びおの珠玉記事

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旬の夏のトマトがおすすめです

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2009年07月08日の過去記事より再掲載)

トマト

トマトは、その赤い色とみずみずしさ、酸味と甘味が特徴の人気野菜です。生で食べるのはもちろん、ソースや煮込み料理などにも利用され、様々な料理になくてはならない存在です。料理の彩りとしても重宝します。
「夏野菜」と聞いて、赤いトマトを思い浮かべる方は多いのではないでしょうか。現在はハウス栽培なども盛んに行われているため1年中出回っていますが、トマトは、なす・きゅうり・ピーマン・とうもろこしなどと並んで、代表的な夏野菜のひとつです。照りつける太陽の下、真っ赤に熟した畑のトマトをもぎとり、井戸水で冷やして、かぶりつく……かつての夏の思い出として、そんな体験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。やはり夏の露地栽培のものは格別です。

トマトの歴史

トマトは、南米のアンデス高地が原産だと言われています。アンデスの高地には、現在でも多くの野生種のトマトが自生しています。この地方の先住民はトマトを栽培しており、その先住民の移住によって、トマトは中央アメリカやメキシコに広がっていきました。
トマトがヨーロッパへ渡ったのは16世紀で、スペイン人によって、ジャガイモとともにもたらされたとされています。当初は毒があると信じられていて食用にはならず、実の色を楽しむ観賞用でした。1550年頃から、イタリアで観賞用として栽培が始まり、フランス、ベルギー、スイス、オランダ、ドイツ、イギリス、ポルトガルなどへ広まっていきました。

ヨーロッパの市場

ヨーロッパの市場


食用としては、1593年にオランダの薬学者トドエンスが、塩・こしょうをして油で炒めたのが初めだと言われています。やがてイタリア、スイス、ポルトガルなどの南ヨーロッパで、煮たりケチャップにしたりして、トマトを食べるようになっていきました。ですので、加工用トマトの品種改良は南ヨーロッパが中心でした。イタリア人の常食のパスタにぴったり合ったことから品種改良が重ねられ、現在のような味になっていきました。生食用トマトの歴史は18世紀頃からで、北ヨーロッパを中心に品種改良が進められました。

日本へトマトが渡来したのは、17世紀の初め頃、江戸時代初期のことでした。やはり当初は観賞用で、「唐柿」、「唐なすび」などの名で記録があります。その後、明治の初めに欧米から品種が導入され、「赤なす」と呼ばれましたが、当時の品種はトマト独特の匂いと酸味が強い小形品種で、日本の食生活になじまず、普及しませんでした。
食用としてのトマトが普及し始めたのは大正時代です。昭和初期に、アメリカから導入された匂いも酸味も穏やかな品種が広く受け入れられ、トマト生産は各地へ普及していきました。そして第二次大戦後、トマトの需要は急増していきました。

トマトの種類

トマトには多くの品種があります。実の色は、赤、オレンジ、黄色、それに白や緑のものもあります。実の形や大きさも様々です。国内だけで、既に100種類以上の品種があります。
トマトの品種は、大きくは、果皮の色によって、桃色系・赤色系に分けられます。また、果実の大きさによって、大玉トマト・中玉トマト(ミディトマト)・ミニトマトに分類することもあります。
日本の中玉以上の品種は、ほとんどが桃色系で占められます(桃太郎、ファーストトマトなど)。日本では、長い間トマトを生で食べるのが一般的でした。桃色系は、酸味やトマトの匂いが少なく、生食に向いているのです。

これに対して、欧米ではトマトを主に加熱、加工して使うので、酸味と甘味の強い赤色系のトマトが主流です(サンマルツァーノ、ポモロッソなど)。近年、日本でも、調理用の赤色系トマトへの関心が高まっています。完熟したトマトを水煮にし、トマトジュース漬けにした缶詰にも、加工に適した赤色系の品種が使われています。
また、ミニトマトも、1980年頃から市場に多く出回っています。ミニトマトは赤色系がほとんどですが、黄色系や桃色系、洋なし形、プラム形などの様々な品種があります。
糖度が高いフルーツトマトも人気があります。フルーツトマトは特定の品種ではなく、栽培の工夫によって糖度を8以上(普通のトマトは糖度5)に高めた、甘くフルーツ感覚で食べられるトマトの総称です。

