びおの珠玉記事
第70回
秋から冬の果物、りんご
(2010年11月12日の過去記事より再掲載)
今、店頭にはさまざまな種類のリンゴが並んでおり、私たちの目を楽しませてくれます。
リンゴの旬は秋から冬にかけて。シャリシャリとした歯ごたえ、ほのかな酸味とさわやかな甘味のバランスがよい、人気の果物です。
生で食べるほか、お菓子や料理の材料としても広く利用されています。
今回は、秋から冬の果物、リンゴを取り上げます。
りんごの来歴(1)
原産地コーカサス地方~ヨーロッパ
はじめに、リンゴの来歴について見てみましょう。
リンゴは、あらゆる果物の中で、人類との付き合いが最も古いものといわれています。
古い時代には、「アップル」は「果物」を意味する言葉だったそうです。
リンゴの原産地は、西アジアのコーカサス地方(カスピ海と黒海にはさまれたカフカス山脈のあたり)。
栽培の歴史は古く、トルコでは約8000年前のものと見られる炭化したリンゴが出土、またスイスでも約4000年前のリンゴの化石が見つかっています。
ギリシア時代、紀元前300年頃、アレクサンドロス大王がペルシャ(現在のイラン)に遠征したときに同行した哲学者のテオフラストスは、リンゴの原産地カフカス山脈を通ったときに、いくつもの野生のリンゴをギリシアに持ち帰ったといわれています。
そして、実の大きな栽培向きのものと、実の小さな野生種とを区別しました。テオフラストスは、リンゴを接ぎ木で増やす方法や、栽培法なども研究しました。
テオフラストスが持ち帰ったリンゴは、やがて広く栽培されるようになりました。
ローマ時代には、既に30品種ものリンゴが栽培され、リンゴはブドウとともにデザートとして食べられていました。
そして寒冷な気候を好むリンゴは、次第にヨーロッパの北の方へ伝えられていきました。
6~7世紀ごろから品種改良が始まりましたが、それは主にヨーロッパの北部で行われました。
さて、ヨーロッパの水はミネラルが多い硬水で、飲用には適さないとされます。
水の悪い地域では果物から飲料水を得ることが多く、例えばアフリカでは甘くないスイカの果汁を使います。
暖かくブドウがよく育つ南ヨーロッパでは、ブドウからワインをつくり飲料水や薬のかわりにしました。
このため、スペイン・フランス・イタリアなどのラテン系の人たちは、ブドウを大切にします。
これに対して、涼しく、ブドウの栽培ができない北ヨーロッパでは、リンゴを栽培し、リンゴを加工したサイダーやリンゴ酒を飲料水のかわりとして利用しました。
このことから、イギリスなどのアングロサクソンの人たちは、リンゴを大切にしています。
リンゴは、実の大きな改良種を「アップル(apple)」、野生種など実の小さなものを「クラブアップル(crab apple)」と呼び分けます。
主に、苦味や酸味のあるクラブアップルを発酵させ、糖分をアルコールと二酸化炭素にかえたものが「サイダー(cider)」=リンゴ酒です。
(フランス語では「シードル(cidre)」。英語で「ハードサイダー(hard cider)」はリンゴ果汁を発酵させたもの・リンゴ酒、「スウィートサイダー(sweet cider)」はリンゴジュース・発酵させないものを意味します。)
クラブアップル(クラブリンゴ)は、庭木や鉢植えなどの観賞用にも用いられますが、ヨーロッパにはサイダーやシードルをつくるための選ばれた品種があります。
ちなみに、ニュートンが万有引力を発見するヒントになったリンゴの木は、イギリスの田舎町ウールスソープにある母の家の庭に、サイダーやパイなどに利用するために植えられていた「フラワーオブケント」という品種なのだそうです。
りんごの来歴(2):アメリカへ
17世紀ごろ、多くの人々がヨーロッパからアメリカ大陸に移住しました。
このとき移住者は、アメリカの水がヨーロッパと同じように飲用に適さない硬水だろうと考え、飲料用のサイダーをつくるためにリンゴの苗木やタネをアメリカに持ち込みました。そして、開拓した家のまわりにリンゴを植えました。
その後、アメリカにリンゴが広まり、さらには19世紀以降、イギリスやアメリカで多くの品種がつくられ、リンゴ産業は世界に発展することになりますが、それは、「リンゴの聖者」と呼ばれるジョナサン・チャップマンのおかげだといわれています。
1774年、アメリカ北東部マサチューセッツ州ボストンの近くに生まれたジョナサン・チャップマンは、サイダー工場から出るリンゴの搾りカスからタネを集め、それを持って、西部開拓者たちとともに旅をして各地をまわりました。そして、農民や入植者たちにリンゴのタネを渡し、生育に適した場所にタネをまいて大切に育てるよう、指導して歩きました。
