びおの珠玉記事

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身の丈の乗り物「ママチャリ」に習う

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから再掲載しました。
(2012年04月30日の過去記事より再掲載)

ママチャリ

走行時に化石燃料を使わず、体力向上を同時に図れる素敵な乗り物、自転車。

昨今のエネルギー問題を契機に自転車に乗り始めた人も増えているようです。
平成20年の推計では、全国の自転車保有台数は6910万台。この数はより増えていると推測されています。

「自転車」と聞いて想像する乗り物は、人それぞれ。
ロードバイクを想像する人だったり、マウンテンバイクだったり、クロスバイクだったり。
そんな自転車のジャンルに、さんぜんと輝く古典的カテゴリーがあります。
「ママチャリ」です。

身の回りにいる「自転車に詳しい人」に、「自転車をはじめたいんだけど」と相談した場合、ママチャリを勧められることは、まず滅多にないでしょう。

自転車でありながら、自転車好きからは黙殺されがちな 「ママチャリ」。

スポーツ車に比べると重く、動力性能でははるかに劣ります。
ライトや反射材などの保安装備も標準装備。カゴやキャリアもついていて、生活感いっぱいです。
ある視点から見れば欠点となるこれらの特徴も、視点を変えれば、可能性やヒントに満ち溢れています。
ママチャリには、これからの暮らしやエネルギーを考えるヒントが一杯なのです。

ママチャリってなんだ

たとえば国内大手のブリジストン自転車のWEBサイトでは、「ママチャリ」というカテゴリーはありません。

それっぽいものを探してみると、「シティサイクル」という区分にあたります。
「ママチャリ」の語源は、ママ(おかあちゃん)御用達のチャリ(自転車)でしょう。しかし今では、ママにかぎらず、高校生も、オッチャンも、老若男女が実はママチャリに乗っています。

ママチャリは、速度は決して早くなく、遠くに行くのは大変な自転車です。ママチャリが普及した背景には、もともとは地域の街並み、商圏の存在があったと言えるでしょう。
日本固有の進化を遂げた携帯電話を、ガラパゴス諸島の動物になぞらえて「ガラパゴスケータイ」と揶揄する呼び方がありました。ママチャリも、世界的に見ても同様のカテゴリーは少ないようで、ある意味「ガラパゴス自転車」といえるかもしれません。
実は、世界初の電動アシスト自転車も、ママチャリ型のヤマハ「PAS」でした。

都市部に多い自転車

1970年に2764万3千台と推計されていた日本の自転車保有台数は、2008年推計で6910万台となっています。

保有台数 人口/台数
北海道 2,834 2
青森 601 2.4
岩手 541 2.5
宮城 791 3
秋田 456 2.5
山形 536 2.2
福島 794 2.6
茨城 1,242 2.4
栃木 928 2.2
群馬 889 2.3
埼玉 5,436 1.3
千葉 3,763 1.6
東京 8,999 1.4
神奈川 5,315 1.7
新潟 1,121 2.2
富山 459 2.4
石川 493 2.4
福井 394 2.1
山梨 374 2.3
長野 830 2.6
岐阜 857 2.4
静岡 1,709 2.2
愛知 4,084 1.8
三重 1,039 1.8
滋賀 817 1.7
京都 1,656 1.5
大阪 6,515 1.3
兵庫 3,390 1.6
奈良 772 1.8
和歌山 584 1.8
鳥取 307 2
島根 307 2.4
岡山 1,035 1.9
広島 1,404 2
山口 679 2.2
徳島 443 1.8
香川 606 1.7
愛媛 771 1.9
高知 412 1.9
福岡 1,870 2.7
佐賀 380 2.3
長崎 319 4.6
熊本 741 2.5
大分 523 2.3
宮崎 418 2.8
鹿児島 435 4
沖縄 230 6
合計 69,100 1.8


自転車1台あたりの人口を覧てみると、都市部で保有率が高いことがわかります。

もっとも高いのは埼玉県、次いで大阪、東京の順です。
逆に自転車保有率が低いのは、沖縄、長崎、鹿児島の順です。

東京近郊の商店街には自転車で買い物に来ている人も多く目にします。大阪の街中も自転車がいっぱいで、ボーっと歩いているとすぐにはね飛ばされそうなほど(ゴメンナサイ、偏見でしょうか?)。

