びおの珠玉記事

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もっと太陽熱を! Part2

2023年2月現在、電気やガスといった生活インフラの大幅な値上げが続いています。政府による負担軽減策も動き出しましたが、本質的な解決にはなっていません。この記事は、2012年に発表されたものではありますが、自然のエネルギーを素直に使う、ということを訴えるため、再び掲載することといたしました。

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから再掲載しました。(2009年02月04日の過去記事より)

Part1はこちら 「もっと太陽熱を!」

どの家の屋根にも太陽は降り注いでいる。
最も身近にあるエネルギーをもっと、かしこく使おう。

太陽熱で塩水を真水に変える装置

Watercone Newsより

前回は、バイオマス・エネルギーや風力について話していただきました。今回は、タイトルにあるように「もっと太陽熱を!」ですね。

太陽熱利用というと、ついつい構えてしまうけど、太陽によって干された稲わらにうずくまって寝そべったことありませんか?

ありませんよ(笑い)。そんな経験を持つ人の方が少ないと思いますけど。

あの気分の良さは格別のものがありました(笑い)。

日に干した布団に寝そべったことはあるけど?

日に干した布団はふっくらとしていて、太陽の匂いがしませんでした?

あの匂い、好きですよ。

日に干された稲わらの匂いも、あれに似ているんだ。布団よりも野生的な感じがして、うずくまった稲わらの間から青空が広がっているんだ。目をつぶると、気分が良くて、つい眠くなっちゃうんだ。今でもあの記憶は鮮明で、太陽熱というと、あのときのことを思い出すんだな。

縁側で、おばあちゃんがコックリコックリしていたのは覚えてる。

おばあちゃんじゃなくても、縁側で日向ぼっこすると眠りを誘われるよね。身体が弛むというか、力が抜けて行くというか。
太陽はいいよね。天日干しの魚も野菜もおいしいし。

イカの干物

天日干しは魚介の旨味を凝縮してくれます。
Photo by (c)Tomo.Yun

大規模な、太陽熱発電はどうなの?

砂漠

砂漠は太陽熱発電適地だが、送電の問題が残る。

太陽エネルギーのダイレクトな利用だけでなく、大規模な太陽熱発電もあるとか。

いま、世界で最大の太陽熱発電所は、米国カリフォルニア州のモハベ砂漠にある「SEGSプラント」です。85年に発電が開始されました。増設を重ね35万KWの出力を持っています。直線的な集熱管と湾曲した半円筒の反射板で構成されていて、集熱管の中を流れる油が反射板で温められて、この熱で蒸気タービンを回して発電されています。コレクターは幅6m、長さは100mもあって巨大なものです。それが広大な敷地に整然と敷き詰められています。


モハベ砂漠のSEGSプラント。地図を拡大すると巨大なコレクターが見える。

すごい大きな規模のものですね。

悪くはないけど、土地が広くないとやれない技術です。日射が降り注ぐ砂漠などは適地です。問題は、砂漠は不便なところにありますので、発電したエネルギーを遠くに送電しなければなりません。そこでロスも発生します。日本でも四国で行われましたが、現在は稼動していません。

土地の問題もあるけど、日本は砂漠ほどカラカラ天気じゃありませんよね。

日射量ということでいえば、決して乏しいわけではありませんが、TREC(EU、中東や北アフリカなどの地域で発電をしてEUに供給するプロジェクト)がまとめた太陽熱発電の商業化可能地域ということでいえば、日本は決して適地とはいえません。年間日射量が多いサハラ砂漠で、仮に254km四方に太陽熱発電施設を敷き詰めたら、世界の電力を賄えるという試算がありますが、それはペーパーの上の話で、どうやってそれを送電するというのでしょうか。というより、何故、そこまでして電気にしなければならないのか、という疑問が先に立ちます。

太陽の力で塩水から真水を作り出すアフリカの人たち

冒頭の写真は何ですか?