粗末な服を着て、白いあごひげを生やし、リンゴのタネの入った袋を背負って裸足で50年もの間、各地を歩きまわったといわれています。「種まきジョニー」のニックネームもあったそうです。
ジョナサン・チャップマンがタネをまいたリンゴの木は、大木になってアメリカ東北部の各地に根付き、いろいろな色や味の果実を実らせました。
このことによって、リンゴには多くの異なった特性とそれに関係する遺伝子があることが示されました。そして、これらのリンゴの木を親木として、新しい品種を育てる研究が続けられました。
その先に、現在のおいしいリンゴの品種があるといえます。
今でも世界中で栽培されており、生で食べたり、アップルパイやジャムなどの加工用として人気があるリンゴ「紅玉」は、アメリカの古い品種ですが、英語名を「ジョナサン」といいます。ジョナサン・チャップマンにちなんで名づけられました。
元 長野県果樹試験場・場長の小池洋男さんは、編著書『そだててあそぼう[54] リンゴの絵本』(農山漁村文化協会、2003年)のあとがきで、このことがよくわかる、次のようなエピソードを書いていらっしゃいます。以下、引用してご紹介します。
国際会議などで欧米の国々を訪れて、リンゴが人々の伝統的な食文化に根づいたくだものであることを知らされました。
フランス・ブルターニュ地方の農家で味わったそば粉のクレープとリンゴ酒(シードルやカルバドス)、パリやミラノの路地裏市場に山積みされた小粒リンゴを買い求めて丸かじりしながら散歩を楽しむ人々、ブルガリア・ソフィア近郊の農家のデザートにふるまわれた酸味のきいたリンゴたっぷりのアップルパイ、息も凍るような厳冬のカナダ・オンタリオ湖近くの農家レストランで味わったメイプルシロップ入りホットサイダー(リンゴ酒)、イタリア・ドロミテアルプス山麓南チロル地方の農家民宿でシャルドネ種ワインとともに味わった焼き栗と焼きリンゴ、ニュージーランド北島ネーピア市で味わったアップルソース添えベニソンステーキ(鹿肉)、モスクワのホテルで味わった酸味のきいたリンゴスライス添えキャビア、アメリカ・ワシントン州コロンビア河沿いの大リンゴ農園で働くメキシカン労働者と丸かじりした酸っぱい青リンゴ・グラニースミスなどなど、“一日一個のリンゴは医者を遠ざける”のことわざ通り、リンゴが日常的に利用されているのです。
りんごの来歴(3):日本でのりんご
さて、日本では、もともと中国や日本原産のワリンゴ、リンキ、イヌリンゴなどが「林檎」の名で呼ばれていました。江戸時代には栽培もされていましたが、これは今のリンゴとは違う種のリンゴでした。果実が小さく、味もよくなかったようです。
現在のようなリンゴが日本へ伝えられたのは、明治時代になってからです。
明治初期に欧米から導入されたアップルは、果実が大きく品質がよく、在来の林檎と区別するために「苹果(ひょうか/へいか)」、「西洋リンゴ」、「大リンゴ」と呼ばれるようになりました。
そして、在来の林檎は西洋種の導入とともに衰退し、現在は単にリンゴといえば西洋リンゴのことを指すようになりました。
日本での本格的なリンゴ栽培は、明治5年に明治政府がアメリカから75品種を導入したのが始まりです。東京青山で育苗が開始され、増殖した苗を各地に配布しました。この時のリンゴの苗が、今日の国内栽培の源になっています。
当初は津軽藩などの士族授産を目的とし、政府の内務省勧業寮や北海道開拓使が旧藩士らに苗木を配ったそうです。
当初導入された外来品種には、
・紅玉(原名:ジョナサン)
・国光(原名:ロールス・ジャネット)
・祝 (原名:アメリカン・サマー・ぺアン)(以上アメリカ産)
・旭 (原名:マッキントッシュ・レッド)(カナダ産)
など、日本名がつけられました。
これらの品種は、東北地方、北海道、長野などでさかんに栽培されました。
その後、大正になって、デリシャス・ゴールデンデリシャス・スターキングデリシャス(いずれもアメリカ産)など、多数の品種が導入され、各地に普及していきました。これらは原名のまま日本に根付きました。
昭和になって、これらの品種をもとに品種改良が始まりました。特に紅玉と国光は重要な役割を果たしました。そして、多くの優れた品種がつくり出されていきました。
