びおの珠玉記事
第195回
調理器具を見なおそう。ひじきと鉄の関係を通じて―
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2016年03月20日の過去記事より再掲載)
鉄部が豊富(?)な羊栖菜
磯に生えている状態のひじきが鹿の尾に似ていることから、「鹿尾菜」と名付けられました。読みの「ひじき」は、「隙透藻(ひますきも)」が転じたとされています。煮物などでよく使われるのは、このうち芽の部分の「芽ひじき」です。
他の海藻に比べると、風味・旨味が少なく、長時間茹で、煮込んで食べるのが定番です。
ひじきは鉄分が豊富に含まれ…というのが常套句でしたが、ちょっと事情が変わってきました
昨年12月に発表された「日本食品標準成分表」の改訂版の発表内容が話題になりました。「鉄分の王様」といわれていたひじきは、従来は100グラムあたり鉄分が55ミリグラム含まれている、とされていましたが、今回は6.2ミリグラムと、およそ9分の1に減少しました。
この激変、実はひじきそのものに変化があったわけではありません。下処理に使う器具が、鉄からステンレスに変わったことが要因と見られています。
ひじきは、生で食すのには向かず、長時間煮込んでから乾燥されます。この煮込み時間の長さで、鉄釜から出る鉄分が含まれたのではないか、ということです。
これに対して、ひじきの業界団体・日本ひじき協議会では、釜による違いはなく、産地別の含有量の違いの可能性に言及しています。産地の違いによる差違の可能性はあるにしても、このような鉄釜に限らず、私たちが普段調理で使用する鉄製の器具からは、多くの鉄分が溶け出し料理に含まれることはこれまでも指摘されてきました。
鉄製の調理器具の鉄は純鉄で、食品に含まれる鉄分のように消化というプロセスが要らないため、吸収されやすいといわれています。
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鉄フライパンで煮てみました。
鉄のフライパン
フライパンも、家庭向けにはテフロンなどの樹脂加工がされたアルミ製が主流となりました。焦げ付きにくく、油もほとんど不要、手入れもいらず、手軽です。けれど、樹脂加工はやがて剥がれてきて、初期の性能を発揮できなくなります。剥がれたものを一緒に食べてしまうかもしれないのも抵抗があります。そうなると、フライパンの買い替えへ。料理の頻度にもよりますが、数年ももたないことがあります。
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樹脂加工フライパンの「剥がれ」
鉄のフライパンは、最初に防錆材を落とすために空焼きをしなければいけませんし、油をなじませる行程も必要だし、重いし、洗って濡れたままにしておけば錆びてしまうしと、樹脂加工のフライパンに慣れていると、デメリットばかりが見えてしまいます。
けれど、樹脂加工品と違って、いいものを買えば一生モノです。空焼きは、一生の相棒の使い始めの儀式です。油が馴染むまではちょっと大変かもしれません。たまに焦げ付かせることもあるかもしれません。けれど、その間に自分も慣れていきます。「ちょっと大変」「たまには失敗」というのは、上達する楽しさの裏返しです。
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もちろん肉も旨いですよ。
樹脂加工のときには使えなかった金属製のターナーも使い放題、もし焦げ付いたらガシガシと剥ぎ取ってやればいいのです。
分厚い鉄のフライパンは、自在に振るというわけにはいかないかもしれませんが、その分食材への熱が均一に、穏やかに伝わります。手入れだって、洗剤でピカピカにする必要はなく、適度に油が残るぐらいに流して拭いておけば大丈夫。その上、鉄分も摂れるし、一生使える、となれば、もっと鉄の調理器具を見なおしてもいいのではないでしょうか。
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自分にも道具にも、ちょっとずつ年季が入っていく。