色、いろいろの七十二候
第36回
楓蔦黄・秋の夜長
鶸色 #D7CF3A
刈安色 #F5E56B
二十四節気は「霜降」を迎えました。末候は「楓蔦黄」。東北などの北国では大地に霜が降りるようになり、紅葉する地域も少しずつ広がっていきます。また、この時季に吹く風を「木枯らし」と呼びます。
秋分の頃、昼と夜の長さが同じになります。そこから冬至に向けて日が短くなり、夜が長くなっていきます。
実際に夜が最も長いのは、冬至のころなのですが、「秋の日はつるべ落とし」と表されるように、夏に比べてすっと暗くなってしまうこと、そして日に日に夜が長くなることが実感できることが、「秋の夜長」の所以でしょうか。
芸術の秋という表現は、「日展」「院展」「二科展」の、三大美術団体展がともに秋に開催され、美術の秋、という表現が転じたものだという説があります。
七十二候に目をむけると「楓蔦黄」。生命活動そのものが生み出す、ひとときだけの紅葉は、芸術といっても差し支えないものでしょう。行楽地に出かけて雄大な紅葉群を愉しむのもよいですが、身近なところにも生命の芸術は溢れています。
秋の芸術は、視覚だけでなく聴覚にも訴えてきます。
こんな句からも感じられるように、秋という季節は、日本人の、日本人的な感覚が、一番鋭くなるような季節ではないでしょうか。
ちんちろちんちろ ちんちろりん
あれ鈴蟲も鳴き出した
りんりんりんりん りいんりん
あきの夜長を鳴き通す
あゝおもしろい蟲のこゑ
きりきりきりきり きりぎりす。
がちやがちやがちやがちや くつわ蟲
あとから馬おひおひついて
ちよんちよんちよんちよん すいつちよん
秋の夜長を鳴き通す
あゝおもしろい蟲のこゑ
(文部省唱歌「蟲のこゑ」)
今回の絵のテーマになっていて、「蟲のこゑ」にもある「夜長」も、秋の季語です。
十三夜、十五夜、中秋の名月は良い月が見られたでしょうか。
日本の季節もなんだか変わってきて、夏が終わるとすぐ冬が来るようだ、という声も聞くようになりました。
「霜降」の次は、「立冬」。もう、冬がやってきます。遠ざかる夏と、近づく冬を感じながら、秋の夜長、月を見ながら散歩をして見ませんか。
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから再掲載しました。
(2012年10月23日の過去記事より再掲載)