びおの珠玉記事

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雑節・入梅、雨、傘、蛍。

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから再掲載しました。
(2013年06月11日の過去記事より再掲載)

蛍

芒種の次候、「腐草為蛍」です。腐った草がホタルになる、という、古い言い伝えによるもので、昔の人のロマンを感じるか、非科学を笑うか、どちらにしても、七十二候の中でも一風変わった候といえます。

この頃は、雑節の入梅にもあたります。雑節には、節分、八十八夜のように、立春を起点として日付がはっきりしているものもあれば、入梅のように、だいたい6月11日頃、というものもあります。

梅雨入り宣言は、実は宣言、というほどはっきりしたものではなく、「○○日ごろ梅雨入りしたとみられる」というような、何か他人ごとのような発表で、なんとなく行われます。

雨降りの日は、なんとなく気が重い。なぜでしょうか。動物も、雨の時には活動が鈍くなる傾向があります。雨にうたれて体温が低下することは、エネルギーコストパフォーマンスがよくないからです。

少なくとも日本人は、雨に濡れるのをあまり好まないようです。「天気予報」も、明日傘を持っていくかどうか、ということをしきりに伝えます。

6月11日は、「傘の日」でもあります。

ヨーロッパでは、日本ほどに傘をさしません。雨の量自体も日本より少ないのですが、雨が降ったら走る、雨宿りする、そのまま濡れる、という人が多いようです。
東南アジアでは、傘など役立たないほどのスコールがあったり、オートバイ移動が多かったりで、やはり傘がそんなに使われません。

これらの国に比べ、日本人は傘が好き、なようです。ちょっとした雨でも傘がほしい。というニーズに応えてか、いまやビニール傘は100円ほどの低価格で販売されています。これらのほとんどは輸入品で、昨年、2012年の洋傘の輸入量は、1億3千万本を超えています。毎年のように、人口に匹敵する量の傘が輸入されているのです。
ビニール傘

町角に、骨が折れてひっくり返ったビニール傘をみることがあります。低価格なビニール傘は、その耐久性も高くありませんし、低価格故に壊れれば放棄しても惜しくない、ということなのでしょうけれど…

もっとも、ビニール傘だからといって全てが使い捨て的なもの、というわけではありません。中には宮内庁御用達ビニール傘もあるのです。ビニール傘特有の下からの風のあおりに対して、風抜きの穴をあけて対応し、先端にはアルミパーツなども使用。そこまでしてなぜビニール傘か。それは、傘をさしてしまうと顔が見えなくなってしまう、という配慮からだそうです。

さて、洋傘の形状は、もうずっと変化していません。大きい傘なら体が濡れにくい。小さい傘なら濡れやすい。当たり前ですね。でも、これが家の屋根になると、当たり前じゃあなくなってしまうようです。

「風雨をしのぐ」という言葉もあるように、雨や風から人や財産をまもる、ということが、住宅の基本的な機能の一つです。

基本的ではあるが故に、その部分のトラブルは問題になりがちです。
戸建住宅のトラブルとして最も多く報告されているのは、外壁の雨漏り・ひび割れです(公益財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センター2012報告書より)。2位の床の傾斜・変形についで、屋根の雨漏り、はがれは、3位です。
(この調査は、あくまで紛争処理支援センターへの電話相談があったものであり、実態をそのまま反映しているわけではないことに注意が必要です)

雨漏り発生の条件は『雨水があること』「雨水が侵入する隙間があること」「雨水を侵入させる力が働くこと」の三つがすべてなりたつことで、逆にこの中のどれか一つを取り除けば雨漏りは防げます。

防水用の材料・工法は進歩し、「隙間」と「力」を抑えることで雨漏りさせない、ということが可能になりました。それは、もっとも基本的といえる「雨水がある」ということに対する備えをしなくてもよい、ということになり、デザインの自由度を増すことになりました。従来は「大きな傘」で、身体の濡れを抑えようとしていたものが、「小さな傘」で、頭だけは濡れないけれど、しかしそれは、残りの二つだけで、しっかり雨漏りを防がなければならない、ということでもあります。

「雨水」「隙間」「侵入させる力」は、それぞれが補いあえるよう、どれかだけに頼り過ぎないことが肝心ですが、大きな軒の出は、「雨水がある」ということを大幅に防ぎ、またそれだけでなく、夏の日射を防ぎます。洗濯物・干し柿、等など、ユーティリティとしての軒下も見逃せません。決して懐古主義、というわけではなく、理にかなった日本の一つのかたちです。

さて、冒頭に話が出たホタル。ホタルは綺麗な水を好む、といいますが、何よりもその餌となるカワニナが生息できる環境が必要です。そのカワニナは、水質はもちろんのこと、植物プランクトンを餌としています。その植物プランクトンを育むには、カニやザリガニなどの排泄物が必要で、そしてこれらはホタルの天敵でもあります。生存するための環境に、天敵も存在しなければならない―。

快適のために、あれやこれやと、いろいろなものを排除していくと、実は自分に必要な物も排除する、ということになるかもしれません。バランスを壊すのは簡単ですが、元に戻すのは容易ではありません。