「ていねいな暮らし」カタログ
第24回
多種と共生する「民話」
——『つち式 二〇一七』
今回ご紹介する『つち式 二〇一七』を知ったのは、TwitterのRT情報でした。
自費出版雑誌。/「生命の弾倉としてのライフマガジン」/「生きる」という、今や比喩表現でしかないこの営みを、あくまで現実的に根柢から生き直そうとする試み。異種生物たちを利用し、異種生物たちに利用されながら成り立つ人間の生の本然を、より生きるための「ライフマガジン」1。
「ライフマガジン」という言葉が気になり、早速取り寄せました。100ページ超えの本誌は、発行人である東千茅氏が運営しているブログ記事を元に編集されているようです。東氏が2015年から奈良県で始めた里山生活の春夏秋冬が、生物たちの紹介的なエッセイと写真、そして里山で生きることの意味を説いた長めの文章とで紹介されています。これまでこの連載で紹介してきたものと比べても、ページ数、文章量が段違いに多く、著者の思索が書き綴られていることが特徴的です。装丁も凝っていて、日々のエッセイと長い日記ページをつなぐように、ピンクや水色にほのかに色づいた特集ページが挿入され、読みやすい作りになっています。
前回の『PERMANENT』でも鶏を解体していただくさまの伝え方について指摘しましたが、『つち式』では「マムシの肉は、鶏肉に似た風味で弾力があって旨い(p.21)」といった記述や、図鑑のように水生昆虫を紹介するページ、そして、家畜として飼っているニワトリ(総称“ニック”)を食べることについての潔いまでの文章が、ニワトリがカエルを食す写真とともに紹介されます。どの時間帯はブトに刺されやすいかなど、経験に即した共生法が言語化されていることもおもしろい点です。このように、本誌では、私たちの生活において、異種との関わりを「遠い」ものとするのではなく「同じ世界の住人としてこんなにも身近に」(p.44)感じることの喜びを繰り返し説いており、「多自然主義」を貫くものとして人類学者たちの間でも注目されています2。
東氏は、『つち式』は「生命たちの絡まり合う土の上の実践」を伝える「現代の民話」なのだと言います3。 なぜ今、このような「民話」が綴られ、反響を得ているのかについて考えることは、「ていねいな暮らし」を見ていく上でも有用なことと思いますので、引き続き考えてみたいと思います。
(2)奥野克己(2018)「現代日本で〈多自然主義〉はいかに可能か──『つち式 二〇一七』、ティモシー・モートン『自然なきエコロジー』ほか」http://10plus1.jp/monthly/2019/01/issue-03.php 2019年2月5日参照.
(3)東千茅(2019)「『つち式 二〇一七』著者解題」、『たぐい』no.1、p.123
※文中のページ表記は、東千茅『つち式 二〇一七』(私家版、2018)からのものです。