色、いろいろの七十二候
第77回
紅花栄・夏支度
二十四節気
小満
楝色 #9B92C6
七十二候
紅花栄
萌葱色#86A22F
官公庁をはじめ、5月からクールビズ、というところが増えました。暦の上では立夏も過ぎて、名実共に夏、ということなのでしょうか。
下のグラフは、東京の6月の気温と湿度の推移を表したものです。
青い線が、日最低気温、赤い線は日最高気温、緑は相対湿度のそれぞれ平均値で、1887年から2014年までの127年分の推移がわかります。
日最高、最低気温ともに、年毎のバラツキはあるものの、高度成長期以降、上昇傾向にあることがわかります。
湿度も、同じように高度成長期から、こちらは低下傾向が見られます。
大阪を見てみましょう。
大阪も同じように、高度成長期から温度は上昇、湿度は低下傾向を見せています。
蒸し暑くなった、と感じることが多いのに、どうして湿度は下がっているのでしょうか。
その答えの前に、もう一つ、別の場所のグラフを見てみましょう。千葉県の銚子です。
湿度は東京や大阪に比べるとずっと高く、高度成長期を経ても顕著な変動が見られません。
気温についても同様で、100年前とくらべても大きく上昇している徴候はありません。
もうおわかりでしょうか。
湿度の低下と気温の上昇、これらは都市化に少なからず影響があるようだ、ということです。
都市部には、植物が少なく、地面はアスファルトやコンクリートで固められ、建物もコンクリート造が多数です。
雨が降っても、地面に染み込んだりすることもなく、排水溝から下水に入って遠くに運ばれていってしまいます。植物は水分を保ち、湿気を吸ったり吐いたりする力を持っていますが、アスファルトやコンクリートにはそこまで期待出来ません。
結果、都市化が進むと乾燥も進みます。
温度も同様に、こうした材料で固められ、気化熱による冷却が出来ないばかりか、冷房やその他人間活動による排熱で暖められている…これが都市の気候変動の要因です。
これから夏を迎えると、在京テレビ局がしきりに暑さを訴えるニュース番組を報道します。まあ、確かに東京・大阪にかぎらず、ある程度の規模の都市はみな、湿度の低下と温度の上昇に見舞われています。
湿度が低ければ過ごしやすくなるはずでは…? と疑問を感じます。けれど、気温自体が高く、さらに地面や建物などからの輻射熱が伝わってくる都市部では、湿度の低さを補って余りある体感温度の高さがあるわけですね。
悪い事に、東京で発生した熱(ヒートアイランド)は、風によって近隣に流れていきます。夏の暑さで一躍名を挙げた(?)埼玉県熊谷市の気温は、東京の熱の賜物といえるかもしれません。迷惑な賜物ですが…。
過去のデータは気象庁のWEBサイトで見ることが出来ます。
http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php
(左側で地点を選び、右の「データの種類」から、「観測開始からの月ごとの値を表示」にてデータが表示されます。地点によっては、「観測開始からの〜」が利用できない場合もあります)
昨年、日本創成会議による消滅可能性都市のレポートが話題になりました。自治体も選択と集中をとるべし、地方の中核都市に雇用と公共サービスを割り振るべし、という提言です。中核都市に人口が集まるということは、こと温熱環境でみるかぎりは、東京や大阪と同じ道を歩むということになりそうです。
うまく分散していれば、ヒートアイランドも起きず、その土地本来の気候の中で暮らせるのでしょうけれど、分散は「無駄」、無駄はなくせ、というのはウケるのでしょうね。
それでも、私たちには衣替えという知恵があります。
吉屋信子
吉屋信子がこの句を詠んだのは、ちょうど高度成長期真っ只中の頃でした。今では、分厚いガラスの灰皿というのは見かけることが少なくなって、少々レトロな雰囲気を醸し出すアイテムになっています。100年前に遡れば、ガラスは高級品でした。
気象条件も、どう変わっていくか予断を許しません。衣服にしても建築材料にしても、100年経てば大きく変わります。衣服と同じように、建築も衣替えがしやすいようにしておくことが、長く使える秘訣のひとつです。
(2015年05月21日の過去記事より再掲載)