ぐるり雑考

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大埜地の集合住宅・その2

西村佳哲

(つづき)この住宅地の植栽は園芸市場で買ってこない。流域の農家さんの圃場の樹木と、あと、近くの山で採った種で苗を育てている。高校生が。

大埜地の集合住宅 田瀬理夫

約2年前、ランドスケープデザイナーの田瀬さんは、町の高校で地域植生を教える片岡氏に出会い、一緒に周辺の山を調査。秋になって高校生と山に入り、彼らと種を集めた。

大埜地の集合住宅 高校生

大埜地の集合住宅 実生

農業高校なので温室がある。ポットに植えて発芽させて。いろいろな樹種の苗が育って。いよいよこの9月には植え付けが始められそう。植栽工事のすべてを任せるわけではないけど、少なからぬ面積を高校生が担当する。造園土木科があるので、ずばりど真ん中なんですね。

大埜地の集合住宅 農業高校 温室

大埜地の集合住宅 発芽

公共工事に高校生がかかわっていると聞いて「?」と思う人がいるかもしれないが、これは町の工事だから出来ることだ。たとえば民間の分譲なら竣工時点である程度の商品性を持っている必要がある。が、町営の賃貸住宅なので、木々や植物もゆっくり大きくなればいい。工期は4年に渡るのであと3学年分くり返される。
彼らは〝自分が採った種が町の景観になってゆく〟経験をするわけで、すこし羨ましい。

最近「地域留学」という言葉が聞かれるようになった。各地の公立高校が、地域の外に国内留学生を求めている。
その背景を少し書くと、商業高校や実業高校は地域の人材育成を担ってきたが、近年は一般的に普通科指向が強く、学力重視で、点数のいい子ほど都会に送り出されやすい。市町村の教育委員会は中学校までで、公立校は高校から県教育委の管轄になる。つまり、町にある高校に町が関わりにくい構造がある。

結果的に〝高校〟が地域人材の流出口になってしまいやすい状況があって、課題視したいくつかの自治体が、高校のあり方を変える試みを始めている。地域留学はその解決策の一つだ。

で、カリキュラムには地域学や、地域の課題解決が組み込まれることが多いようだ。神山の場合、それが「これからの町をつくるプロジェクトを一緒にやる」という、とてもダイレクトな形になっているところが面白いと思う。

学外での活動が増えるので、いろいろな大人に触れるし姿を見ることになる。子どもの人生観はまわりの大人から受ける影響が大きい。以前東京で「大学を出たら嫌な仕事でも我慢して働かないといけなんですよね」と語る学生に出会ったことがあるのだけど、彼女のまわりには、そんなふうに見える大人が多かったんだろう。
その大人たちがここでは、本人もはじめてのことに一所懸命取り組んでいるわけだ。「どうしよう!(焦)」と笑いながら、力の出し惜しみなく働いている大人にたくさん出会えると面白くなるんじゃないかな。人生が。

数日前に4組の家族が移り住んで、灯りもともるようになった。この南側の庭先で来月、高校生と大人がエッチラオッチラ汗をかきます。

大埜地の集合住宅

著者について

西村佳哲

西村佳哲にしむら・よしあき
プランニング・ディレクター、働き方研究家
1964年東京都生まれ。リビングワールド代表。武蔵野美術大学卒。つくる・書く・教える、三種類の仕事をしている。建築分野を経て、ウェブサイトやミュージアム展示物、公共空間のメディアづくりなど、各種デザインプロジェクトの企画・制作ディレクションを重ねる。現在は、徳島県神山町で地域創生事業に関わる。京都工芸繊維大学 非常勤講師。

連載について

西村さんは、デザインの仕事をしながら、著書『自分の仕事をつくる』(晶文社)をはじめ多分野の方へのインタビューを通して、私たちが新しい世界と出会うチャンスを届けてくれています。それらから気づきをもらい、影響された方も多いと思います。西村さんは毎日どんな風景を見て、どんなことを考えているのだろう。そんな素朴な疑問を投げてみたところ、フォトエッセイの連載が始まりました。