びおの珠玉記事
第118回
わらび
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2014年03月26日の過去記事より再掲載)
わらびをいただきました。山菜の中でもメジャーな存在で、珍しいものでもありませんが、やはり季節を告げる食べ物をいただくのは嬉しいものです。
さて、現代の山菜は、畑で栽培されているもの、輸入されて水煮で流通しているものなどさまざまですが、やはり山に入って採ってくるものにとどめをさします…といいたいところですが、かんたんにそうともいえません。
山で働く人達は、山菜の採れる場所をよく知っていますが、じゃあ教えてよ、なんて気楽に頼んだら、秘密の場所だから教えない、なんて言われたことがあります。
知る人ぞ知る、であった場所・コトが、あっというまにSNSで伝搬してしまって台無しに、ということは、山菜に限らずあちこちで起きています。
山菜を採りにいくにしても、ちょっと山に行ってみて、山菜に出会えなかったとしても、滝やら、何か春の景色が見られればいいかぁ、というぐらいの気持ちで行きましょう。
そうはいっても山菜はうまい。今回のわらびは、煮る、というよりお湯を通す、というような感じで美味しくいただきました。
と、喜んではおりますが、わらびのアクはとても強く、ビタミンを破壊する酵素があったり、発癌性物質が少量ながら含まれていたりするそうです。アク抜き、加熱をして、一度に大量に食べるのでなければ問題ないようです。やはり山菜はよくばってたくさんとるものではないのですね。
さて、わらびの根茎からはでんぷん質が採れます。
このでんぷんは「わらび粉」として、わらび餅に用いられる…といいたいところですが、市販の「わらび餅」として売られているものの多くには、実際のところ、わらび粉は使われていません。
本来のわらび餅は、その名のとおり、わらび粉から作られていましたが、いかんせん、わらび粉は少ししかとれません。というわけで、今や多くのわらび餅は、芋由来のでんぷんなどを用いた「なんちゃってわらび餅」になっています。
さらに「わらび餅粉」というアイテムも売られていたりします。個々の商品は、ここではとりあげませんけれど、Googleのショッピング検索でいろいろ出てきます。
甘薯がわらびを駆逐した、ということでしょうか。わらびを使おうが使うまいが、「わらび餅」。
昨年次々に報じられた「鮮魚」偽装どころか、別段原材料に偽装もせずに名前だけ使っている、と考えると、なんだかそら恐ろしくなります。
かつて、わらび粉は貴重な資源でした。わらび粉は食用だけでなく、糊にも用いられ、換金作物としてもわらびは価値を持っていました。
根茎を掘り出してしまえば、翌年はそこからわらびは生えませんから、根こそぎ掘ってしまうようなことは厳禁だったのです。
そういう知恵や気配りが、今の私たちには、ずいぶんと少なくなってしまいました。
垂水(滝)の上ではわらびが芽吹き、春になったなあ、と。素敵な風景ですね。
万葉集巻八の巻頭歌であり、よく知られた歌です。
望めばいろいろなものがいつでも手に入る時代、山菜も輸入品の水煮が年中売られていたりしますが、やっぱり自分だけの秘密の場所や、知り合いのつてで、今だけしか手に入らない旬の食べ物として、大切にいただきましょう。