※リニューアルする前の住まいマガジンびおから再掲載しました。
(2010年03月11日の過去記事より再掲載)
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生産から30年を迎え、その間ずっと価格据え置き(※2025年4月から順次価格改定)、いっぽうで新製品も出続けているという、化物キャラクタープラモデル、「機動戦士ガンダム」のプラモデルこと、「ガンプラ」。
30〜40代男性向けにはよくわかり、それ以外にはちょっとよくわからない世界かもしれません。
マニアの方々や、興味のある方には周知のことばかりですが、そうでない方々にも、こんな世界があったのね、と知っていただく一助になればと思います。
ガンプラって何?
懐かしいですね、ガンプラ! 小学校の時に流行りました!
年がバレますね。
知らない人のために説明しますと、「ガンプラ」は、1979年に放送された「機動戦士ガンダム」のプラモデルシリーズのこと。ガンプラ販売第1号は、1980年7月の「1/144 ガンダム」で、その後、1981年から82年にかけて大ブームが起こりました。ちょうどそのころ小中学生だったお友達が、今、30代〜40代ぐらいになっています。
そのぐらいの年代の人に声をかけてみると、かなりの割合で「ガンプラ」経験者が見つかりますよ。
ブームは沈静化しましたが、その後も何十年にわたって関連作品が断続的に制作され、プラモデルも新製品が発表され続けているという、怪物的キャラクターモデルです。
ガンプラブーム、すごかったですよね。だいたい、予約か行列しないと買えないんですが、お金を持っていないときにたまたま商品を見つけてしまったりすると、城のプラモデルの後ろに隠して家にお金を取りに行ったりしました。
ニセモノや、抱き合わせ販売なども当時問題になりました。販売に並ぶ行列で250人が将棋倒しになるなど、熱狂的な人気がありました。
1980年というと、日本が不参加となったモスクワオリンピックが開かれ、またジョン・レノンが射殺された年でもあります。ずっと、同じキャラクターで売りつづけてきたというのは、スゴいですよね。
大人が詣でた「お台場ガンダム」とその後
去年もガンダムいろいろ露出してましたよね。お台場のヤツとか。
去年(2009年)は、ガンダム放送から30周年記念で、いろいろなお祭り騒ぎがあったんですよね。お台場の実物大(18m)ガンダムは最たるもので、2ヶ月弱の展示期間中に、400万人を超える来場者があり、その経済効果は3000億円とも言われています。
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お台場に現れた身長18mの実物大ガンダム。2ヶ月弱で、400万人を超える来場者を集めました。
実は私も行きましたが、子どもだけでなく、けっこういろいろな人がいましたよね。
むしろ子どもだけ、というほうが少ない感じでしたね。「大人(お父さん)に連れてこられた子ども」が多かったのかもしれません。30年という息の長いキャラクターですから、親子2世代にわたってファン、という家族も多いようですね。
いかにもマニア、という人もいれば、ギャルの二人連れとかもいましたよ。みんながみんなプラモデルをつくるわけではないのでしょうけど、裾野の広さを感じますね。
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カメラを構えて上を仰ぐ観客は、御神体を崇める信者のようにも見えます。
そんなに経済効果があるなら、ずっと展示しておけばいいのにね。今はどうなっているの?
お台場で解体された後、その行く先が注視されていましたが、2010年7月から、静岡県のJR東静岡駅前の広場に移設されることが発表されました。
静岡のプラモデルシェアが高いわけ
どうして静岡に? しかも、東静岡駅って、新幹線も止まりませんよね。もっと人が集まりそうなところがありそうなのに。
実は、静岡県は生産シェアが全国90%と言われる、日本トップのプラモデル生産県なんですよ。ガンプラの工場も、この東静岡駅からほど近い、「バンダイホビーセンター」で行われています。バンダイは本社こそ東京ですが、プラモデルの生産拠点は静岡ですし、世界的なスケールモデルメーカーの田宮模型や、飛行機モデルで有名なハセガワ、最近では「痛車」モデルでも話題の青島文化教材社などもみな静岡にあります。
毎年5月に開催される「静岡ホビーショー」には、全国から問屋・販売店や模型ファンが集まります。模型の聖地とでもいいましょうか。
ふーん。でもどうして静岡が模型の聖地なの? プラスチックを生産している、とか、石油がとれる、とかってことないですよね?
