森里海から「あののぉ」
第15回
垣入
富山県の砺波平野は、散居村の地として知られています。
散居村とは家一軒一軒が広大な耕地を挟んで点在している集落形態で、日本では他に出雲平野(島根県)や胆沢平野(岩手県)などでも見ることができます。この3地区は日本三大散居集落とも呼ばれています。
散居村の集落はたいてい一件ごとに、特徴的な屋敷林を持っています。「森里海から」第14回で紹介した出雲平野のそれは「築地松」と呼ばれるクロマツで構成されたものでした。砺波平野の屋敷林は「垣入」とよばれ、築地松とは違って様々な樹種で構成されます。
砺波散村地域研究所発行の本「砺波平野の屋敷林」によると、樹種はスギが最も多いらしいのですが、構成樹種は高木層44種、中木層76種、低木層80種、小低木層153種と実に豊富なのだそうです。一件の屋敷林が一つの小さな生態系を形成しているのです。
そしてそれらが点在することで、飛び石ビオトープとしての機能が生まれ地域全体へと拡がっていきます。ここではカイニョは地域の生物多様性を保護するという重要な役割も担っているのです。
2014年の春、砺波平野を訪問する機会がありました。カイニョが点在する散居村の光景はまさに日本の原風景と呼ぶに相応しい見事なものでした。カイニョのある一件のお宅を見せていただくこともできました。長屋門をくぐると、そこにはアズマダチと呼ばれるこの地方の伝統的な建築様式の母屋がありました。
立派なお屋敷の中に入ると、なんと使われているほとんどの木材がケヤキです。大きな胴差しで囲まれたこの空間は「枠の内」と呼ばれているそうです。
カイニョのある風景、それはアズマダチの建築とともにこの地域でしか見られない独特のものです。全国に没個性な町や風景が増え続けるなか、貴重なこの風景をずっと残して欲しいと切に願います。
それぞれの、そこにしかない「地域性」をもった、そんな町が全国に少しずつ増えると良いなと思います・・・。
※ 本連載は、菅組が発行する季刊誌『あののぉ』で著者が連載している内容を転載しています。