品種改良は、青森県南津軽郡藤崎町にあった元・農林省園芸試験場東北支場(その後の果樹試験場盛岡支場、現・独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所 リンゴ研究拠点)と、黒石町の青森県りんご試験場(現・青森県農林総合研究センターりんご試験場)が中心となって行われました。
津軽の地からは、ふじ・あかね・はつあき・ひめかみ・さんさなど、多くの優れた品種が送り出されました。なかでもふじは、国内生産の約半分を占める日本一の品種となりました。中国、アメリカ、ブラジルなど海外でも広く栽培されており、世界でも最も生産量が多い品種です。「世界で一番おいしいリンゴ」ともいわれます。
このように、日本での(西洋)リンゴの歴史は長くありませんが、リンゴは、今ではすっかり日本の食卓に欠かせない、私たちにとってなじみの深い果物となりました。
国内の果物の生産量では、リンゴは第2位です。(第1位はミカン)
栽培には、涼しくて雨の少ない地域が適しています。
栽培面積は、青森県が約50%、次いで長野県が約20%となっています。その他、岩手県・山形県・秋田県・福島県・北海道・群馬県などからも出荷されています。
一方で、ふじのように温暖な地域でも栽培できる品種もあり、栽培は各地に広がっています。
さまざまなりんごの品種
世界には、約15,000種ものリンゴの品種があるといわれます。
日本でも、約2,000種の品種がつくられてきました。そのうち、実際に栽培されている品種は数10種です。
上でふれた品種のほか、青森からは、陸奥・東光・王鈴・恵・世界一・つがる・北斗などが育成され、リンゴ業界を支えています。秋田からは千秋・アキタゴールド、福島からは王林、北海道からはハックナイン、群馬からは陽光・新世界・赤城、長野からはシナノゴールド・アルプス乙女などが育成されています。
なお、リンゴの中には「サンふじ」「サンつがる」など「サン~」と呼ばれるものがありますが、これは袋がけせずに日光に当てて育てたものです。
袋がけしたものと比べると見かけはよくありませんが、糖分が多く甘味が強いため、人気があります。ビタミン類なども有袋栽培のものより多いそうです。
「1日1個のりんごは医者を遠ざける」
さて次に、リンゴの栄養・効能について。
ヨーロッパには、「1日1個のリンゴは医者を遠ざける」(1日1個のリンゴで医者いらず)ということわざがあります。
古くから栄養価の高い果物として親しまれてきたリンゴ。
リンゴに含まれる、注目の成分について見てみましょう。
果物の糖分、ブドウ糖・果糖・ショ糖にはそれぞれ働きがあります。
リンゴには果糖が主に含まれています。果糖には脂肪をエネルギーに変換する作用があるので、運動の際に必要なスタミナ補給源として適しています。
リンゴには、利尿作用があるカリウムが含まれています。
高血圧の原因となるナトリウムが水分と一緒に体外に排出されるので、血圧を下げるのに有効です。心臓病や脳卒中の予防に効果があるといわれます。
リンゴの甘酸っぱさの成分であるリンゴ酸には、炎症を抑える作用があり、せきを止めたり、粘膜を保護する効果があります。
風邪のときなどにすりおろしたリンゴを食べるのは、このような効果があるからです。すりおろせば楽に食べられますし、消化もよいです。
また、リンゴはナシやモモ、ミカンに比べると体を冷やすことがなく、体力の回復に最適です。
水溶性の植物繊維ペクチンには、腸の働きをととのえる作用があります。便秘の解消、大腸ガンの予防に効果があります。
ペクチンは熱に強い成分なので、調理して熱を加えても、効果は失われません。ただ、ミキサーにかけると、急速な回転のため成分が壊れてしまうので、要注意です。
リンゴの赤い皮にはアントシアニンが、白い実の部分にはフラボノイドの一種ケラセチンが含まれています。
これらはいずれも強い抗酸化力のあるポリフェノール類で、血液中のコレステロールの酸化を抑制して、動脈硬化を予防します。
また、最近の研究では、リンゴを食べていると中性脂肪が増えないこと、免疫力が高まること、アレルギーが抑えられることなどが明らかになったそうです。
そしてイタリアでは、禁煙にリンゴがいいといわれているそうです。
リンゴを食べながらタバコを吸うことを毎日続けていると、だんだんタバコの味がまずくなって、禁煙できるということのようです。これは、リンゴに含まれる成分とタバコの成分ニコチンが反応するためと考えられています。
こうして見てくると、古くからいわれているとおり、リンゴはとても身体によさそうですね!