プラモデルを生産しているメーカーの多くは、かつて木工模型を作っていたんです。静岡県には森林と、それを運ぶのに適した川があり、木工模型生産に適していたのかもしれません。
でも、森や川なら他のところにもありますよね。なぜメーカーが静岡に集まったのでしょう。
大きいのは、戦時中にも生産を続けることが出来たことです。戦時中、物資が不足してくると、模型作りをやめざるを得ないメーカーが出ましたが、静岡県は国から重要木工県の指定を受けていて、教材としての模型生産を続けることが出来、メーカーが生き残る要因となったそうです。
また、静岡市にある浅間神社は、徳川家康が元服を行うなど、徳川幕府にとってゆかりのある神社なのですが、江戸時代に幕府の名で大造営が行われました。大造営は数十年にも及び、そのときに集められた職人たちが、静岡の木工の礎になったと言われています。
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現代の静岡浅間神社。ここに職人が集められたのが、静岡のプラモデルのはじまり?
じゃあ、江戸時代にプラモデルの元祖が集まっていたんだ。
もちろん、木からプラスチックに転換を決めたメーカーの決断があって、はじめて現在の状況となるわけですね。
住宅では、新素材から自然素材への回帰が進みました。プラモデルが木材に戻ることは、工業化の度合いからみて難しそうですが、別のジャンルとしての木工模型の復活はあってもよさそうですよね。
いっぽうのプラモデルでも、工場のゼロエミッションを目指し、生産過程で出る廃プラをつかった「エコプラ」なんていうものも登場しています。
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工場のゼロエミッション化を目指した「エコプラ」も。
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様々な色のプラスチックが混ざるからか、エコプラは真っ黒です。
価格据え置き・脅威の工業製品
話をガンプラに戻しますが、大ブームの時の、当時のガンプラって、今でも買えるんですよ。
そうですね。たまに昔買ったガンプラが家に残っていて、プレミア価格になるかな、なんて気にしている人がいますが、ガンプラは今も、当時と同じ値段で生産されていますから、よほどのことがないかぎりプレミアはつきません。
あ、値段も同じなんだ、昔と。
そうです。途中、消費税こそ導入されましたが、本体価格は一度も値上げされたことがないんです。また、数百種類が発売されましたが、これまでに絶版になったのはたったの一つだけ。
価格据え置きで作り続けられている工業製品というのは、日本ではなかなか例がないのではないでしょうか。
よくヨーロッパの万年筆はずっと部品をとっておいたり、作り続けているなんて話がありますよね。ずっと昔に買った万年筆の修理が今でもできる、とか。
その話は、日本の工業製品の寿命の短さを揶揄しているわけですね。家電なんか、長く使ったら罪、買い替えなさい、という風潮ですもんね。嗜好品のプラモデルを家電と比べるのは乱暴ですが、小学校の時に買えなかった、うまく作れなかったものを、大人になってリベンジしよう、という人もいるかもしれません。
それ、私のことだ。小学校の頃は、ブームでなかなか買えなかったし、少ないお小遣いでは全部買うなんてとても無理でしたよ。今は大人買いが出来る(笑)。
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マイナーメカ・ボール。手前は1981年発売、1/144 300円。奥は2004年発売のマスターグレード。どちらも今でも買えます。
不景気で所得が増えなくなってはいるものの、小中学生当時に比べれば圧倒的に財力がついていますからね。でもメーカーも、昔の単価の安いものだけ売っているのでは商売になりませんから、大人向けの商品も出しています。
高度化したのか、退行したのか
ようやく最近の市場の話になるんですね。少年時代にガンプラから離れて、大人になってたまたま訪れた模型売場で、新しいガンプラに出会ってビックリ、という話は、結構耳にしました。なんだかやけにカッコよくなっているし、動くところも増えているし。
