よいまち、よいいえ

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静岡県三島市・源兵衛川

源兵衛川 - 三島市

道歩きで未知の世界を

富士山の伏流水が、
この先数百メートルから湧き出ている。
地下水は工業用水として利用され、一時期涸れて荒れた。
しかし、かつての湧水を地元が復活運動し、
水の脇を、そして水の上を歩ける道にした。

涸れる前の豊富な水量に比べれば、
かつての量や姿ではないのだろうが、
ここに遠くからも
波紋が広がるように家族連れが集う。
子供たちは、手押しポンプで水汲み体験している。

「この素晴らしき世界」に

急げば急ぐほど忙しく時間がなくなり、便利になればなるほど縛られ自由が少なくなり、豊かさや充実感は遠のいていく。
そんな、落ち込む悲しく辛い時にも、より豊かになり、救われる歌がある。
その歌の題名は、「この素晴らしき世界」だ。
メロディは、やさしく口ずさめ、伴奏の和音の展開は豊かで、比較的やさしい英語でつづられた歌だ。
詞は、

「木々の緑や花が咲いていることに気づき、それは私とあなたのためと自分自身で感じて感謝する。
そして、青い空、白い雲、爽やかな日、そして神聖な夜をしみじみ感じる。
それはとても素晴らしい世界と自分自身で考える。
虹の色と美しい空、まち行き交う人々に心からお元気ですかと挨拶する。
赤ちゃんの泣き声が聞こえ、彼らが我々以上にたくさんのことを学び成長することを感じ、自ら何て素晴らしいと思う。」

といった内容だ。
豊かさは、その気になれば、身近なところに誰でもが等しく得られる本質的な環境の要素に、気づき感謝することだと教えてくれている。
太陽と水と緑その恩恵の下で、心からのあいさつや次の命を育てる歓び。
そんなことも読み取れる。

外でいかに

家庭が豊かになるには、家が立派で物に満たされることよりも、狭くともそれぞれが思いやり、感謝できる場や時が増えることではなかろうか。
しかし、家の中だけでは、お互い息がつまり、喧嘩もおきる。
それぞれ外での良い体験が、良い状態を生むことだろう。

しかし、外は自動車であふれて、危なくうるさく、公共交通は混雑、日本はそれほどではないにしろ事故や犯罪の心配もあり、不快な時も少なくない。
海外の計画的な事例のなかには、家の前や近くに車をつけられるが、家の前から、木々の緑や池ぞいで、車の全く通らない公園の中のような道が駅まで続いていて、安全で思いやりのあふれる町もあるが、一般の町ではまだほど遠い。
しかし、外の環境をあきらめたら豊かさは遠くなる。

そこで、まずは自らできることで外を良くできることを考えたい。
例えば、家先の工夫や掃除など自治会活動の協力もその一つだが、言うは易しく、行うは難しいケースもあろう。
そう焦らず楽しく実行を継続でき夢が広がるようなことから考えてみよう。

道と未知の出逢い

経済高度成長の時代には、道路は自動車中心だったが、健康や環境とかが見直され、歩行者のための緑道や散歩道も少しずつ増えてきた。
車で通りすぎるのではなく車を降りてそうした場を歩いて楽しむのも、ゴミを捨てないなどのマナーを守っていれば、更にその地域を良くしていくことにつながる。

少し寄り道できる余裕を持って歩き、買い物や一休みできれば、地域の方とのふれあいも生まれ、こちら側も更に活性化につながる。
団体で歩く姿もここ最近よく見かけるが、団体で歩くことは、決められた特定の場やスケジュールに合わせられ、解説や追いつくのに精一杯となると、周りが見えなくなる。

他の歩行者にとっては邪魔や恐怖の存在となり、地域を壊すことにつながる。
団体に参加する場合は、心づかいして欲しいと思うとともに、あまり薦めたくない。
一人あるいは少人数のほうが、気ままなばかりか、自らの発見や未知の豊かさの遭遇さえある。

ちょっとスケッチ

身近なよく知っている場所も、季節によってもいろいろな様子が変化し、気が付かなかった、あるいは見えていなかった多くのことがある。
いつも通っていた表通りの裏にも素晴らしい道に出会えることもある。
また旅行でも、お定まりのコースではなく、ついつい通り過ぎてしまう裏に、感動するような出会いもあるのだ。
私事のことだが、そんな遭遇の景色などを20分程度、その場に留まりスケッチする。
それは、更に観察が深まり、地域の人々の努力などそこの様々な関係も見え、わずかな時間だが時の変化に風や光を感じ、出会いの機会も得ることにつながるのだ。

空間の豊かさの出逢いから、時間のひろがり、そして想いを同じくする仲間へとつながる。

今回の紹介したスケッチの場は、静岡県三島の中心部。
「街中がせせらぎ」という標語とともに、湧水の復活整備を柱として、訪れる度に新たな感動を与えてくれるまちで、表通りのひと皮裏に、水と緑の様々な展開の連続がある。

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから再掲載しました。
(2015年08月08日の過去記事より再掲載)

著者について

小澤尚

小澤尚おざわ・ひさし
国内や外国の現地でのスケッチとともに、昔の姿の想像図や、将来への構想や設計の図も、ハガキに描き続け、ハガキをたよりに、素晴らしい間の広がりを望んで活動。2004年から土日昼は、日本橋たもとの花の広場で、展示・ライブ活動を行ってきた。 東京藝大建築科卒、同大学院修了。(株)環境設計研究所主任を経て独立し、(株)小沢設計計画室を設立し、広場や街並み整備も手掛けた。宮城大学事業構想学部教授(1997~2013)を経て、設立した事務所のギャラリー・サロン(ギャラリーF)を日本橋室町に開設・運営。2021年逝去。

連載について

建築家・小澤尚さんによる連載「よいまち、よいいえ」。 「いえ」が連なると、「まち」になります。けれど、ただ家が並べばよい、というのものではありません。 まちが持つ連続性とは、空間だけでなく、時間のつながりでもあります。 絵と文を通じて、この関係を解いていきます。