我輩は歌丸である。
第1回
やせっぽっちのハチワレ子猫
我が輩は歌丸である。名前はもうあるし、夏目漱石なんて知らない。我が輩はどんなときでも何が起ころうとも可愛く振る舞う。つまり「かわいい」のプロである。
私は生まれた頃から猫と暮らしてきました。実家を出て初めて猫がいない生活を経験したのです。
10年ほど実家猫や野良猫で猫欲を抑えていましたが、もう限界でした。
危ない目付きで野良猫を追いかけるようになった頃、里親募集のチラシが目に入りました。
そこには青い目をしたグレーの仔猫がいたのです。
グレーの猫を飼う事が夢だった私はすぐに連絡を取りましたが、すでに里親が決まっていました。
そのとき、長年抑えてきた猫欲が猛烈に膨れ上がり大爆発したのです。
猫!猫!猫が欲しい!今すぐ!我が手に猫を!
地団駄を踏みながら血眼になって他のチラシを睨みつけると、やせっぽっちのハチワレ仔猫がいました。
じゃあこの子で。
あっさり選んだこの仔猫こそが、冒頭に生意気なご挨拶をした歌丸なのであります。
里親になる条件は「仔猫のうちは独ぼっちでお留守番をさせないこと」でした。
つまりは、毎日職場へ連れて行かなければなりません。
当時私は父の設計事務所「N設計室」に勤めていました。
猫好きな父を言いくるめ、所員の方々にお許しを請いました。
大変わがままな言動ですが、猫欲の爆発によりテンションマックスの私は、半ば強引に話を進めたのです。
「悪さをしたら即追い出されますよ」と呪文のように、何度も歌丸に言い聞かせ出勤しました。
私の気迫が伝わったのでしょう。歌丸は完璧に可愛く振る舞い、猫アレルギーの所員Sさんの心も難なく掴んだのでした。
あっという間に事務所の王子様と化した歌丸は、傍若無人な振る舞いも許され、わがままに育ったものの立派な成猫になりました。
かつて捨て猫だった歌丸は、皆様のおかげで幸せな幼少期を過ごすことができたのです。
わがまま放題な事務所猫でしたが、彼なりのルールがあったようです。
それはまた別のお話。