あれは、太陽熱で塩水を真水に変えてくれる装置です。アフリカは水不足で、そのためにたくさんの子どもたちが、汚れた水を飲んで下痢を起して死んでしまうケースがあって、この装置で海水を真水に変えるのです。大規模でないのがいいと思います。原理は、透明な円柱形のプラスチックの表面に結露する水を集めるというもので、持ち運びが便利で、重宝されているそうです。どの程度の水がつくれるのか分かりませんが……。

汚染された水よりいいですからね。

日中、地表は太陽で暖まりますよね。夜間、地球は太陽の裏側に回って、宇宙に熱を奪われますよね。放射冷却というのだけれど、朝、草むらを歩くと露がいっぱいでしょ。あれは日中と夜間の温度差によって生じる結露によるもので、この装置は、その原理を活かしています。
そこにある太陽熱を利用するということでは、天日干しの考え方と変わりありません。

なるほどね。

太陽熱は、どこか遠くにあるエネルギーではなく、運んでくる必要もなく、すぐここにあるエネルギーなんです。ビルなどで日陰になる家もあるけれど、日本には北側斜線という建築法規もあり、たいがいの家の屋根には太陽が降り注いでいます。それをもっとかしこく活かそうというのが基本です。

ダイレクトに太陽熱を利用する方法

では、そろそろ本論の「住まいの太陽熱利用」に入ってください。

太陽熱発電も、塩水を真水に変える技術も、大規模であるかどうかを別にして、機械装置がウエイトを占めていますね。これらの方式をアクティブソーラーと呼ぶのに対して、建物が受熱している太陽熱を機械的なもので変換しないで利用する方法をパッシブソーラーといいます。

それは具体的に、どんなやり方ですか?

夏至と冬至の太陽軌道

まず代表的なものを挙げてみますね。先程、おばあちゃんの縁側の話がでましたね。縁側は、冬は日だまりの場になり、夏は暑さを和らげる緩衝空間の役割を持っています。冬と夏では太陽の入射角が異なりますので、それを巧みに利用したやり方です。
このように、縁側はすばらしい知恵ですが、太陽が沈むと一気に冷え込みます。障子を立てて、部屋に冷気が入り込まない工夫がありますが、それでも昔の家は断熱・気密が悪かったので、昼間、せっかく得られた熱も夜にはすっかり放熱してしまいました。この縁側部分を、コンクリートやタイルなど、熱容量の大きな材料を用いて、そこに太陽熱を蓄熱させ、夜になったら断熱戸を立てて放熱を防ぐと、蓄熱した太陽熱は部屋の暖にまわります。

ダイレクトヒートゲインですね。

そうです。よく知っていますね。

『住まいを予防医学する本』に出ていました。

ダイレクトヒートゲイン

昼間に差し込む日射を蓄え、夜は部屋の熱放射を防ぐために断熱戸を建てます。蓄熱した熱が部屋を温めてくれます。
『住まいを予防医学する本』より イラスト:鈴木充弘

最もシンプルな手法ですが、これまでの縁側と違うのは、一つは建物の断熱・気密化がはかられていることと、蓄熱があることですね。

日本の住まいは、蓄熱しにくい構造体といわれますが。

そうです。木造ということが一番大きな理由ですが、木も少しは蓄熱しますが、すぐに放熱してしまいます。熱容量がないのです。石(コンクリートなど)は、蓄熱するまで時間が掛かりますが、一度蓄熱すると熱容量が大きいので、少しずつ放熱してくれます。
蓄熱体となる材料の条件は、
1.熱容量が大きいこと、
2.熱が伝わりやすいこと、
3.表面から熱の吸収と放散がすみやかに行われること、
4.これが大事なのですが、低コストであること。
コンクリートやタイルなどが利用しやすいですね。

ほかに熱容量のいいものといえば水ですね。

そうです。湯たんぽがいい例で、熱いお湯を入れて布などで包んでおくと朝まで暖かいですよね。もっというと、太陽熱は巨大な海を受熱体とすることで、この地球環境をつくっています。温められた海から蒸発した水は雨になって地上に降り、それが野山を潤し、また海に戻って循環を繰り返すことで、我々は生命を得ています。太陽熱は、野山にも蓄熱しますが、何といっても海の熱容量がでかいわけです。

まさに地球まるごと、太陽によってダイレクトヒートされているのね。

暖房方法としてのダイレクトヒートゲインに戻ると、蓄熱した熱をゆっくり部屋に放熱してやることが大事で、シンプルである分、室内温度のコントロールは難しい面があります。ダイレクトヒートゲインされた部屋だけで仕切られていると、熱はその部屋に溜まっているだけになります。それがリビングだとすると、一晩中、リビングにいるわけではないので、もったいないことになります。熱を家全体に回るようにしてやる必要があります。といっても、何か機械的なことでやるというわけではありません。空気の道を考えた設計をすべきで、吹き抜けがあったり、開放的なプランの家なら自然と熱は回ってくれます。

温室を含めた空気循環

付設温室を設ける

サンルーム

せこ住研の例

温室を設けるのはどうですか?

