色、いろいろの七十二候

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螳螂生・利休鼠の雨

利休鼠の雨版画
こよみの色
芒種
桑色くわいろ #B79B5B
螳螂生
浅紫色あさむらさきいろ #C4A3BF

江戸時代は、茶色と鼠色が好まれていて、四十八茶、百鼠といわれました。茶色は48種類、鼠は100種類あるというのです。
百鼠といっても、百あるわけではなく、茶色より多く、それほど多色を数える色だという意味です。けれども、百と言われると挙げてみたくなるではありませんか。

梅鼠
紅梅の花のような赤みのある鼠色。梅の特産地「豊後」にちなみ、豊後鼠ともいう。
桜鼠
淡い紅色が灰色みをおび、少しくすんだ薄い桜色。
銀鼠
銀色は「しろがねいろ」とも。白に近い灰色。墨の五彩の中の「淡」にあたる。
白鼠
銀の色のような明るい鼠色。墨の五彩の中の一番淡い「清」にあたる。
小町鼠
美女小野小町の名をとった美しい鼠色。銀鼠よりも淡い色。
深川鼠みなと
深川鼠は江戸深川、湊鼠は大坂の湊村。共にいなせな若衆好みの鼠色。
素鼠
まじりっけのない鼠色。墨の五彩の中の「重」(中明度)にあたる。
柳鼠
柳の緑を帯びた鼠色。俗に「豆がら茶」ともいう。
藍鼠
灰みの淡い青色。
紺鼠
藍鼠より、より青みのつよい色。
藤鼠
落ち着いたやわらかみのある青みの紫。和服の色として好まれる。
鳩羽はとば
山鳩の背中の色。赤みの灰紫。
葡萄鼠
にぶい赤紫。「ぶどう」は古名で「えび」。そこから「えび鼠」とも呼ばれる。
どぶ鼠・どぶ
江戸鼠の常用色。墨の五彩の中の「濃」にあたる。

このほかに、紅消鼠べにけしねず都鼠みやこねず小豆鼠あずきねず臙脂鼠えんじねず嵯峨鼠さがねず壁鼠かべねず玉子鼠たまごねず島松鼠しままつねず呉竹鼠くれたけねず松葉鼠まつばねず納戸鼠なんどねず源氏鼠げんじねず濃鼠こいねず紅鼠べにねず江戸鼠えどねず錆鼠さびねず暁鼠あかつきねず生壁鼠なまかべねず
山吹鼠やまぶきねず鴇鼠ときねず牡丹鼠ぼたんねず淀鼠よどねず鴨川鼠かもがわねず軍勝鼠ぐんかつねず空色鼠そらいろねず桔梗鼠ききょうねず相生鼠あいおいねず茶鼠ちゃねず絹鼠きぬねず白梅鼠しらうめねず薄梅鼠うすうめねず青磁鼠せいじねず千草鼠ちぐさねず薄雲鼠うすくもねず紫鼠むらさきねず薄鼠うすねず。これに利休鼠を加えて、51色でした。

さて、利休鼠です。りきゅうねずみ、という人がいますが、りきゅうねずが正解。緑色がかった灰色、地味で品のある色合いから、利休好みの色と想像されたようです。利休といえば「侘茶」ですが、岡倉天心の『茶の本』によると、侘びは不完全の美であって、外見的に不完全なものを、心の中で完成することのできる人にしか、この美は発見できないといいます。この本は、天心がボストン美術館に勤めていた時に英語(タイトル『THE BOOK OF TEA』)で書かれた本でした。
利休鼠が知られるようになったのは、何といっても北原白秋「城ケ島の雨」の歌詞からです。

北原白秋 作詞 梁田 貞 作曲

雨はふるふる 城ヶ島の磯に
利休鼠の 雨がふる

雨は真珠か 夜明けの霧か
それともわたしの 忍び泣き

舟はゆくゆく 通り矢のはなを
濡れて帆上げた ぬしの舟
ええ 舟は櫓でやる
櫓は唄でやる
唄は船頭さんの 心意気

雨はふるふる 日はうす曇る
舟はゆくゆく 帆がかすむ

文/小池一三
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから再掲載しました。
(2011年6月6日の過去記事より再掲載)