色、いろいろの七十二候
第34回
霜始降・紅葉
鶸色 #D7CF3A
錆桔梗色 #695F88
webを開くと、各地の紅葉の名所が出ています。北海道の大雪山を手始めに、十和田湖の奥入瀬渓谷、日光、箱根、鎌倉、京都へと下ります。
個人的には、上高地の燃えるようなナナカマドの色や、その帰りに高山に寄ったあと郡上八幡に下る途中の「せせらぎ街道」の紅葉がつよく印象に残っています。「せせらぎ街道」のそれは、紅葉だけでなく、黄金色に染まったナラやブナなどの広葉樹が見事でした。
赤色に変わるものを「紅葉(こうよう)」、黄色に変わるものを「黄葉(こうよう、おうよう)」、褐色に変わるものを「褐葉(かつよう)」と呼びます。「せせらぎ街道」で見たものは、緑葉を含め、それらが錦(にしき)の織物のような模様でした。
紅葉は日本だけのものではありません。
ハワイに住む黒蝶さんは、「こちら、ハワイでも秋はあります。空が抜けるように青く、高く、星も冴えて光ります」といいます。ただ「寒い地方のように、徐々に山々が色づいて・・・という風景は見られません。あくまでも、ある品種だけが、地味にコウヨウ(笑)して葉が散るだけ」ということで、錦秋までは期待できないようです。
海外の紅葉ということでは、カナダ・ケベック州のローレンシャンが見事でした。ローレンシャンは、モントリオールから車で約1時間半位の距離にある大きな丘陵です。ここの紅葉はカエデ(シュガーメープル)が主です。なだらかな丘陵に大小の湖沼が点在し、カエデの紅葉と、シラカバの黄葉が柔らかな表情を見せてくれます。
ローレンシャンからほど近くに、世界最大のログハウスとして知られるシャトー・モンテベロがあります。G7サミット・オタワ会議が開かれたホテルです。ロビーの中央に6面体の暖炉があって、薪がパチパチと音を立てて燃えていました。そこから目を外に転じると樹齢を重ねたカエデが色づいていて、クラシックとエレガントの渾然一体性をそこに見ることができました。ここは特別の場所だと思いました。
紅葉(黄葉)はパリにもあり、ブダペストにもあります。夏が暑く、秋になると急に冷え込む地域では、どこも鮮やかです。けれども、日本の紅葉は、身贔屓も手伝って格別のものがあるように思います。
紅葉は、日本では、花、月、雪、時鳥と並んで「五個の景物」に数えられ、古代の和歌以来、連綿と続く伝統を持っています。「古今集」に詠まれた
声きく時ぞ秋はかなしき 猿丸太夫
という歌はその代表的なもので、小学校唱歌の『紅葉』は、日本人ならみんな知っています。
濃いも薄いも數ある中に、
松をいろどる楓や蔦は、
山のふもとの裾模樣。
溪の流に散り浮く紅葉、
波にゆられて離れて寄つて、
赤や黄色の色さまざまに、
水の上にも織る錦。
三つの俳句を紹介しておきます。
前の二つの句が、しみじみと感じ入るものであるだけに、鷹女の句は、やはり凄みがありますね。
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから再掲載しました。
(2010年10月23日の過去記事より再掲載)