リンゴは生食されることが多いので、ビタミン・ミネラル類がストレートに吸収されてとても効率がよい、ということもポイントです。(野菜にもビタミン・ミネラル類が豊富に含まれていますが、調理することで壊れてしまうことが多いのです。)
また、毎日少しずつ食べられるので、これらを微量でも毎日体内に取り入れることができます。
りんごのお菓子に挑戦!-アップルパイ
さて、今回、紅玉・秋映・王林のリンゴを入手しましたが、これらを使って、リンゴのお菓子と料理に挑戦してみました。
まずはお菓子。
リンゴを使ったお菓子のレシピはたくさんあって、どれにしようかさんざん迷いましたが、リンゴのお菓子の定番でもあり、昔からの憧れでもあった“網目の”アップルパイに挑戦!
記者は初めての挑戦なので、うまくできるかどうか不安ですが…。
『季節の保存食』(石原洋子 著 家の光協会 2008年)のレシピを参考に、つくりました。
アップルパイづくりに先立って、アップルパイに使う「ラム酒漬けレーズン」をつくっておきました。
煮沸消毒した瓶にドライレーズンを入れ、ラム酒を注ぎ、漬けておきます。冷暗所で保存。
ドライフルーツを買うときは、なるべく油を添加していないものを求めるとよいそうです。
漬けこんで2~3日から利用でき、何年でももつとのこと。
洋酒に漬け込み、時間がたって真っ黒になったドライフルーツは、まろやかな味わいになり、それを入れて焼き込んだお菓子は、しっとりとして年代物のケーキのようになるそうです。…おいしそう!
ラム酒漬けレーズンに関して言えば、いつでもラムレーズンのアイスが食べられる…これもポイント高し!です。
さて、まずはアップルパイに入れる「りんごの甘煮」をつくります。
材料は次のとおりです。
(参考書籍は、保存用の分量なので、多くなっています。今回は、アップルパイに入れる分量だけつくりました。)
参考書籍の分量 | 今回使った分量 | |
りんご | 6~8個(2kg) | 紅玉5個(約1kg) |
グラニュー糖 | 200~250g | てんさい糖 100g |
レモン汁 | 大さじ1 | 大さじ1/2程度 |
りんごは、一般的にアップルパイに向いているといわれる紅玉を使いました。
参考書籍の著者、石原洋子さんは「ふじは甘さも酸味もあり、煮たときの弾力も残っていて、紅玉の食感よりも私は好きです」と書いています。自分の好みのりんごを使うということでよいのではないでしょうか。
(1)りんごは皮をむいて縦に8等分に切り、芯を取り除いて、1cmの厚さのいちょう切りにします。
りんごをごしごし洗って、皮をむこうと手に持ったところ…りんごがツヤツヤしていて、あまりにおいしそうだったので、思わず写真を1枚パチリ。
後ほどりんごの皮を使いたいので、ぐるぐる丸く皮をむきました。
そしていちょう切りに。
りんご5個分なので、かなりの量です。
(2)ほうろうかステンレスの鍋にりんごとグラニュー糖を入れ、ふたをして中火にかけ、水が上がってきたら、ふたを取ってやわらかくなるまで煮ます。
途中、味をみて好みの甘さにし、レモン汁を加えて仕上げます。
せっせといちょう切りにしたりんごをほうろうの鍋に入れます。わりと大きめの鍋なのですが、りんごでいっぱいになってしまいました。
そして、砂糖を入れ、ふたをし、中火にかけます。今回はてんさい糖を使用。
