まちの中の建築スケッチ

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国会議事堂
——権威の象徴としての建物——

国会議事堂

権威と権力は似ているようでかなり異なる。国の制度作りを司るのが国会で、司法や行政と同等な立法権の府である。それは権力であるが権威に裏打ちされていないと、ただの数合わせのゲームのようになってしまう。権力は強制力を持ち現実社会の中の力であるが、権威は受ける側が感ずるもので精神的な力である。
我が国の国会議事堂は、柔らかい肌色系の花崗岩を外装に用いた荘重な建物で、丘の上に座す。正門から、皇居の南に位置する桜田門をかすめる方向に8車線の広い道路が下っている。その両側には公園が配され、都内では珍しく、地形と道路と建物と一体の設計がなされている。坂を見下ろす前方には、丸の内の超高層オフィスビル群が見える。
左右に衆議院と参議院が配され、対称形で幅は200mを超えるが周辺の樹木も生い茂っており全貌を見ることはできない。正面の塔部は高さ65mで、建設当時(1936年)から30年くらい最も高い建物であったという。帝国議会の議事堂がそのまま今の議事堂になっている。まさに権威の象徴と言えるのではないか。
多くの城は、中世は権力の象徴であり権威を誇示するものであったが、今の時代では、多くの国でも、権力の名残りを思い浮かべる文化的存在である。近年の多くの県庁舎や市庁舎は、権威というよりは親しみやすさを感じさせる設計意図が語られる場合が多い。東京都庁舎はそういう意味では少々例外的かもしれないが。
国会議事堂は一度は見学をしたことのある人も多いと思う。議員会館側の裏の通用門から入って、中の豪華な内装や議場を見て回ることになるが、正面からしみじみ眺めるという機会はあまりないのではなかろうか。正面も歩道からだと街路樹に隠れてちゃんと見えないので、少し車道に出て眺めるしかない。
正面から緑に囲まれた議事堂を眺めると、ヨーロッパなどではどの町にも見られるが日本では希少な堂々とした石張りの建築である。民主主義の象徴でもあるはずだが、民意を顧みない政治が行われたときの国会に向けてのデモは、いつも正門前でクライマックスを迎える。そのときの議事堂は権力の象徴でもある。戦後60年安保、70年安保の時は、けっこう連日のように盛り上がって、死傷者も出ている。そして2015年8月は、久しぶりに広い正門前の道路を人が埋め尽くしたことを思い出す。デモ隊にとっては、警察に守られた権力の象徴である。
70年を経過した建築基準法の制度疲労は、もはや百害あって一利なしとも言われるようになっている。これからの持続可能社会に相応しい建築基本法を、心ある国会議員のしっかりした議論により制定されることを願う身としては、この建物がしっかり機能してほしいことを願いつつペンを取った。


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