びおの珠玉記事
第204回
立てば芍薬、花づくりの現場から。
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから再掲載しました。
(2009年04月30日の過去記事より再掲載)
朝の収穫
朝5時。芍薬の収穫は日の出とともに始まります。初夏とはいえ早朝の空気は冷たく、芍薬のつぼみや葉は夜露に濡れています。空の高いところでヒバリのさえずりが聞こえます。はじめは辛い早起きも、しだいに体が慣れるとすがすがしく気持ちのよいものです。芍薬の朝の収穫は、毎年4月の末から5月の半ばまで毎日続きます。


朝6時頃の光。

収穫は8時頃まで。朝の光が強いと、色がみずらい
芍薬は「草」
芍薬の花は牡丹に良く似ていますが、牡丹が「樹」に対して、芍薬は「草」という大きな違いがあります。芍薬は地中の株から茎を出して花を咲かせます。地上部分は秋には枯れ、冬は地中に眠り、春にふたたび株から赤い芽を出します。「立てば芍薬、座れば牡丹・・」という美しい女性をたとえた旧い言葉にあるように、芍薬はまっすぐ伸びた茎の長さ、その上のあでやかな花が特徴的です。中国の北東部などが原産地といわれています。
- 左写真 羽衣(はごろも)
- 右写真 相模白(さがみしろ)
- 左写真 皐月(さつき)
- 右写真 賜金(しきん)
街の花屋さんの芍薬
街の花屋さんの店先に並ぶ、さまざまな花をみると、きれいに咲いた花が目立ってつぼみは少し、というのがふつうです。でも、芍薬だけは、すべてつぼみの状態で店に並びます。芍薬は満開の状態だけでなく、つぼみが徐々に緩んで花弁が開いていく過程も美しく、その変化に楽しみがあるためです。だからちょっと華やかな花屋さんの店先にあって、つぼみのままの芍薬はおとなしい印象を受けるかもしれません。
咲く気分、になっている?
というわけで、芍薬の収穫はまだ固く閉じたつぼみの状態で収穫します。でも、切る時期が早すぎると、活けても大きく咲かない、ひどいとつぼみが開かない花になってしまいます。私たちはそれを「咲く気分になっていない」といいます。ときどき、芍薬を咲かすのは難しい、咲かなかったという声を聞きます。それは生産者がつぼみの状態で出荷しようとするあまり、早く切りすぎたため、その芍薬はおそらく、「咲く気分」ではなかったのでしょう。
- 左写真 まだ咲く気分じゃない
- 右写真 咲く気分
つぼみを観察する
その花に「咲く気分」があるかないか、朝の収穫の際、観察することが大切です。つぼみの外側の花弁うっすら色づきはじめ、その花の持つ本来の色が鮮やかに出ているか。硬かったつぼみがほんのりふくらみ“動く気配がある”。それが切り時です。そのタイミングを逸するとつぼみが膨らみすぎてしまい、売り物にはなりません。早朝のやわらかな光は、そんな芍薬のつぼみの色を観察するのにちょうどよいのです。
芍薬に見る欧米と日本の価値観の違い
芍薬とひとくちに言ってもその種類は多様で、色は赤、紫、ピンク、白、黄色……。赤は赤でも濃い色、薄い色、白色が差し込まれたものなど。花弁の形も一重のシンプルなものから八重の華やかなものまであり、大きさもこぶし大から20センチ。高さも30センチから1mを超すものも。これらは品種改良によって生まれた成果。日本や中国の芍薬が外国(オランダやアメリカなど)で品種改良されたもの(洋芍という)は、はっきりとした色あいや、花ぶりも豪華で日本の芍薬とは違った趣があります。花に対する価値観の違いがあらわれて面白いです。
- 左写真 ポーラフェイ
露地栽培の宿命
今年は暖冬の影響か、例年より1週間も早く、4月16日に収穫が始まりました。これは異例の早さです。先に、芍薬の収穫時期は「4月末から5月半ば」と書きましたが、これは年々早くなっての結果。ほんの10年ほど前までは、5月に入ってようやく収穫が始まり、6月になって切る年もありました。冬に霜が降りない、つららが出来ない、真夏日が30日も続く・・・短い期間に環境が大きく変化しているのは植物でも同じこと。畑でどんどん膨らむ芍薬のつぼみにとまどいながら追われるように収穫、出荷を行っています。温室栽培でない、太陽のめぐみと冬の寒さで育つ露地栽培の芍薬は、こうした気候の変動の影響を受けています。
- 左写真 出荷作業。茎の長短で選別します。
- 右写真 つぼみが開いてしまった花は家で楽しみます。
湘南・茅ヶ崎海岸にほど近い寒川町で、戦前より芍薬を露地栽培しています。
神奈川県高座郡寒川町田端 874
TEL . FAX 0467-75-0724
ホームページ:http://otani-farm.net/
ブログ:http://otaninoen.exblog.jp/