これもいいやり方ですね。原理はダイレクトゲインと似ています。違うのは、温室が集熱室になっていることですね。室内部分の間に可動間仕切を設け、また温室内の暖まった空気をファンで送風するような工夫が必要となります。それによって、ある程度の温度コントロールが可能になります。ただ、夏場の日射遮蔽が難しくて、オーバーヒートになりがちです。太陽が照っているときは、室温が急上昇し、夜間は急降下します。温室にいると、冬でも暑いぐらいですからね。夏は、近づきたくない場所になったりします。室温変動が大きいのです。

観葉植物を楽しみたい人にはいいですよね。

いいと思います。また、高緯度にある北海道向きのシステムといえるかも知れません。観葉植物を栽培する場合にも、寒冷地利用の場合も、ある程度は温室内に蓄熱部位が必要となります。
室内側からいうと、付設温室があると室内の温熱環境を外界から守る緩衝空間の効果が高いですね。特に夜間の温度降下を防ぐ効果は大きいといえます。

トロンブウォールの仕組み

トロンブウォール

トロンブウォールは、日本では不向きといわれていますが?

日本人は南側に大きな窓を設けて、開放的に暮らしたいですからね。室内が閉鎖的になることを嫌います。でも、南側が全部窓かというと、最近は耐震壁の問題もあって、南面側の壁が増えていますので、そこを利用することができます。
このやり方は、集熱ガラス面の背後に蓄熱壁を置いて、ガラスを透過してきた太陽熱を吸収させ、壁を貫流する熱を室内側で放散させて暖房効果を挙げようという手法です。壁蓄熱システムというわけですが、トロンブというのは考案者の名前で、敬意を表して名づけられています。早稲田大学の先生だった木村健一先生のご自宅が、このトロンブウォールでした。
むずかしいのは、冬期の室温は安定的でいいとして、夏の日射遮蔽をどうするのか、その工夫がいることですね。

ダイレクトヒートゲインや付設温室と併用できそうですが?

いい案だと思います。付設温室との間をコンクリートブロックやレンガを置いて利用すると、インテリア的にも趣きがありますからね。でも、この場合も南側が塞がれていることに難があります。騒音に悩まされる道路に面していたり、プライバシーが侵されるような土地では、かえってそれがいい場合もありますが。
設計のポイントは、トロンブウォールの厚さ、暖房面積に対するトロンブウォール面積の割合、夏の日射遮蔽と排熱方法あたりですね。

斜面を利用して行うやり方がありますね。

ロックヘッドですね。別名、サーモサイフォンとも呼ばれます。
ガラスや鉄板などの集熱面で暖めた空気を、自然対流で床下に導いて床暖房を行うシステムです。一種の土間床工法といえ、斜面や広い空地がなければやれないシステムですが、温度コントロールが比較的楽に行えます。夏場は集熱面の遮蔽が必要です。

ロックヘッドの仕組み

ロックヘッド

このほかには、どんな方法がありますか。

ルーフポンドというやり方があります。屋根面に水槽をおいて、水槽に蓄熱した熱を室内に放熱するというやり方ですが、コスト面でも、工事面でも問題が大きいですね。草屋根なども、広くいうとこの手法に似ています。植物と土が遮熱・断熱・蓄熱・放熱をしてくれますからね。

ループポンドの仕組み

ルーフポンド

図:「パッシブシステム住宅の設計」より
建設省(現・国土交通省)住宅局住宅生産課 監修
住宅・建築省エネルギー機構(現・建築環境・省エネルギー機構) 編
パッシブシステム検討委員会(委員長 奥村昭雄)執筆