びおの珠玉記事
第105回
給食・パンと米
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2014年01月25日の過去記事より再掲載)
先般、びお編集部のある浜松市の学校給食のパンが原因とみられるノロウイルスの集団感染が発生し、全国にも報じられました。この後、各地で給食が原因とみられる食中毒や、給食従事者からのノロウイルス発見などが相次ぎました。
早速市中にはノロウイルス対策グッズが大量に並びます。浜松市では学校給食が中止になった影響か、冷凍食品を買い求めている人も多いようでした。
ノロウイルスのやっかいなところは、酸にもアルコールにも強く、人の胃酸では殺すことが出来ませんし、消毒用アルコールも、拭いた程度では生き残ります。
一般的な病原体の場合は、一度感染すれば免疫が出来て体を守るようになりますが、ノロウイルスの抗体は持続時間が短く、同じ遺伝子型のウイルスにも何度も感染してしまいます。また、ウイルスの遺伝子型も種類が多いため、免疫をつけて防御するのが困難なウイルスです。
ワクチン開発はむずかしいといわれてきましたが、昨年有効な試験服用の効果などが報告されていて、もうしばらくすると有効なものが出てきそうですが、すぐには解決できる問題ではなさそうです。
給食のパンとご飯
学校給食は、昭和29年に制定された「学校給食法」を背景に提供されています。学校給食法の制定時には、戦後の食糧難があり、その目的として、
第一条 この法律は、学校給食が児童の心身の健全な発達に資し、かつ、国民の食生活の改善に寄与するものであることにかんがみ、学校給食の実施に関し必要な事項を定め、もつて学校給食の普及充実を図ることを目的とする。
とうたわれていました。この条文は、戦後数十年たってもそのまま用いられてきましたが、平成20年に改正され、
第一条 この法律は、学校給食が児童及び生徒の心身の健全な発達に資するものであり、かつ、児童及び生徒の食に関する正しい理解と適切な判断力を養う上で重要な役割を果たすものであることにかんがみ、学校給食及び学校給食を活用した食に関する指導の実施に関し必要な事項を定め、もつて学校給食の普及充実及び学校における食育の推進を図ることを目的とする。
とされました。
「国民の食生活の改善」は目的から外れ、「食育の推進」が盛り込まれました。食べ物は余るようになり、安い値段で好きなものが食べられるようになった今、「国民の食生活の改善」がいささか時代にあわない目的なのは確かです。平成20年の改正に先立って食育基本法も定められています。食は、渇望されていた時代から、学ぶものに変わっていった、ということでしょうか。
戦後の学校給食は、パン食普及の歴史でもあります。学校給食は、学校給食基本法が定められる以前から実施されていましたが、主食は各家庭から持ってくるのが一般的でした。
主食も含めた完全給食が実施されるようになるのは、敗戦国に対してアメリカから拠出されたガリオア資金による小麦の供与がきっかけでした。
この小麦を使って、主食であるパンを含めた完全給食が実施されるようになったのです。
しかし、ガリオア資金はサンフランシスコ講和条約を期に打ち切られ、日本は以降、小麦を輸入し学校給食にあてるようになりました。
最初は無料でもらえたけれど、あんたもう一人前だから買えるよね、小さい頃に食べてた食事を大人になっても続けてよね、って。
アメリカでは、この時期に農業貿易援助法が成立します。これは余剰農産物処理法、などとも呼ばれ、米国内で持て余されていた農作物をさばくための法律でした。
さて、そんなこともあってか、学校給食は、この後しばらく、パンの天国が続きます。
しかし、今度は日本国内で別の問題が起こります。米の消費が減少し、米余りと呼ばれるような事態が訪れます。このための政策として、いわゆる減反が、1970年からはじまります。
ここでも、米の大口消費先として、学校給食が目をつけられるのです。
こうなると大変なのはパン業界。安定大口顧客だった学校給食にライバル出現です。
米は余ってしまうし、急にシフトしたらパン屋は潰れてしまうし…ということで、お上がとった方策は。
昭和51年に文部科学省から出された「米飯給食の実施について」という通達では、「製パン業者への対策」として、以下の様な記載があります。
米飯給食実施に伴う学校給食製パン業者対策として、企業の合理化、協業化等について関係部局の協力を得て指導を行うとともに、委託炊飯方式を採用する場合には製パン業者と協議の上、製パン業者への炊飲委託を推進するための所要の措置を講じ、その積極的利用を図ること。
つまり、パン屋で米炊けば解決だよ! という離れ業。なんとも日本的、とも思える解決方法です。
そうしてパン業者は米も炊き、やがて総合的に給食関係を担うようになっていくのでした。
時代は変わりましたが、今も穀物はさまざまな話題の源です。減反政策からの転換や、TPP交渉による関税の問題、遺伝子組み換え作物、等等…。果たしてこれらの問題も、パン屋で米を炊く、というような解決策をとるのでしょうか。