びおの珠玉記事

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電力のボリューム感をつかめるか。

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
記載の電気料金などは記事掲載時のもので現在とは異なりますのでご留意ください。
(2012年08月02日の過去記事より再掲載)

暑い日が続いています。今年の7月の猛暑日(日最高気温が35℃以上)を観測した地点は、記録的猛暑だった2010年の7月の152地点を上回り、170地点にのぼりました。7月28日には真夏日(同30℃以上)が、781地点にのぼるなど、全国的に厳しい暑さの夏といえそうです。

大飯原発の稼働により、節電要請が緩和されましたが、緩和≒電力を使う≒やっぱり原発は必要だ、というサイクルを繰り返すのでは、これまでとなんらかわりません。

昨今の家電では、使用中や使用後に、消費電力や電気料金を表示するものが増えています。
これまで、電力は安定していて便利なエネルギーでした。スイッチを入れればすぐに利用できて、自分で補充したりという必要もない、使うだけに限れば、非常に便利なエネルギーであることは言うまでもありません。

携帯電話・スマートフォンやノートパソコンといった、バッテリー駆動式の機器を利用しているときには、電力の残りがあとどのぐらい、と気にすることはあっても、果たしてそれが残り何ワットなのか、何ワットあったら何が出来るのか、ということは、あまり気にされていないのではないでしょうか。

発電所や基地など、俗にいう必要だけれど自分の家の裏にはあってほしくない、という施設を、NIMBY(Not In My BackYard)と呼びます。これに対して、地域のエネルギーを地域で活かすというEIMY(Energy In My Yard)を提唱している新妻弘明氏の著書「地産地消のエネルギー」に以下の様な記述があります。

省エネ運動にしても省エネ教育にしても、その基準はなべて観念的であり、思考にのみ訴えるものである。人々は自分がどのぐらい動けば100Wなのか分っているのだろうか。これに対して、薪を自給する人の「こんなの使ってられない」や、食べ物を自給する人の「もったいない」は全身で感じているものである。この感覚が国民一人一人に無ければ、本当の意味での低炭素社会や循環型社会は無いのではないだろうか。

ここでいう薪の「こんなの使ってられない」は、前段で触れられているのですが、暖房が薪ストーブから石油ストーブに切り替わった昭和40年頃、薪ストーブをやめた理由として、囲炉裏と比較して、当時の燃焼効率の低い薪ストーブに対して「こんなに薪を使う暖房は使っていられない」という感覚を抱いた、というのです。
薪を取るのが面倒だとか、石油が便利だった、というわけではなく、感覚としてもっている、「このぐらいの量の薪なら、このぐらい暖まる」ということから外れたことへの、当然といえる気持ちだったのでしょう。

翻って現代の暮らしを見てみると、燃料の価格を自分の現金収入と比較し、それが安いというだけの理由で化石燃料を消費する、と新妻さんは指摘しています。

どのぐらいの燃料で、どのぐらいのことが出来る、という感覚を持っておくことなしに、今の社会からの脱却は出来ないのだ、と。

せめて電気を測ってみる。

家庭に届く商用電力のほとんどは、石油やガス、原子力といった1次エネルギーを遠くの(NIMBYな)発電所で、お湯を沸かして上記でタービンを回し、電気を作り、送電線を通って家庭に届けられます。このとき、熱の全てが発電に利用されるわけではなく、環境中に排熱されます。
熱効率は、火力の場合で、40〜50%台。原子力の場合は30%程度です。
さらに、送電時のロスも加わります。元々の燃料のボリューム感もつかみ難いですが、届いた時点で、すでに「どのぐらいの燃料」という感覚を持つのは難しいですね。

ヒトの基礎代謝は、性別、体重、年齢でかなり差はありますが、例えば30歳男性、体重65kgの場合で、1日およそ1450kcal。
これをキロワット時に換算してみると、1日で約1.68kWh。1時間当たりでは、約70Whです。
乱暴な計算ですが、何にもしていない30歳65kg男性の待機電力、70Wh。
…余計にわかりにくくなりましたね…。これは基礎代謝だけからの値ですが、基礎代謝はカロリー消費の60〜70%程度と言われますので、これを換算すると、ヒト一人あたり100W、という、よく言われる値に近くなります。

さて、それも頭にいれながら、電力を測ってみましょう。

測定に使ったのはこれ。最近いろいろなWEBサイトでもお目にかかる、サンワサプライのワットチェッカーPlus TAP-TST7です。
サンワサプライのワットチェッカーPlus TAP-TST7
電力(W)だけでなく、電圧、電流、皮相電力等の測定が出来る他、あらかじめ設定した電力単価やCO2排出係数に基づいて、電力料金やCO2排出量などもカウントできます。

では計測開始。

炊飯器。消費電力 炊飯時1210W、保温時900Wという仕様です。
ヒトの消費エネルギーより、ずいぶん多いですね。

炊飯開始。

炊飯器の電力988w

炊飯器の電力


988W。
炊飯中はかなり前後しながらも、1000Wを超えずに炊飯がおわりました。
この炊飯器には、電気料金表示機能がついています。今回の炊飯、5.1円なり(22円/kWh設定)。
0.23kWhぐらいの電力消費です。ワット時になおすと、230Wh。
炊飯器の電気料金表示5.1円

