「ていねいな暮らし」カタログ
第26回
アメリカ発の”Small Gatherings”
——『KINFOLK』
今回は、アメリカはオレゴン州ポートランドで創刊された『KINFOLK』について取り上げてみたいと思います。海外でも暮らし系雑誌はいくつも出されていますが、その中で日本でも有名なものと言ったら、本誌の右に出るものはないのではないでしょうか。本誌については、個人のブログや研究論文など、さまざまなメディアで言及されていますので、この連載でも数回に分けて取り上げて見たいと思います。
すでによく知られているように、『KINFOLK』はネイサン&ケイティ夫妻と二人の友人夫婦によって、2011年7月に創刊しました。当初はオンライン・マガジンとして始まり、その後サンフランシスコのWeldon Owenから紙雑誌として刊行されましたが、7号からは独立しています。日本では、洋雑誌として異様な売れ行きを見せていたとの記述もあり1、日本版が2013年にネコ・パブリッシングから発行されています。本誌は、書店の暮らし系雑誌棚の中でもひときわ分厚い(毎号だいたい180ページほど)雑誌です。初期の表紙は上部1/4が白地にタイトル、それ以外の部分にパステルカラーを基調とした写真が使われ、本誌の内容については下部に小さく付されるのみとなっており、静謐なイメージを前面に出す形となっています。
本誌の基本コンセプトは、”a guide for small gatherings”=「小さな集いのための手引き。」です。例えば、家族や友人たちと過ごす食事をどのように(特別なものとして)過ごすかなどを提案し、”kinfolk”=親戚という言葉に表れるような、身近な物ごとや身近な人たちとの関係性を見直すための指標が、長めの文章と「インスタグラムっぽい」写真とで構成されています2。
ここまでを見てもわかるとおり、『KINFOLK』は、自分たちのライフ(スタイル)を見直すことが全体のテーマで、それを伝えるレイアウトはミニマルな形を取り、こういった雰囲気をフォローする人たちがインスタグラムを中心に現れただけでなく(ましかく写真!)、本誌がポートランドという、いまやライフスタイルの代名詞となった一都市から刊行されたことなど、これまでの『クウネル』や地域文化誌の分析の中で取り上げた観点が見事にミックスした事例が『KINFOLK』からも見えてきそうです。次回以降では、『KINFOLK』のレイアウトや反響に着目しながら、日本の暮らし系雑誌との共通点や相違点について考えてみたいと思います。
(2) この「インスタグラムっぽい」という点は、Summer Allenのブログの中でも批評的に言及されており、彼女は「Kinfolkっぽいインスタグラム写真」を集めたTumblrサイトも開設しています。参照:THE KINSPIRACY ( https://thekinspiracy.tumblr.com ) 2019年4月18日参照。