びおの珠玉記事

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クルマについて考える 自動車の社会コストについて

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2009年02月19日の過去記事より再掲載)

渋滞

自動車の社会的コストとは

自動車の社会的費用とは、温暖化、大気汚染、騒音、渋滞、事故などにより、クルマの使用者本人以外が被る損失(によって負担することになる費用)のことを指します。

たとえば、渋滞においては、それぞれの自動車の使用者が、他の自動車の使用者におよぼす時間の損失を費用として計算します。大気汚染においては、健康被害の補償費用を見る方法や汚染物質の排出を防止するコストを見る方法等、やはりその計算方法は一定ではありません。

かつて経済学者の宇沢弘文氏が「自動車の社会的費用(1974)」の中で、自動車の社会的費用は一台あたり1200万円と試算しました。これには複雑な前提条件があり、近年においては同氏も「天文学的数字」と述べるに留まり、その具体的な数値をあげていません。

道路特定財源は、一般財源化の道を進んでいます。これには各方面から賛否がありますが、一般財源化によって、「自動車の社会的コストを負担する」のではなく、「単に社会的コストを負担する」ということとしても考えられます。広義では自動車のコストも含まれるとしても、もともと足りていない社会的費用に大しては焼け石に水です。

では、この「足りていない社会的費用」は誰が負担しているのか。負担出来ていないので、温暖化の進行や、渋滞による損失があるわけです。これらの負担がゼロになることはあり得ないと言ってよいのですが、一方で、減らす努力はしてみるべきです。

押し付けられる努力はゴメン

とはいっても、公共交通機関の発達していない地方では、クルマの利便性に太刀打ちしがたいのは事実です。
「クルマ好き」ではない人の、クルマを持っておきたい理由として、「小さな子どもが夜中に具合が悪くなったときに」「子どもの送り迎え」などというものがあります。
これは個人の切実なエゴでもありますが、同時に社会基盤の弱さを示します。夜中にも走っている鉄道やバスがない、夜間の救急医療体制が整備されていない、などの問題です。毎年かなりの額の自動車関係の税金を払うことには慣れても、たまに現金をはらってタクシーに乗るのは嫌だ、という心理が見えます。
長野県タクシー協会によると、毎日8.6kmタクシーに乗っても自家用車を持つより安い、という試算もあります。経済的比較だけではなく、「好きなときに勝手に乗りたい」という欲求が、個人のクルマ所有を裏付ける最大の理由なのかもしれません。

自動車をなるべく使わない方がいいよ、というのは、先の社会的コストから見たり、あるいは「環境派」の人だったりするわけで、自動車メーカーや関連業種にとっては「とんでもない話」なわけです。自動車にのるほとんどの人は、「お金がかからない方がいい」「便利な方がいい」「いまさら我慢したくない」と思うわけで、これはなんだか「エコ住宅」の価値観と似た部分があります。

お金をかけず、我慢しない。こうしたポジティブな発想をもとに考えないと、話が暗くなりますね。

例えば、自動車から自転車に変えてみると、季節の変化がわかります。日に日に体力がついていくことも実感出来ます。
例えば、歩いてみれば、道ばたの花にも目が行きます。
バスや電車は、空いていないとかえってストレス、かもしれませんが、自分で運転する必要がありませんから、読書をしたり、考え事をしたりという時間が得られます。

スピードは失いますが、心が豊かになる、かもしれません。
道路

代替手段はあるのか

日本でも、大都市では自動車の代替手段がありますが、都市部を少し離れれば、もはや自動車を所有しているのが前提の社会になっています。地方では大型ショッピングセンターの開店が相次いでおり、その陰には「歩いていける小さなお店」の倒産があります。つまり、現時点では、多くの地方都市では「けっこう無理がある」といえるでしょう。

さて、海外に目を向けてみます。

オランダでは人口一人当たりに1台の自転車があるといわれています。自転車大国というと中国を思いがちですが、人口そのものも多いためか、2.7人に1台、フランスやアメリカも中国と同水準です。
さて日本はというと、およそ8600万台の自転車を保有するといわれますから、およそ1.5人につき1台の自転車を持っていることになります。
オランダでは、女王も高齢者も、普通に自転車に乗っているといいます。子どもに対する自転車交通教育や、自転車道の整備も進んでいます。日本と異なり、土地が平坦で雨が少ない、という事情もあるでしょう。

日本の自転車の多くは、趣味の世界です。趣味の自転車はまた機会を改めるとして、日本国内での先進的な例としては、滋賀県八日市市(現・東近江市)が、市道の四分の一にあたる自転車道を整備し、公共による無料の貸し自転車も行いました。

また、熊本県八代市では、市街地を一周するループ上の道路「緑の回廊線」を整備しました。貨物の引き込み線路の跡地と、農業用水路の跡地を自転車・歩行者専用の道路とするという計画で、約15年間の整備を終え、2010年4月に全面開通しました。

最近では、LRT(Light Rail Transit・次世代型路面電車)を推進する動きも盛んです。

LRT

写真は富山市国外向け総合サイトより


2006年には、日本ではじめての本格的LRTが富山県で導入されました。路面電車は自動車の普及とともに、自動車の邪魔者扱いをされて姿を消していきましたが、今またLRTとして脚光を浴びています。
こうした社会的基盤が整備されつつあることは喜ばしいことです。どんな交通手段を選ぶにしても、いろいろな条件を考え、自覚的に選びたいものですね。

クルマを減らすと景気が悪くなる?

六人に一人はクルマ関係で食べている、などという話があります。クルマが好景気をつくるのか、好景気がクルマを作るのか。今回のアメリカ金融危機からきた自動車メーカーの雇用問題から見れば、あきらかに後者だと言えます。
無論、単に販売台数が減った、というだけではなく、メーカーが、環境シフトのために脱ガソリン専門エンジンの設備償却で赤字を出した、という見方もあります。
いずれにしても、消費者のフトコロ具合と、メーカーの思惑からも、無自覚的に自動車に乗ることが難しくなってきているのは確かです。
自動車メーカー各社は、一時的な販売減とは見ておらず、若者のクルマ離れについて、「携帯電話に負けた」と見るむきもあります。ライバルは同業他社ではなく、別のエンターテイメントだったというわけです。

自転車業界や、そして人員輸送という面で一番ライバルとも言える鉄道会社は、もうちょっと奮起して自動車メーカーと競ってみてはどうでしょうか。鉄道は、道路以上に政治的決断が必要といえるかもしれませんが、鉄道建設と運行には多くの雇用も見込まれます。