びおの珠玉記事

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風が吹けば…?

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2015年03月01日の過去記事より再掲載)

「春一番」の便りがあちこちから聞こえる時期です。立春から春分の間に吹くこの風は、その名前もあいまって、なんだか朗らかなものに聞こえます。ちょっと古いけれど、キャンディーズの「春一番」なんていう歌もありました。

ところが、もともとの春一番は、それほど朗らかなものではなくて、春の嵐に対する海難を防ぐために漁民の間で言い伝えられてきたものです。安政6(1859)年2月、壱岐から五島に出漁した漁師が、春の嵐にあって遭難するという事故がありました。この春の嵐を、春一番、と呼ぶようになり、壱岐では春一番の記念碑が作られ、今でも春一番の慰霊祭が行われています。

春の風は、突風で事故を引き起こしたり、乾燥した空気による火災や、気温の上昇に伴う雪崩や雪解け洪水を起こすこともあります。

冬は北風、夏は南風が多く吹きます。春はこの北風と南風が入れ替わる時期で、南風が吹いて暖かくなったかと思えば、北風が寒気を運んでくることもあり、暖かい日と冷たい日がめまぐるしく入れ替わったりします。
キャンディーズの「春一番」には「風が吹いて暖かさを運んできました」という一節がありますが、暖かくなったと思ってもまた寒くなることもあって、そうした一進一退を見せながら、徐々に春がやってきます。

風の利用

スコットランドの社会人類学者・ジェームズ・フレイザーは、「自分の影響力が及ばず文明人が無力感にもっともさいなまれるのは、あらゆる自然現象のなかでも風にほかならない」と述べています。

「風まかせ」「風の向くまま」という言葉があるように、風は思い通りになりません。それでも、化石燃料などの動力が使われるようになるまでは、風は貴重なエネルギーとして利用されてきました。ヨーロッパでは、全盛期には10万もの風車が稼働して、穀物を砕いたり、水を汲み上げたりといった仕事に使われていました。
結局、風車はやっぱり「風まかせ」であるため、エンジンやモーターにはかなわず産業からは退場することになります。
風車

風が吹けば…

「風が吹けば桶屋が儲かる」という話があります。回り回って何が起こるかわからない、とか、あてにならないことを期待するようなことを指していう言葉です。
木桶とてぬぐい
風が吹く→砂ぼこりが立つ→砂ぼこりが目に入って失明→失明した人が三味線をはじめる→三味線用に猫が捕まえられて減る→ネズミが増える→ネズミが桶をかじる→桶の注文が増えて桶屋がもうかる。

「風が吹けば桶屋が儲かる」のは0.8%!?(丸山健夫/PHP新書)』では、タイトルにあるように、この確率は0.8%だと述べています。

このカラクリは結構大雑把で、それぞれのステップの確率を1/2、50%とかんがえると、7つのステップで0.7815%になってしまう、というものです。1/2という高確率でさえ、最終的には0.8%になってしまうのだから、「風が吹けば桶屋が儲かる」なんてことはまず起こらない、のかもしれません(そもそも、現代ではそういうシチュエーションがないだろう、というシーンが多いですが)。

さて、現代版「風が吹けば…」の話。

自然エネルギーの固定価格買取制度は、当初太陽光発電の高価格(10kW未満で42円、10kW以上で40円)に注目が集まりました。太陽光発電の普及が進み、この買取価格は年々低下していますが、風力やその他の自然エネルギーについては、買取価格は制度スタート時から据置きになっています。この中でもっとも高い買取価格が、20kW未満の風力発電(55円)です。

買取価格が高いということは、設備の普及が進んでいないことの裏返しでもあります。20kW未満の風力発電は、製品の認証が必要なのですが、この認証がなかなか進まず、製品選択肢が少ないことや、複数台を組み合わせて20kWを超えてしまった場合は買取価格が22円になってしまうため、「使い勝手が悪い」システムになっているようです。
結果、風が吹いたら自分が儲かる、とまでいっているケースはまだ多くないようですが、製品選択肢も増えてきて、第二の太陽光発電のようになるかどうか…?

そのまま使う

けれど、風は、なにも電気に変えなければ使えないものではありません。風車がそうであったように、直接風のエネルギーを利用する方法もあります。

代表的なのは、通風による冷房負荷の削減。もうちょっとわかりやすく言うと、風を家の中に導き入れることで、冷房の使用を押えてエネルギー消費を削減できますよ、ということです。

自立循環型住宅の設計ガイドラインでは、うまく自然風を使えば、冷房エネルギーの30%程が削減できると提唱しています。

閉めきって空調を効かせた部屋と、風が心地よく抜ける部屋とでは、30%のエネルギー以上に心地よさの違いがあります。
風の設計はある面では熱の設計以上に難しいものですが、ちょっとした工夫でずいぶんかわるものです。

風と向き合わない窓の家の空気の流れは悪い

入り口と出口両方がなければ風は通りにくい

窓が対面してあっても風と向き合わない場合は空気の流れが悪い

出入口があっても、風向きと合わないと通りにくい

袖壁を付け風の流れを室内に作る方法

風を取り入れる袖壁をつけてみる。

春一番以降、少しずつ風が気持ちよくなってきます。これも貴重な地域のエネルギー。ありがたく使いましょう。