを専門としている。自著「色彩の手帳-50のヒント」ニューショップ浜松にて販売中。

連載について

色彩計画家の加藤幸枝さんが綴る、「まちの緑」に着目したフィールドノートです。加藤さんは、店先の緑は看板より人の心を動かすうえで効果的であると言います。店先にプランターを置いたり、外装を植物で覆ったりするなど、店と歩道や道路との間で、緑を生かした空間づくりが少しずつ目立つようになっているそうです。それは、街ゆく人と店とのコミュニケーションの架け橋になっているとも言えるかもしれません。加藤さんがふだんの生活の中から見つける緑のあり方から、まちへ開く住まいづくりのヒントが見つかるでしょう。