しばらく煮ていると、辺りにりんごのいい香りが漂いはじめ、水が上がってきます。
ふたを取ってやわらかくなるまで煮ます。
途中で味をみて、少しだけてんさい糖を追加しました。
それでも、甘さは控えめです。
大分やわらかくなってから、レモンをしぼり、レモン汁を加えました。
それからもう少し煮て、完成です。
りんごの甘煮は、冷蔵保存し、2週間くらいで使いきるとよいそうです。
シナモンをふってトーストにのせたり、そば粉のパンケーキにも合うのだとか。
さて、りんごの甘煮ができたら、いよいよアップルパイづくりです。
材料は次のとおりです。
<18cmパイ皿1個分>
・市販のパイ生地 3~4枚
・りんごの甘煮 800g
・ラム酒漬けレーズン 50g
・シナモン 小さじ2 (今回は小さじ1強を使用)
・溶き卵 1/2個分
(1)パイ生地を3mmくらいの厚さにのばし、パイ皿に敷き込みます。
別にたすき用に1.5cm幅のリボン状に切った生地を、12~13本用意します。
今回は手軽に、市販のパイシートを使用。
手軽に、なのですが、記者は扱い慣れていないため、パイシートを薄くのばしてパイ皿に敷き込むのに、かなり苦労しました…。
(2)りんごの甘煮にレーズンを混ぜ込み、シナモンをふり、パイ皿に均等に詰めていきます。
今回使ったシナモンは、かなり香りが強かったため、半分ぐらいの分量に減らしました。
ラム酒漬けレーズンを混ぜ込み、シナモンをふったりんごの甘煮を、パイシートを敷き込んだパイ皿に詰めていきます。
「フィリングはこのときとばかり、贅沢にぎっしり詰めます」とのこと。
お言葉のとおり、つくったりんごの甘煮を全て、たっぷり詰め込みました。
(3)表面にリボン状の生地を、交互に格子状に置きます。
縁に溶き卵をぬって、ぐるりと1周、フォークの背で軽く押さえつけます。
はみ出したパイ生地は指で押さえつけて切り取ります。
最期にはけで溶き卵を塗り、照りをつけます。
リボン状の生地を、交互に格子状に置いていくと、憧れの“網目に”!
ちょっとうれしいです。
はみ出したパイ生地を切り取るときには、包丁も使いました。
切り取った余りのパイ生地も、溶き卵を塗って、ひじき藻塩・さくらえび塩をふって、一緒に焼いてみることにしました。
なんとかアップルパイの形になって、初挑戦にしてはまあまあかな?とほっと一息。
(4)200度のオーブンで約40分、焼き色がつくまで焼きます。
予熱したオーブンに入れて、焼き開始!
そして片づけなどをしつつ、待つこと40分。
ピーピーとオーブンの音がして…焼き上がりました!
おっ、いい感じの焼き加減では?
オーブンから取り出してみます。
取り出した後も、パイの中のりんごの甘煮が、しばらくぶつぶつと沸騰していました。
アップルパイ、完成です!
憧れの“網目の”アップルパイができ上がって、感激。
オマケで焼いたパイ生地も、ちょっと焼きすぎてしまいましたが、おいしくいただけそうです。
ところが、いざ食べる段になり、わくわくしながらアップルパイにナイフを入れたところ、下のパイ生地がりんごの甘煮の水分を吸ってふやけてしまっていました。うまく切れませんし、パイのサクッと感もありません。
りんごの甘煮は、もっと水分をとばした方がよかったようです…失敗。残念。
やっぱり、お菓子づくりは経験ですね。(何事も、ですが。)
次につくるときには、同じ失敗はしませんよ~!
