びおの珠玉記事
第173回
果物の宝石、さくらんぼ
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2009年06月05日の過去記事より再掲載)
本来のさくらんぼの旬はとても短く、人気種の佐藤錦では、6月下旬から7月上旬、ハウスものを含めても5月中旬から程度と、収穫時期も限られる上、温度変化や衝撃等にも弱いため、収穫してからの保存もきかないため、果物のなかでも、特に旬のハッキリしたものだと言えます。
見ての通りのかわいらしい、やわらかい果物ですから、収穫も手作業が基本で、温度による変化をさけるため、早朝に行われます。
そんなふうに、手間ひまかけてつくられたさくらんぼは、「果物の宝石」とも呼ばれ、夏の贈答品としても高い人気です。
さくらんぼの色と栄養
国産のさくらんぼと、輸入もののアメリカンチェリーなどとでは、色が随分違います。
さくらんぼの色は、主にカロチンの黄色と、アントシアニンの紫に由来するものですが、輸入ものにはカロチンが少なくアントシアニンが多いため、紫が強く濃い色です。大して国産はカロチンが多いため、黄色が強く明るい色です。
カロチンは疲れ目や肌荒れの予防に、アントシアニンは高酸化作用による老化防止などがいわれます。
けれど、さくらんぼ自体、そんなに大量に食べられるものではありませんし、いつでも食べられるものでもありません。
栄養を気にして食べるよりも、今しか食べられない、見た目もかわいいさくらんぼを笑顔で食べることが何よりの心の栄養ですよね。
その日のうちに食べよう!
さくらんぼは非常に痛みやすいため、冷蔵庫に入れても一日程度で味が落ちてしまいます。
すぐに食べてしまうのが一番いいのですが、たくさん頂いたなどで食べきれないときは、思い切って冷凍してみましょう。普段の食感とは違ったおいしさです。けれど、「旬ナビ」としては、やはり旬のものは、旬のときに食べてほしいと考えていますので、早めにいただきましょう。
さくらんぼの歴史と生態
さくらんぼの歴史は古く、中国でも五経の一つである礼記に記載があり、紀元前から食べられていたようです。
中国からは、江戸時代に日本に入ってきたと言われますが、日本の気候にはあわず、普及しませんでした。
明治時代になると、ヨーロッパの苗木が入ってくるようになります。
現在人気の品種「佐藤錦」は、ヨーロッパ原産の「ナポレオン」を日本で改良したものです。日本のさくらんぼ生産量のうち、およそ7割以上がこの佐藤錦です。
前述した様に、日持ちしない果物ですから、以前は収穫地でのみ食べられ、遠方ではシロップ漬けのようなものしか食べられなかったのですが、昨今の輸送技術の発達で、日本全国で食べられる様になりました。
「佐藤錦」が圧倒的シェアですが、黄色い「月山錦」や、晩生で収穫期が異なる「紅てまり」などの新種も生まれています。
さくらんぼは、自家不和合性の植物で、一般的には自家受粉をしません。結実させるために異なる種類で交配が必要です。
人気の「佐藤錦」だけを植えても、実が出来ないのです。受粉のためにかけあわせる別の種類の樹も必要です。この受粉樹の品種を改良することで、現在の品種を生産するとともに、収穫期をずらしたり、輸送性の高い品種などが生み出されて来ています。
宝石の悲劇
さくらんぼは、苗木を植えてから10年でようやく収穫出来る様になり、一年のうち、ほんのわずかな間だけ収穫出来る、手間のかかる果物です。
悲しいことに、これを狙っての泥棒が後を絶たないそうです。
もちろん、手間がかかる果物はさくらんぼ以外にもたくさんありますが、高級商品として高く売れること、重量あたりの値段が高いことなどから狙われるようです。
一度に100キロ以上も盗まれてしまうケースもあるということなので、自分で食べるためではなく、商品として流通するのが目的でしょうし、その量からいっても一人ではなく集団の犯行なのでしょう。
犯行の背景には、さくらんぼの高級化と、輸送技術や、ネット販売などの流通経路の発達があるといわれます。
盗難防止のための監視・検知システムなども開発されているようですが、そういうものを導入すれば、ますますさくらんぼは高価になってしまいます。
本来は、地元で楽しまれていたはずのかわいい果物が、いつのまにか高級な「商材」となったために起こった悲劇です。もちろん、泥棒が一番悪く、行為は肯定出来るものではありません。生産者の怒りと悲しみは、推し量っても余りあります。
消費者は、お金を出せば大抵のものが買える時代になりました。一方で、クロマグロのように、その飽食の結果、資源の枯渇が問題になることも出てきました。
農作物と遠洋漁業では事情が異なりますが、高級食材は、いつも食べるよりも、やっぱり「ハレの日」の贅沢として、時々食べるからこそありがたいのかもしれません。
さくらんぼの旬は短いです。贈ったり、贈られたりするかたは、そんな背景も少し思い出しながら、でも食べるときには、笑顔でいただきたいですね。
山形の今!さくらんぼ情報
https://www.pref.yamagata.jp/140032/sangyo/nourinsuisangyou/nogyo/nousambutsu/sakurambo/sakuranbo.html
さくらんぼの生育の進み具合が確認できます。旬がわかりますよ!