色、いろいろの七十二候

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土潤溽暑・ぬか漬け

ぬか床ににいろいろ入れてみたり変わり種を漬けてみたり
こよみの色
大暑
向日葵色ひまわりいろ #FCC800
土潤溽暑
藍白色あいじろいろ #EBF6F7

今回のテーマは「漬物」。古くはどこの家でも作っていたであろう漬物も、近頃ではスーパーマーケットで購入するばかり、という人も増えたようです。イラストの家庭では、世代を越えてぬか床という伝統を受け継ぎながら、いろんなものを入れてみたり、変わり種を漬けてみたりと、新しいことにも挑戦しています。

シロウリの学名はCucumis melo var. conomonです。「conomon」という言葉が入っています。これは漬物を指す「こうもの」を由来にした名です。もともとは「香」は味噌のことを指し、本来の「香の物」は味噌漬けを指していたようです。「お新香」も漬物の呼び名の一つですが、古漬けではなく、新しい香の物、ということで、浅漬けを指していたようです。

漬物は最古の料理、といわれます。塩さえあれば漬物はできますし、また冷蔵庫のない時代には塩分によって水分を食品から追い出すことが重要な保存方法でしたから、塩漬けだけでなく、味噌漬けや粕漬けなど、さまざまな漬物が生まれます。こうした漬物に比べると、実はぬか漬けの歴史は、そんなに古くは無いようです。

ぬか床の主原料は、その名の通り米ぬかです。当然米ぬかが手に入らなければぬか漬けもできません。庶民が白米を食べる(すなわち、ぬかが出る)ようになったのは江戸時代に入ってからで、ぬか漬けもこの頃から普及しだしたようです。

ところでこのぬか漬け、日本農林規格(JAS)に定義があります。

農産物漬物の日本農林規格 | 農林水産省
http://www.maff.go.jp/j/kokuji_tuti/kokuji/k0001017.html

これによると、「農産物ぬか漬け類」は、

  1.  農産物漬物のうち、ぬか類に砂糖類、塩等を加えたもの(以下「塩ぬか」という。)に漬けたもの
  2.  1を砂糖類、果汁、みりん、香辛料等又はこれらに削りぶし、こんぶ等を加えたものに漬け替えたもの
  3.  1を塩ぬかに砂糖類、果汁、みりん、香辛料等を加えたものに漬け替えたもの

と定義されています。1はいわゆるぬか漬けですが、2や3は、1で漬けたものを、それぞれの床(液?)に漬け替えたもの、ということですが、どうもぬか漬けといいながら、何か調味液的なものにつけてぬかをちょっと塗りつけただけではないか、というようなものが売られていたりします。ぬか漬けではなく、漬け物としてでしたら、それはそれでありなのでしょうけど、それでぬか漬けと言われてもね、なんて言いたくもなるけれど、でも待てよ。ぬか漬け自体も、冷蔵庫の出現や高血圧という圧力もあって、塩分濃度は昭和中頃に比べるとずいぶん減っています。かつてのぬか漬けを知っている人から見れば、いまのぬか漬けはみんな違う、と言われても不思議ではありません。

洋食化が進み、パンの消費量が米を上回る時代になりました。家庭の味だった漬け物も、外から買うものになっていて、漬け物の味自体を知らない子どもたちもいるかもしれません。けれど、こんな言葉に頷く人も、まだ多いはず。

私は長いあいだ漬物の味を知らなかった。ようやく近頃になって漬物はうまいなあとしみじみ味うている。
清新そのものともいいたい白菜の塩漬もうれしいが、鼈甲べっこうのような大根の味噌漬もわるくない。辛子菜の香味、茄子の色彩、胡瓜の快活、糸菜いとなの優美、――しかし私はどちらかといえば、粕漬の濃厚よりも浅漬の淡白を好いている。
よい女房は亭主の膳にうまい漬物を絶やさない。私は断言しよう、まずい漬物を食べさせる彼女は必らずよくない妻君だ!
山のもの海のもの、どんな御馳走があっても、最後の点睛てんせい※1はおいしい漬物の一皿でなければならない。
漬物の味が解らないかぎり、彼は全き日本人ではあり得ないと思う。そしてまた私は考える、――漬物と俳句との間には一味相通ずるところの或る物があることを。――

漬物の味〔扉の言葉〕 種田山頭火

保存技術や、入手できる食材や、健康志向といった時代背景が変われば、食も変わります。伝統というのは頑なに変わらないものではなく、本質を残して変わっていくものでもあります。
漬け物に関して言えば、それは化学調味料で作られた調味液で作られるものではなくて、ぬか床を大切にして、アレを入れてみよう、コレを漬けてみよう、というところからはじまったら素敵ですね。

※1:欠くことのできない重要な点を最後に加えて、物事を完成すること。

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから再掲載しました。
(2014年07月23日の過去記事より再掲載)