びおの珠玉記事

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昆布

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから再掲載しました。
(2013年06月26日の過去記事より再掲載)

昆布

昆布の旬

主役を張ることは少ないものの、これを欠かしたら日本の料理は成り立たない、とさえ思える海藻、昆布。
今ごろから養殖物の収穫がはじまり、9月ごろまでが昆布の旬です。
とはいっても、一般的な旬の食材のように、この時期だけしか食べられない、というものではありません。この時期に収穫された昆布は、乾燥されて通年流通します。
日本の昆布の95%は北海道で、そのほかは東北・三陸海岸沿いで収穫されます。

昆布の道

日本では天然の昆布は北海道・東北だけに分布しますが、古くから昆布は各地で親しまれてきました。
かつて夷布(エビスメ)とも呼ばれ、蝦夷地から朝廷への献上され、東北地方から朝廷への租税としても昆布が用いられていました。
北海道の昆布は、日本海をわたって富山に入り、そこから京都へ、また九州や沖縄へも伝わりました。

沖縄・那覇市では、一世帯あたりの魚介類の購入量では全国の県庁所在地で最も少ない一方で、昆布のそれは、17位と上位に属します(総務省家計調査・平成22〜24年平均)。たしかに、沖縄の料理には昆布が多く使われています。そして1位は、貿易の要になっていた富山市です。

江戸時代、薩摩藩では昆布を琉球との交易を行ない、それはやがて中国との密貿易にもつながり、薩摩藩の財政を救い、そして倒幕の資金にもなっていったといいます。
富山の昆布商、奥井海生堂の社長・奥井隆さんの著書「昆布と日本人」には、そうした昆布の歴史が記されています。

【参考資料】

同書では、昆布はワインと共通点があるといい、「ヴィンテージ昆布」のことにも触れています。

ワインはまず、ボルドー産、ブルゴーニュ産、といったように産地で大きく区別されます。さらにシャトーによる違い、そして銘柄の格付けがあります。
昆布も同じように、利尻昆布、日高昆布といったように、産地での区別がされますが、シャトーに該当するのが収穫浜です。「別格浜」「上浜」「中浜」といった具合に、浜の格付けがされています。
さらには、年によって出来栄えが異なり、出来のいい年のものはヴィンテージものとして珍重されるのだとか。
よい昆布は寝かせることでうまみがさらに引き出されるといいます。まさにワインのようですね。

昆布の栄養

日本のうまみ成分といえば、昆布とならんで鰹節があげられます。どちらも海からの恵みです。
羊水は海水と成分が似ていると言いますし、また母乳にも、昆布のうまみ成分でもあるグルタミン酸が多く含まれています。まさに母なる海といったところでしょうか。
ワインも銘柄によって合わせる食事があるように、昆布も産地によって用途が違います。利尻昆布は繊維が固く煮くずれしにくく、色も濁らないことからだしに適し、日高昆布は柔らかく早く煮えることから、煮昆布として適しています。
食べた場合とだしをとった場合では、栄養素はずいぶん違ってきます。
昆布には、カルシウム、マグネシウム、カリウム、ヨウ素、亜鉛などのミネラルが多く含まれます。
昆布に含まれるカリウムには、放射性物質であるカリウム40も含まれます。カリウム40は、原子力発電の事故等によるものではなく、太陽系が出来たときから存在しているといわれるものです。カリウムは必須元素で、成人の体内におよそ4000ベクレル存在しているといわれています。乾燥昆布1kgにはおよそ2000ベクレルのカリウム40が含まれますが、乾燥昆布1kgというと相当の量ですから、普通に昆布を食べることだけでは、カリウムによる被爆を心配する必要はなさそうです。
それよりも、微量栄養素が多く、それでいて低エネルギーの食品として、きちんと食べたい食品です。

和食は無形文化遺産に?

先頃、富士山がユネスコの世界文化遺産に選ばれました。自然遺産での登録が叶わず、「信仰の対象と芸術の源泉」としての文化遺産として登録されることになりました。
当初除外される見込みだった三保の松原も含んでの登録となり、地元静岡県では、結構な騒ぎになっています。

さて、この世界文化遺産とは似て非なる、同じくユネスコの無形文化遺産というものがあります。
こちらに、「和食」を登録しよう、という動きがあります。

日本からは、これまでに能楽や文楽、歌舞伎といった芸能や、越後上布や石州半紙といった工芸品など、22の無形文化遺産が登録されています。

これに「和食;日本人の伝統的な食文化」と題して登録を目指そう、というものです。

さて、ここでいう和食というのは、どんなものなのでしょうか。
登録をめざすリーフレットによると、
「多様で新鮮な食材と素材の味わいを活用」
「バランスがよく、健康的な食生活」
「自然の美しさの表現」
「年中行事との関わり」
の4つがあげられています。昆布は、このすべてに該当するのではないでしょうか。

おせち料理でも「よろこぶ」、また転じて「養老昆布」などとされ尊ばれる昆布が、実は影の主役である、といったら言い過ぎでしょうか。