びおの珠玉記事

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小さくても効能たくさん・土用の蜆(しじみ)

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2011年07月13日の過去記事より再掲載)

しじみ
日本で採れる(シジミ)には、真蜆(マシジミ)大和蜆(ヤマトシジミ)瀬田蜆(セタシジミ)の三種が生息しています。このうちもっとも一般に多く流通しているのがヤマトシジミです。
夏のこの時期が旬で、別名「土用蜆」とも言われています。

土用蜆は腹薬

土用というと鰻が連想されますが、「土用蜆は腹薬」という言葉もあり、蜆も鰻と同様に、夏の体調不良を整える食材として用いられてきました。

江戸時代に刊行されていた川柳集「誹風柳多留」に、

「金色の男 蜆に食ひ飽きる」

という句があります。
肝臓を患うと黄疸が出ます。この黄疸によって体が金色になった男が、蜆を食べ飽きる、という川柳です。このころすでに、蜆が黄疸(肝臓)に効果がある、ということが知られていたようです。

肝臓は、代謝、解毒、生体の防御などの様々な役割を担う重要な臓器です。アルコールの分解も肝臓の主な役割です。

アルコールや病気等により、肝細胞が損傷をうけると、肝臓内に含まれるGOT(グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ)やGPT(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ)、γ-GTP(ガンマグルタミルトランスペプチダーゼ)といった酵素が、血液中に漏れでてきます。
健康診断で血中のこうした値を見るのは、肝臓の損傷度合の判断のためです。

損傷した肝臓を修復するにはタンパク質が必要です。このタンパク質は各種のアミノ酸からつくられます。このうち、体内では必要な量を産生できず、食品から摂取する必要があるものを「必須アミノ酸」といいます。

アミノ酸が多く含まれる食品としては、牛肉や鶏卵といった動物性蛋白質が多いのですが、たとえば牛肉にはトリプトファンが少ない、鶏卵はアミノ酸は多いもののコレステロールが多く、食べ過ぎると別の問題が起こるかもしれません。
蜆はこの必須アミノ酸の配合バランスがよいのです。江戸時代の人は、それを経験上知っていたのです。また、現代と比べると、牛肉や鶏卵等よりずっと入手しやすかったのでしょう。

蜆の住処

蜆は淡水から汽水にかけて生息する小型の貝です。北海道から九州にかけての汽水湖や河口で採られていますが、特に島根県と青森県での漁獲が多く、全国の漁獲の半分以上を占めています。

湖での漁獲量のうち、9割が蜆という島根県の宍道湖では、2009年から漁獲量が激減しています。一方で、北の産地として有名な青森県十三湖では、漁獲量昨年の2倍と好調だとのことですが、全国的に見ると蜆の漁獲量は年々減少しています。
それに伴い中国等からの安い輸入蜆にシェアを奪われるという悪循環が起こっているようです。

汽水という、海と川のどちらともつかない場所に生息することや、かつて大量に採れたため、計画漁業の研究対象になりにくかったことなどが、資源回復の遅れにつながっているという指摘もあります。

蜆は水質浄化に大きな役割を果たしているといわれています。水質汚染(富栄養化)の原因となる陸上植物由来の有機物や植物プランクトンなどを餌として取り込んだり、エラで濾過をする作用があるといわれていました。

最近の研究では、自然界で分解しにくいセルロースを分解する酵素をもっていることがわかってきています。

蜆が減少した原因は、雨水の減少、汽水湖の塩分濃度上昇、水質悪化など諸説ありますが、なかなかハッキリしたことはわかっていないようです。産地では漁獲量の自主規制を行うなど資源保護につとめています。

蜆がいなくなったところ

浜松市には国指定史跡の「蜆塚遺跡(しじみづかいせき)」があります。蜆塚遺跡は縄文時代後期の村の後で、住居跡や墓地が見つかりました。ここには、いまも地名として残る「蜆塚」の由来となった貝塚があります。

蜆塚遺跡

蜆塚遺跡の貝塚断面。発掘したものを固めて展示してあります。


この貝塚からタイやスズキといった魚の骨や、鹿や猪の骨、雉や鶴の骨も発見されていますが、多くは貝殻で、そのうち9割は蜆が占めています。蜆が、当時の人達の貴重な栄養源だったこと、そして豊富に採れたということを表しています。
貝塚

