まちの中の建築スケッチ
第87回
小笠原伯爵邸
——元邸宅のレストラン——
小笠原伯爵邸は、新宿区河田町にある。かつて初孫が、東京女子医大病院で生まれた時に、妻と病院に見舞い、娘をねぎらったことがある。その後に、すぐ近くだったので、気になる建物として眺めたことを覚えている。もはや記憶もあいまいで、その時に中を見せてもらっていたかもしれない。河田町は、母の岐高女時代の友人が住まわれていて、子供の時、母に付いて何度か来たこともあるところだ。その頃は、都の施設として利用されていたらしい。
馬込からは、今は都営浅草線、三田線、大江戸線と乗り換えて、シルバーパスで行けるのは有難い。駅構内の案内地図に小笠原伯爵邸は見あたらず、出口を出たところの地図にも、見つからない。緑色の場所かと行ってみると児童公園だった。再度周りを見回して、病院に近いところへ歩を進めると、明るいベージュ色の壁、洋風の平屋(一部2階)が見えた。大きな楠の木があって、小さく「OGA Caffe」の看板が出ていた。Closed(11:30オープン)になっている。これは間違えないと、一回りして見て、正面からスケッチすることにした。
ニュージーランドに居たときも、古い邸宅がレストランやカフェになっているところは少なくなく、そんな雰囲気も感じた。大江戸線若松河田駅の出口は、若松口と河田口があり、河田口からは、直ぐの場所で、アプローチの道もゆったりしていて、楠の大樹の元の伯爵邸は、平屋で静かな佇まいである。
昭和2年竣工の邸宅で、曽根中條建築事務所の設計、まもなく100年になる。2002年に改装されてよみがえり、レストランになっている、以前の東京都庭園美術館に似た感じもある。庭園美術館はアールヌーヴォに魅せられた朝香宮の邸宅で、フランス風ということか。小笠原伯爵邸は、スペイン風で、屋根も緩勾配の青の丸瓦。入口の奥には灯りのスタンドが見える。庇はスティールの格子で薄く、すっきりしている。建物の足元も低い丈の緑が回っていて、そして何より、大樹の楠の木が見事だ。
こうして始めは住居として使われた建物が、その後も持主が変わって長く使われて、今は食堂やラウンジも、多くの人が心地よく利用できるようになっているのは、まちの構成要素としても気持ちよいものである。多くの建築が、このように長く存在することで人の記憶にも残り、景観を作ってくれるのは良い。