びおの珠玉記事

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森里海から・石積

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2014年09月18日の過去記事より再掲載)

隙間なく積み上がった石香川県仲多度郡まんのう町

野面積み香川県三豊市財田町

「石積」というとお城の石垣を連想される人も多いのかもしれません。

もちろんそれも石積みの一つですが、ここで取り上げるのはお城のような高度な技術を要求される石積ではなく、もっとシンプルで原始的な石積です。

それは棚田や段畑で見かける野面石(のづらいし)を規則性のない乱積み、モルタル等を使用しない空石積(からいしづ)みで積み上げたもの。それらの石積みはほとんどが農家の人たちの手によってつまれたもので、家族や地域内で代々受け継がれてきた技術です。

いわば素人が丁寧に積み上げた作品といえます。

石積みのある景色

石積みが作る田園風景


今ではこのような石積みを新しく作ることはほとんどなくなったようですが、過去の先人達によって築かれた石積を田んぼや畑の田園地帯で、今でも時々見かけます。

それらは土留・擁壁としての機能だけではなく、田舎の美しい田園風景を形成する要素としても重要な役割を担っています。

また空石積みで積まれた石の間には変化に富んだ様々な空隙がうまれ、多様な生物の生息空間としても多いに機能しています。

田んぼの石積みはこのようにビオトープの一つのタイプとして、生態系の観点からも非常に重要なのです。

今ではこの石積の技術を継承する農家の人たちも少なくなり、絶滅危惧種と言ってもいいような状態です。

最近多く作られている間知(けんち)ブロック(コンクリートのブロック)やコンクリートの擁壁は土留めとしての機能は優れているかもしれませんが、先に述べた景観やビオトープとしての機能はゼロむしろマイナスです。

人口のブロック

間知ブロック


また、「再生可能」という観点からも石積は優れていますが、コンクリートは瓦礫を生み出すだけです。

生物多様性や景観性能が問われる今、棚田や段畑の石積が再度見直されても良いのではないでしょうか。

現代文明が置き忘れてきた小さな文化を、もう一度一つ一つ拾い上げていく・・・そんな作業がこれからは大切になってくると思います。

文:菅徹夫(びお編集委員・菅組代表取締役)
菅組:http://www.suga-ac.co.jp/
ブログ:ShopMasterのひとりごとhttp://sugakun.exblog.jp/

著者について

菅徹夫

菅徹夫すが・てつお
1961年香川県仁尾町生まれ。神戸大学工学部建築学科を卒業後、同大学院修士課程にて西洋建築史専攻(向井正也研究室)。5年間、東京の中堅ゼネコン設計部で勤務したのち1990年に香川にUターン。現在は株式会社菅組 代表取締役社長。仕事の傍ら「ベーハ小屋研究会」を立ち上げるなど、地域資源の発掘などのユニークな活動も行う。
一級建築士、ビオトープ管理士

連載について

住まいマガジンびおが2017年10月1日にリニューアルする前の、住まい新聞びお時代の珠玉記事を再掲載します。