炊飯器の電気料金表示


この炊飯器は最近のものだけあって、炊飯後、保温後の電力が表示されます。
ただ、エアコン等と違って、炊飯器の電力が表示されても、どうしたらいいものか…。保温時間を短くするとか、電気をやめて鍋で炊こうとか、そういう行動につなげていくのかな。

次は扇風機。2001年製、定格48W。
扇風機
「強」で運転すると50W。

扇風機強50w

扇風機強50w


ここからさらに首振りをしてみると、52W。
首振りのモーターが2Wぐらいなのかぁ、とわかる。
扇風機首振り52w

扇風機首振り52w


扇風機は昨今DCモーター化され、かなりの省電力化が進んでいます。節電目的で、エアコンの補助や代替で扇風機を選ぶなら、ここにも注目です。

さて、2006年のエアコン。定格能力4kW。

エアコン待機電力5w

エアコン待機電力5W


待機電力を5Wも食っています。5Wというと少ないように感じますが、何もしていなくても5Wということは、仮に1年間、使用せずにほうっておくだけでも、43800Whの消費。電気料金単価を22円/kWhで計算すると、約960円です。
なお、最近のエアコンでは待機電力がほぼかからないようになってきています。

このエアコンを、あえて冷房負荷が大きくなるよう、室温30℃のところ、室温設定を24℃にして運転してみました。すぐに1000W超え。

エアコンフル稼働電力1158w

エアコンフル稼働電力1158w


エアコンは、フル稼働に近い状態で運転するほうがCOPが高くなると言われています。効率という面ではそうかもしれませんが、消費電力も当然高くなります。設定温度に近づけば消費電力は落ちていきます。

次はノートパソコン。ACアダプタは80Wとなっています。まあ、こんなものでしょうか。ちょっと大変な計算やら、負荷をかけると消費電力があがって、なんだか申し訳ない気持ちに。

ノートパソコン電力48w

ノートパソコン電力48w


さて、家電分野でやり玉に挙げられる暖房便座。これは年式がわからない、かなり古いものです。
暖房便座電力66w

暖房便座電力66w


気温30℃の状態から、もっとも低い温度設定にしても、この66w値。
冬場はもっと高くなることが想像できます。仮に通年この値だったとしても、年間578kWhの消費。先ほどの料金設定で計算すると、年間1万2千円強。この便座には、おしりを洗う機能などなく、ただ便座を暖めるだけのものです。一日何分か、家族のケツが冷たくないようにするだけで、年1万2千円。暖房便座がやり玉にあげられるのも仕方がないでしょう。

10年ほど前の暖房便座(洗浄機能付き)の、暖房を切ってみたところ、待機電力が少しかかっています。

暖房便座の暖房を切った待機電力3w

暖房便座の暖房を切った待機電力3w


昨今の製品は改良が進み、人感センサーなどで、待機時の消費電力を減らしているようですが、そもそも本当に必要なのか、ちょっと問うてみる必要もあるでしょう。

ドライヤー。2010年製、定格1200W。
ドライヤー
フルパワーで動かしてみると、このぐらい。

ドライヤーの電力1026w

ドライヤーの電力1026w


まあ、仕様通りです。ドライヤーのような、電気を熱に変換する家電は、効率を上げるのが難しく、また大きな電力も必要とします。
ただ、ドライヤーは長時間使い続ける性質のものではありません。1kWの出力で毎日1時間つかったとしても、365kWh。先の旧型暖房便座には及びません。

掃除機。定格1000W。

掃除機電力885w

掃除機電力885w


掃除機は熱に変換する家電ではない割に、消費電力が多いのです。強運転だとこんな値。ただし、運転しているだけで、何も吸い込んでいませんので、実際に使用するともう少し電力消費が増えるのでしょう。
掃除機弱の電力171w

掃除機弱の電力171w


弱運転だと、こんなに低い値。掃除機は、家庭によって使用頻度・方法にかなり差がありそうですが、これだけ電力に差が出るということは覚えておいてもよさそうです。

こちらも悪名高い電気ポット。

電気ポット電力907w

電気ポット電力907w


電気で熱を作るのは、あんまりよろしくないなあ…。
ポットは、沸かし終わって保温になれば、ここまでの消費はしませんが、それでも100W級、ヒト、一人分の消費を続けます。

エネルギーを何に換算するか

住宅の消費エネルギーの計算では、一次エネルギー消費の量を求めるようになっています。
このときの単位はGJ(ギガジュール)です。
GJではピンとこない、ということで、電気だったらいくら分、ガスだったらいくら分、というような換算をするケースもよく見られるようになってきました。

値段に換算するのは、たしかにわかりやすいのですが、ここで先の新妻氏の指摘をもう一度引用しましょう。

人々は自分がどのぐらい動けば100Wなのか分っているのだろうか。これに対して、薪を自給する人の「こんなの使ってられない」や、食べ物を自給する人の「もったいない」は全身で感じているものである。この感覚が国民一人一人に無ければ、本当の意味での低炭素社会や循環型社会は無いのではないだろうか。

無意識のうちに使われる、多くの待機電力やヒーター類などを、単に料金、という財布の話だけにせず、それはどのぐらいの労力なのだ、と意識すること。

HEMSのような高機能は備えませんが、こうしたメーターで、気になるものを測ってみるのは、いろいろな発見があって、お勧めです。
電力も「見える化」よりも「見る」という能動的な行為で見てみると、また違う発想が生まれてきそうです。

参考文献
新妻弘明「地産地消のエネルギー」