この表からは、ママチャリの比率はわかりませんが、大都市近郊で自転車の保有が多いのは確かなようです。

自転車、とくに両足スタンドのついたママチャリは場所もとりません。自動車と比べても圧倒的な省スペース。スピードや積載力には劣りますが、これは都市部では大きな魅力の一つになっているのでしょう。

駐輪場

両足スタンドのママチャリは、自動車に比べて圧倒的な省スペース。

「選択と集中」から「分散」に進めるか

都市部に自転車が多い、言い換えると鉄道などの公共交通機関が発達した地域に自転車が多いことになります。駅の数も多く、小規模な駅前商店街がある地域では、自転車の実用車としての存在価値が高まるということでしょう。

古くからある商店街や住宅街は、道の幅員も大きくはなく、自転車にマッチした形態です。ところが、ママチャリユーザーだったママさんたちの自動車免許取得が進み、ママチャリは50CCのオートバイや軽自動車に市場を奪われていきました。

自転車、特にママチャリは長距離移動が得意ではありません。地方では、大型ショッピングセンターの出現により地元商店街がシャッター通り化するという、選択と集中ともいえる状態が依然として続いています。地方では、自動車がないと生活できないといわれる一番の現象です。
あげくの果てにそのショッピングセンターが撤退してしまうというケースもあり、こうなると、なんだか発電所の問題とダブって考えてしまいます。効率優先で大規模化して集中するけれど、いざ何か問題があれば、大きな影響が出てしまう――。
このことは、昨年来、私達が悲しい経験を通じて学んできたことでもあります。

大型ショッピングセンターに自動車で乗り付け、たくさんのモノを買って帰る。「景気の向上」には協力できるのかもしれませんが、この「集中」がうまくいかなくなったら…。

自転車で行ける距離。自転車で買える量。
あんまり多くのエネルギーを使わずに、必要なだけを近所で調達する。このサイクルは前述のように乱され、特に地方都市では絶滅に瀕しています。
商店街も、自動車で来た客には駐車券を発行したりとサービスをしますが、自転車のお客向けのサービスは、なかなかお目にかかれません。
ほんのチョットの距離ならば、少しの買い物ならば、何も自動車を出すこともないのですが。
一旦味わった「便利」は、なかなか手放すことができないのです。

自転車かご

大きめのバッグも標準装備のカゴにすっぽり。

自転車の扱い

今年度もエコカー減税が実施されています。燃費、排ガスなどお題目はいろいろありますが、自動車メーカー向けの販促措置の要素が決定的に大きいでしょう。
自転車は、こと走行時に関していえば、一切のCO2を排出しません(運転者の呼吸は、ちょっと荒くはなりますが)。電動アシスト車にしても、自動車よりも圧倒的に小さなエネルギーで、あくまで主役は人力です。どんな自動車よりも「エコ」なはずですが、自転車減税、なんて見たことがありません(もともと消費税しかかかっていませんが)。

自転車に対する直接の補助は、市町レベルでの取り組みこそ散見されますが、国としての大きな動きはなかなか見られません。自転車にやさしいまちづくり、道づくりの取り組みもなくはないのですが、あまり目立っているとはいえません。

自転車専用道

車道の一部が自転車専用にされた例。


実の所は、自動車税も重量税もない自転車は、別に増えなくてもいい、ということなのでしょうか。

過度の集中に抱えていた漠然とした不安が現実に見えてきた今、ママチャリ文化の再発掘は決してノスタルジーだけではないはずです。ふだんは地元で在宅ワーク、ノマドワークなどの働き方には、実はママチャリがぴったり会うかもしれません。

リーズナブルな価格で、日々の暮らしにあった性能と装備を備えるママチャリ。町おこしにも、そして日々の生活にも、そのコンセプトでいろいろなものを見直すと、社会が変わってくるかもしれません。

ママチャリ

コンパクトな街・コンパクトな家には自転車が似合うはず。

参考
世界が賞賛した日本の街の秘密(チェスター・リーブス著 服部桂郎訳 洋泉社)