うま味成分たっぷりのトマト

トマト煮込み

トマト煮込み


トマトはクエン酸などの酸味やペクチンを含み、魚介や肉の臭みを和らげ、味をさわやかにします。
また、うま味成分のグルタミン酸を多く含みます。そのため、生で食べても美味しいですが、煮込み料理などに加えると、グンと味がよくなります。グルタミン酸は、特に、魚介や肉に含まれるうま味成分のイノシン酸やコハク酸と一緒になると相乗効果を発揮し、うま味が何倍にもなります。日本では昆布(グルタミン酸)と鰹節(イノシン酸)を合わせてだしをとりますが、それと同じ理屈です。欧米では、トマトを料理に加えたり、ソースにするなど、加熱して調味料的に使うのが主流ですが、このようなトマトの効果をよく活かした利用法だと言えます。トマトソースが料理の美味しさを引き出すベースとして使われてきたのです。
トマトの種の周りはゼリー状になっていますが、ここにはグルタミン酸が含まれていますので、種を取らずにそのまま料理に使いましょう。

「トマトが赤くなると医者が青くなる」

ヨーロッパには「トマトが赤くなると医者が青くなる」ということわざがあります。トマトの栄養価が高く、体によいことの表れだと言えるでしょう。
トマトは、カロテン・ビタミンC・ビタミンB1・B2などのビタミン類、カリウム・カルシウム・鉄などのミネラル、その他、赤色色素のリコピンや、クエン酸・リンゴ酸・コハク酸などを含んでいます。
カロテンは特に豊富で、大きなトマトを1つ食べれば、緑黄色野菜の1日の推奨量をクリアできるとされます。カロテンは体内でビタミンAに変わります。また、トマトはビタミンCも豊富に含んでいます。ビタミンAとCは相互に影響してより強力な抗酸化作用を発揮することがわかっているので、両者を豊富に含むトマトは、がん、老化、動脈硬化の予防に大きな効果を発揮すると言えます。

また、トマトに含まれる成分で特徴的なのは、赤色の主成分であるリコピンですが、このリコピンにも抗酸化作用があります。しかもリコピンには、加熱に強く、煮たり焼いたりしても抗酸化力があまり低下しないという長所があります。
ミネラルでは特にカリウムを多く含んでおり、高血圧の予防になります。
クエン酸やリンゴ酸、コハク酸などには疲労の素を取り除く働きや、胃液の分泌を盛んにして食欲を増進させる働きがあり、夏バテ回復に効果的です。また、二日酔いで荒れた胃のむかつきをすっきりさせてくれますので、二日酔いの朝にはトマトジュースがおすすめです。

旬の夏のトマトがおすすめです!

赤々としたトマト
トマトの旬は夏です。旬の時期には、ハウス栽培のものより、露地栽培のものの方が多く出回ります。実は、露地ものの方が、ハウスものよりも栄養価が高いことがわかっています。
トマトにはビタミンが豊富に含まれていると先に述べましたが、このビタミンの含有量は、太陽の光によく当たったかどうかに影響を受けます。ハウス栽培のものは、ビタミン含有量が少ないのです。カロテンもビタミンCも光合成によって生成されますので、当然といえば当然かもしれません。太陽の光を多く浴びた野菜ほど、色は濃くなり、栄養価も高まるのです。完熟した旬の露地栽培のトマトは、ハウス栽培のものより2倍のビタミンCを含みます。

トマトには、まだ青いうちに収穫して後で赤くするものがあります。収穫後少しずつ赤くなっていき、店頭に並ぶのです。未熟なトマトは葉緑素が多いので青いのですが、真夏の太陽の光をたくさん浴びて完熟したトマトは、カロチノイドが増えて赤く色づきます。このように枝についたまま完熟すると、未熟な青いトマトより、ビタミンCは3倍にもなります。
ですので、旬の露地栽培の完熟したものと、旬外れのハウス栽培の青いうちに収穫したものとでは、ビタミンCをはじめ栄養の含まれ方が徹底的に違ってしまうのです。

また、トマトのうま味成分であるグルタミン酸も、未熟なトマトよりも、真っ赤に熟したものに多いのです。直射日光の強弱や日照時間の長さが、トマトの味そのものを左右します。
つまり、枝についたまま、太陽の光を直接浴びて、真っ赤に完熟したトマトは、美味しいし、栄養も抜群なのです。やはり、旬の夏のトマトがおすすめです!

参考文献
「旬の食べものには驚異的な薬効あり―身近な食べものを見直そう―」
中村幸昭 著 朝日ソノラマ、1990年
「旬の食材 春・夏の野菜」 講談社 編 講談社、2004年
「そだててあそぼう[1]トマトの絵本」
森俊人 編、平野恵理子 絵、農山漁村文化協会、1997年
「野菜と果物を『安心』して食べる知恵」
徳江千代子 監修 二見書房、2008年
「野菜&果物図鑑」
ファイブ・ア・デイ協会、若宮寿子 監修 新星出版社、2006年
「日本のおいしい食材事典」江上佳奈美 監修 ナツメ社、2009年