まちの中の建築スケッチ
第30回
ヤマトインターナショナル
——倉庫群と公園に囲まれた事務所ビル——
新コロナウィルスが猛威を振るっている。国は、4月7日に緊急事態宣言を発し、不要不急の外出の自粛を要請している。1か月前にもその兆候はあったが、ヨーロッパやアメリカのはるかに厳しい状況が報じられ、東京人としては、じわじわと鬱々とした気持ちの日々を送っている。
何が不要不急か自ら問わなくては外にも出られないというのは、なかなかつらいものがある。だいたい人から自粛要請などと言われること自体が、精神衛生上よくない。なるべく近くで印象に残る建物はなかったかと思いを巡らせところ、平和島のヤマトインターナショナルビルが思い浮かんだので出かけることにした。
車で環状七号線を馬込から海の方へ走る。第一京浜国道を抜けると、平和の森公園と首都高速道路を跨ぐ、長い高架になっている。その登り口の右手にヤマトインターナショナルビルが、一瞬現れる。我が家から空いていれば10分。朝の渋滞時間帯で、外出自粛と言ってもそこそこ混んでいて20分くらいかかった。このあたりは、物流拠点で大きな倉庫が建ち並んでいるが、公園も広がっている。そんな中で貴公子然と建っているように見える。
1986年竣工だからもう35年になろうというのだが、上半分は金属パネルの外装で下部はタイル張りということもあり、現代建築らしいすっきり感を主張している。設計者の原広司は、集落が建物になったようなという説明をしているが、それは、環七から車で見える公園に面した北側の外観。写真などで紹介されるのは、そちらであるが、南側が広い道路に面しており、こちらが正面でかなり印象は異なる。
スケッチ場所としては、環七のガード下を選び、正面を眺めた。少々面倒な電柱や道路標識、信号などは取り去って、すっきりさせたつもりではあるが、設計者の細かい心配りを活かすのに一苦労。相当歪んでしまったし、開口部もかなりでたらめになってしまった。
原さんの建築の中でも傑作だと改めて思う。もちろん、梅田スカイビルや京都駅の原型もすでにみられる。そしてなによりも、建築主が設計者に敷地条件も含めて委ねたことが、生きているのだと思った。アパレルの本社に相応しい、工場のような街のような、それでいてオフィスビルである。ネットで調べると、今は6階は賃貸になっているようだ。
建物の役割は時代とともに少しずつ変わる。その建物があることで街も変わる。でも、そのためには、その建物が長く存在しないと街を変えることはできない。35年前に平和島にできた建物が、あと何年くらい存在することによって、このあたり、平和島や京浜島が気持ちよいまちになるのかと思った。公園も倉庫群も、もう少し美しい街の要素になりうると思うから。