りんごの皮はアップルティーに
さて、アップルパイに使ったりんごの皮ですが、アップルティーにできる!という耳寄りな情報を見つけ、やってみることにしました。
『濱田美里の季節の手仕事帖 漬ける・干す・保存する』(河出書房新社 2008年)を参考にしました。
・りんご(できれば無農薬のもの) 好きなだけ
・好みの紅茶の葉 適量
りんごはよく洗って皮をむき、皮をざるに入れて3日以上干します。(洗濯ばさみで干してもよいそうです。)
そして、ティーポットに好みの茶葉と一緒に、干したりんごの皮を好きなだけ加え、熱湯を注ぎます。
3日後から飲むことができ、常温で3週間保存できるそうです。
参考書籍の著者、濱田美里さんは「りんごの皮を入れた紅茶はお砂糖を入れずとも甘いので驚きます!爽やかな香りをかぐと気持ちが落ち着くので、無農薬のりんごが手に入るといそいそと皮を干します」と書いています。
これまで、香料でりんごの香りがつけられたアップルティーは何度も飲んだことがありますが、りんごの皮が入っているアップルティーは飲んだことがありません。
砂糖を入れなくても甘い…どんなでしょうか。楽しみ!
ペクチンやポリフェノール、ビタミンなど、りんごの優れた成分は、皮と果実の間にたっぷり含まれているので、そういった意味でもよさそうです。
また、りんごのさわやかな香りは、ほとんど皮の部分から発しているそうです。皮から出るりんごの香り成分は、リラックス効果もあり、疲れを癒してくれます。
りんごの皮は、乾燥させるとよりいっそう香り豊かになりますが、干さずに、生のままアップルティーにすることもできるようです。
今回参考にした書籍のレシピには、「アップルティーにするりんごの皮は、できれば無農薬のもの」とありますが、無農薬のりんごを手に入れるのはなかなか難しいことなのでは、と思います。
日本は雨が多く、またりんごは生育する時期に高温多湿になるため病虫害が発生しやすく、りんごは農薬を散布しないと栽培が難しいといわれているのです。
りんごの品種改良があまりに多く行われてきたため、原種から程遠いものになっているということも関係があるようです。
しかし、環境の問題と食の安全が問われる中で、化学肥料や農薬を減らす取り組みが行われています。
例えば、天敵昆虫(ダニを食べるダニや、アブラムシを食べるテントウムシなどを放して、害虫を減らす)や、フェロモン剤(果樹園の中に害虫の雌が出すものと同じフェロモンを漂わせて、雄が雌の居場所を見つけることができないようにして、害虫に卵を産ませないことで被害を減らす)を利用した、農薬をなるべく使わない害虫の防除法が行われています。
また、通常、農薬の使用は、栽培が始まる前に1年間の散布回数と散布農薬を決めて行いますが、そうではなく、害虫の量やりんごの木、園内と周囲をよく観察して、必要に応じて農薬散布を行うようにし、農薬を減らすという取り組みも行われています。
近年マスコミ等に取り上げられていてご存じの方も多いかと思いますが、10年近く収穫ゼロになるなど苦難の道を歩みながら、不可能といわれてきた無農薬・無肥料のりんご栽培に成功した木村秋則さんのりんごは「奇跡のりんご」と呼ばれました。
今回、りんごの皮をアップルティーにしたいと思っていましたので、“化学合成農薬は使っていない”(フェロモン剤などの方法を利用しているとのこと)というりんごを入手して、使いました。
りんごを使った料理に挑戦!
豚肉のソテー アップルソース
りんごを使って何かをつくるというと、お菓子のイメージが強いのですが、今回はりんごを使った料理にも挑戦してみることにしました。
りんごの料理…といっても、あまり思い浮かばなかったのですが、探してみるといろいろなレシピが見つかりました。迷った結果、挑戦することにしたのは「豚肉のソテー アップルソース」。
『リンゴノオカシ』(生活実用シリーズ suki!13)(脇 雅世 著 日本放送出版協会 2001年)のレシピを参考にして、つくりました。
材料は次のとおりです。
参考書籍の分量 (4人分) |
今回使った分量 (2人分) |
|
豚ロース肉 (とんかつ用) |
4枚 | 2枚 |
塩・こしょう・強力粉 (肉の下準備用) |
各少々 | 各少々 |
りんご(つがる) | 1個 | 1/2個(りんごは 王林を使用) |
カルヴァドス | 大さじ2 | 大さじ1 |
白ワイン | カップ1/2 | カップ1/4 |
クレソン | 4本 | クレソンがないため、 ルッコラを使用:適量 |
サラダ油 | 大さじ1 | 大さじ1/2 |
塩・こしょう | 各少々 | 各少々 |
「カルヴァドス」は、フランス北西部ノルマンディー地方特産の、りんご(および洋梨)を原料とするブランデーのことです。ブランデーとして飲まれるほか、お菓子や料理の風味づけにも使われます。
では、張り切ってつくります!
