びおの珠玉記事
第87回
冷凍食品
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2013年10月18日の過去記事より再掲載)
10月18日は、冷凍食品の日、だそうです。10がレイトーのトー、18は、冷凍食品の管理温度とされる−18℃からとられています。
「びお」は、旬の食材を扱ってきましたが、ある意味これとは対局にあるような「冷凍食品」という存在。
冷凍食品には、料理の手を抜いている、というネガティブなイメージがないと言えばウソになります。また、過去には中国製の冷凍餃子に農薬が混入された事件もあって、よくないイメージを持っている人もいるでしょう。
それでも、忙しいときの一品に助かったり、手軽さと味を両立させた様々なアイテムもありますし、外食チェーンなどはそもそも冷凍食品がなければなりたたない、といっても過言ではないでしょう。
冷凍食品をきっかけに、食のことを少し考えてみましょう。
冷凍食品とは
一般社団法人・日本冷凍食品協会の定義する冷凍食品とは、以下の様なものです。
・前処理している
・急速凍結している
・適切に包装している
・品温を-18℃以下で保管している
あらためて言うまでもありませんが、冷凍食品の魅力・メリットとは、前処理されたものが、急速凍結によって品質を保たれ、使いたいときに、前処理されたものからの続きの調理ができる(解凍するだけでよい場合もある)、ということでしょう。
さて、冷凍食品、というと何をイメージされるでしょうか。
同協会の統計資料によると、平成20年から24年まで、5年連続で生産量の1位に輝くのは「コロッケ」です。2位も不動で「うどん」が続きます。コロッケは衣もついて揚げるだけ、あるいは自然解凍するだけ。うどんはゆがくだけであたたかいうどんができあがります。
国内の総生産量では、平成15年に1,496,690トン、 6,795億円だったものが、平成24年には1,468,345トン、 6,392億円となっています。平成20年からは、餃子農薬混入ショックで業界全体が落ち込み、また東日本大震災もあって冷凍食品業界は沈みがちでしたが、内食・中食指向が強まり、家庭用の需要が伸びて回復傾向にあるようです。
業務用・家庭用の内訳を見ると、平成15年には業務用が67%、家庭用が33%だったのに対し、この差は年々縮まり、平成24年には、業務用が60.3%、家庭用が39.7%となっています。
また、輸入される冷凍野菜や加工食品は、これも餃子事件で落ち込みを見せるものの、基本は年々増加しています。
下のグラフは、冷凍食品の国内消費量の推移です。
国内の生産量が頭打ちになる中、輸入食品が上乗せされて、冷凍食品全体の消費量は伸びていることがわかります。
紫色の棒グラフは、国民一人あたりの年間消費量です。平成24年にひとりあたり21.2kgで、過去最高の値となっています。たった21kg、と考えるか、21kgも、と考えるかは人それぞれですが、昭和43年のそれが0.8kgであったことから比較すると、26倍以上に増えています。
冷凍とは、保管と輸送の技術でもあり、食の様子が、「近くにあるもの」から「遠くで作られたもの」に変わっていく様子が、このグラフに現れているといっていいでしょう。
冷凍食品の添加物
いくつかの冷凍食品の原材料をみると、むしろ、常温保存が出来る加工食品よりも添加物は少ないといっていいかもしれません。
ちょっと変わったところでは、「鶏の唐揚げ」の5番めに記載されている(5番めに重量が多い、ということ)「粉末状植物性たん白」というものです。家庭料理ではあまり出番がないものです。
これは大豆や小麦からタンパク質を抽出したもので、乳化、保水、結着、形成などに使われます。とはいえ、しょうゆより少ない量ですから、これで量を増している、ということでもないでしょう。
食品添加物は、品質保持のために用いられることが多いのですが、冷凍食品の場合は、冷凍によって品質を保つ、というアドバンテージがあるために、常温保存の加工食品に比べて保存用の添加物の必要が低いのでしょう。
おいしい冷凍、まずい冷凍
冷凍することで、なぜ鮮度が保てるのか。
解凍された肉や魚から、赤い汁が出ているのを見たことがありませんか。
これは、ドリップと呼ばれるもので、もともとは細胞内に含まれていた水分です。
食品は、細胞が集まって出来ています。冷凍の際に、細胞に含まれる水分がさきに凍って膨張すると、細胞膜を破壊してしまいます。これを解凍すると、壊れた細胞膜の隙間から血を含んだ水分として漏れ出してきます。当然うま味も流れだしてしまいます。
これを防ぐには、水分だけがさきに凍らないように、急速冷凍することです。一般の家庭用冷蔵庫の多くでは、そこまで低い温度で冷凍ができません。ですから、家庭で冷凍したものは、それほど品質が保てないのです。
冷凍すればすべてよし、という具合に食材をどんどん冷凍する人がいます。でも、家庭の冷凍庫は、業務用ほど温度が低くありませんし、開け閉めも頻繁で、長期の冷凍保存には、それほど適した環境ではありません。
もちろん、古くなった食材を冷凍しても、品質が回復されるわけでもありません。家庭での冷凍保存は、あくまでも一時的なもの、と考えておいたほうがいいでしょう。
一方で、冷凍食品の世界では、高級冷凍食品、といわれるジャンルが確立しています。
冷凍食品が、急場しのぎや手抜きとしてではなく、食べたいもの、というマインドで選ばれているのです。
たしかに、これはうまい、という冷凍食品は存在します。
冷凍技術は今でも向上しつづけていて、これからも驚くような食品が登場するかもしれません。
冷凍食品は、なにも食のグローバル化だけに進むわけではなく、旬にこだわった冷凍食品や、産地をしぼった冷凍食品も登場しています。こうなると、ますます冷凍食品のシェアは伸びていくのかな、という気もします。
でも、料理の最大の喜びの一つといえる、「素材を選んで調理する」ということが、冷凍食品にはできません。でも、冷凍食品を素材のひとつとして手を入れる、という面白さはあるのかもしれませんね。