貝殻で埋め尽くされています。そのほとんどが蜆です。

この蜆塚遺跡から程近くに、佐鳴湖という汽水湖があります。佐鳴湖は下流の新川を通して浜名湖とつながっています。浜名湖は海に面しており、潮の満ち引きで水位が増減します。佐鳴湖はこの影響を受け、下流にある浜名湖の水が押し戻されてくることがあります。一方で佐鳴湖は浜松市の人口密集地の下流にあり、生活排水の流入も多く、水質汚濁が進み、2001年にはCODの年平均値が全国ワースト1位になってしまいました。その後の水質改善策もあってか、現在ではワースト1位の座は脱していますが、依然として汚染の度合が高く、対策が続けられています。(こう書くとものスゴいところのように思えますが、周辺は適度に整備され、散歩やジョギングなどをする人が絶えない、市民に愛されている場所でもあります。)


佐鳴湖、新川、浜名湖が見えます。比較的内陸部にあるため、佐鳴湖が完全な淡水ではないと聞くと、皆驚きます。

蜆塚遺跡に暮らした人々は、佐鳴湖で蜆を採ったのでしょう。佐鳴湖でも、数十年前までは蜆の漁獲がありましたが、今ではほとんど確認できないといわれています。
水質浄化も期待して佐鳴湖にヤマトシジミを復活させよう、という試みが行われています。

みなさんの近くの河口には、蜆が生き残っているでしょうか。

蜆の身は食べる? 食べない?

蜆の代表的な食べ方は、なんといっても味噌汁です。砂出しさえ済めば、味噌汁の具の中でもっとも簡単といっていいかもしれません。
シジミの砂だし
とはいえ、この砂出しが不完全だと、まったく台無しになってしまうのですが。
水でよく洗って、薄い塩水に、全体が浸からない程度に漬けておきます。
砂出しは真水で、いや塩水でやったほうがいいと諸説ありますが、今回はアサリの砂出しほどは濃くない塩水で行いました。
シジミを鍋で煮る
蜆を鍋に入れ、水から火にかけ一煮立ちしたら、味噌を加えて出来上がりです。他のダシを取らなくても、蜆からおいしいダシが出ます。これが蜆の味噌汁の醍醐味ですね。
火にかけ過ぎると身が痩せてしまうので、口が開くぐらいが、いい頃合いです。
シジミの味噌汁
さて、味噌汁に入った蜆の身を食べるかどうかは、地域や家庭によって異なるようです。

太宰治は「水仙」の中で、浮かれていた頃の出来事として、
蜆の身を食べて恥ずかしい思いをしたと述べています。

蜆汁がおいしかった。せっせと貝の肉を箸でほじくり出して食べていたら、「あら、」夫人は小さい驚きの声を挙げた。「そんなもの食べて、なんともありません?」無心な質問である。
思わず箸とおわんを取り落しそうだった。この貝は、食べるものではなかったのだ。蜆汁は、ただその汁だけを飲むものらしい。貝は、ダシだ。貧しい者にとっては、この貝の肉だってなかなかおいしいものだが、上流の人たちは、この肉を、たいへん汚いものとして捨てるのだ。
太宰治 水仙より

この一文をもって蜆の身は食べないものだと決めつけてはいけませんが、果たしてみなさんは、「蜆の身」、どうしていますか?

蜆関連商品

必須アミノ酸をバランスよく含んでいる蜆ですが、いかんせん小さい。身だけ取り出せば、蜆一個あたりの重さは1gあるかどうかです。100g採ろうとすれば、100個以上食べることになり、これはちょっと大変です。
蜆の効用をしっかり得たいとなると、かなりの量を食べなければいけないのですが、現在の流通量や価格では、それもなかなか難しいのが現実です。蜆を大量に手に入れて煮詰めてエキスをつくる、という手もなくはありませんが、手間も費用もかかりますし、それほど保存の効くものでもありません。

そうした声に応えてか、蜆のエキスを利用した食品が売られています。
医薬部外品だったり、食品だったりと様々です。
本来は、通常の食事から必要な栄養をとるのがよいのですが、昨今の生活環境・食環境では、なかなかそうもいかず、こうした製品に人気があるようです。

永谷園一杯でしじみ70個分のちから

これは蜆食品とは言えないかも…


この製品では、肝機能の改善や疲労回復に効果があるオルニチンが、蜆汁2杯分程度含まれていて、汁一杯当たりがだいたい蜆35個ぐらいなので、「しじみ70個分のちから」だそうです。
ちなみに、蜆70個というと、ちょうど下の写真ぐらいです。結構ありますね。
しじみ70個

これでしじみ70個。


肝機能にスポットをあてた商品とのことで、味噌・大豆の効用と相まって、肝機能回復にはいいのかもしれません。
けれど、やっぱり砂出しをして、味噌汁をつくったほうがいいなあ、と思うのでありました。