(1)豚肉は筋を切り、軽くたたいて塩、こしょうをふり、強力粉をまぶします。
(2)りんごは皮をむき、ヘタと芯を除いてせん切りにします。
今回、りんごは王林を使いました。
りんごを細かく切りましたが、これが料理のソースになるって、なんだか不思議。
(3)フライパンにサラダ油を熱し、豚肉を入れて両面をこんがりと焼きます。
カルヴァドスを加え、強火にしてアルコール分を飛ばします。
白ワインを加えてしっかりからめたら、豚肉は器に取り出しておきます。
豚肉はなかなかいい色に焼けました。
カルヴァドスを加えると、フライパンから景気のよい音が。油も飛びますが、「料理をしている」という実感がわきます。
白ワインを加えてからめ、豚肉を取り出しました。
フライパンには白ワインがかなり残っています。
(4)3のフライパンに続けてりんごを加え、しんなりするまで中火でいためて、塩・こしょうをふります。
白ワインの水分がほとんどなくなるまで、じっくりいためました。
(5)豚肉の上にりんごをのせ、クレソン(今回はルッコラ)を飾ります。
でき上がりました!
幾分か気合いを入れて料理に臨みましたが、意外と簡単にできました。
どんな味なのでしょうか?!
実は記者は、料理に果物を入れるのはあまり好きではなく、その先入観から、「つくってみるけど、ホントにおいしいのかな…?」という一抹の不安を抱いていました。
ところが、実際に食べてみたら、おいしかったです!
第一印象は「さわやか」。
豚肉の脂っぽさが、りんごを一緒に食べることで中和される感じでした。
そんなにりんごが前面に出ているわけでもなく、かといって存在感がないわけでもない。
りんごだけで食べても、「これはりんごの味!」という感じはせず、「料理に果物」の違和感はありません。
一方で、豚肉だけで食べると、ちょっともの足りない感じがします。
一言でいえば、豚肉とりんごは「味が合う」ということですね。見事なパートナーっぷりです。
レシピには、「りんごの甘酸っぱさは、豚肉によくマッチ。カルヴァドス、白ワインとお酒を多めに使って、豚肉とりんごの仲を取り持ちます」と書かれていましたが、納得です。
予想外のヒットでしたので、他にも、りんごの料理に挑戦してみたくなりました。
もちろんお菓子も!
▼あおもり産品情報サイト アップルヒル農産物直売所
http://www.umai-aomori.jp/cook/recipe/apple/apple.phtml
▼りんごの島田フルーツ農園/オリジナルりんご料理レシピ
http://www.avis.ne.jp/~yamaki/reshipi.htm
お菓子もよし、料理もよし。
もちろん、生で食べてもよし。
生でそのまま食べるのがいちばんおいしい!という声も多いことでしょう。
いろいろな品種のりんごを食べ比べてみるのも、おもしろそうですね。
秋から冬の果物、今が旬のりんご、存分に楽しみたいものです。
・そだててあそぼう[54] リンゴの絵本(小池洋男 編、川上和生 絵、農山漁村文化協会、2003年)
・旬の食材 四季の果物(講談社 編 講談社、2004年)
・旬の食べものには驚異的な薬効あり―身近な食べものを見直そう―(中村幸昭 著、朝日ソノラマ、1990年)
・新鮮!おいしい野菜と果物を見つける本(東京青果株式会社・池上正子 編、永岡書店、2003年)
・花図鑑 野菜+果物(芦澤正和、内田正宏、小崎格 監修、草土出版、2008年)
・野菜&果物図鑑(ファイブ・ア・デイ協会・若宮寿子 監修、新星出版社、2006年)
・日本の農業④ 果物を育てる(長谷川美典 監修、岩崎書店、2010年)
・季節の保存食(石原洋子 著、家の光協会、2008年)
・濱田美里の季節の手仕事帖 漬ける・干す・保存する(河出書房新社、2008年)
・リンゴノオカシ(生活実用シリーズ suki!13)(脇 雅世 著、日本放送出版協会、2001年)
・まるごとりんごの本 お菓子から料理まで、ぜーんぶりんごレシピ94(下迫綾美・スズキエミ 著、グラフ社、2009年)