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1980年発売の「1/144 シャア専用ザク」。足首が一体成型で動きません。
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2002年発売「HGUC シャア専用ザク」。足首は二重関節となって可動範囲が広がっています。
現在ハイターゲット向けにラインナップされているのが、「マスターグレード」というシリーズで、外部だけでなく内部の構造も再現されています。さらに上位のグレードの「パーフェクトグレード」になると、実際の機械として存在した場合に、どのような可動をするのかを想定したメカニズムが用意されています。このため部品点数も多く、部品点数が1000点を超えているものまであります。金額も2万円台程度で、とても子ども向けの玩具とはいえず、やはり30〜40代の「出戻り世代」が狙われているわけですね。
でも、その世代って仕事や子育てが忙しくて、なかなかプラモデルをつくる時間ってないのでは? それに塗装や接着剤の臭いって、家族がいやがりますよね。
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塗装時の臭いはプラモデル作りの障壁の一つでしたが、「色プラ」により一定の解決を見ます。
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「いろプラ」の例。ひとつのランナーで複数の成型色が使われています。
この点も改良されていて、現在のガンプラは原則として塗装不要、接着剤も使わないはめ込み式です。ランナー(部品のついている枝)の時点で高度に色分けされているので、組み立てるだけで設定通りの色が再現されますし、CAD・CAMで設計・製造され、しっかりしたダボがついているので、パーツは接着剤がなくてもピタっと合うんです。
また、プラモデルの生産は、タイ焼きのように金型にプラスチックを流しこんで成形するのですが、かつてはタイ焼きのような上下2面の金型だったものが、スライド金型を使うことで従来ディテールが設けられなかったところにディテールを設けるなどのことも出来るようになってきています。
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しっかりした接合部(黄色い丸の箇所)があるので、接着剤が不要です。
なるほどね。製造技術の進歩も楽しんだらいいんだ。
それに塗装しなくていいなら家族も嫌がらないし。
確かに、塗装、接着不要にすることで市場に受け入れられたことは否めませんね。でも、これには賛否あるんですよ。プラモデルというのは、もともとじっくり納得が行くまで作るもので、塗装も含めて自分の技術を磨きながら楽しむものだったわけです。しかしこうした、塗装も接着も不要、パーツを外して組み立てるだけ、誰が作っても同じものが出来る、というのは、ものづくりの面白さをスポイルしている、という意見もあるんです。
厳しいですね。
背景には、消費者の模型離れもありますね。ガンプラはこのように「組み立て式玩具」と呼ばれるほどの高度化を果たし、年少者や、時間のない社会人にも受け入れられていますが、自動車や航空機などのスケールモデルでは、接着、塗装が必要なものが主流です。これらはなかなか手がかかることもあってか、模型人口は減っているようなんです。プラモデルに代わり隆盛なのが、塗装済み、完成済みモデルです。自分で作る、という選択肢が、減ってしまっているんです。
自分のほしい「立体」が手にはいればいい人と、「ものづくり」を楽しみたい人がいる、ってことですよね。
そうですね。これはどちらがいい、悪いということはないでしょう。塗装不要、接着不要であっても、それに塗装することはもちろん個人の自由です。カッコよく作ろうと思ったら、いくらでも個人の創意工夫が出来る余地がありますからね。プラモデルは「素材」であり、それをどう料理するかは作り手次第というわけです。
新製品は価格高騰気味?
同じキャラクターを、「マスターグレード」「パーフェクトグレード」など、別のグレード、スケールでリリースしてきていましたが、さらには同一グレードの中で「Ver.2」と呼ばれるものも出ていますね。
人気のキャラクターは、販売数が見込めるため、そのときの最新技術を用いて「バージョンアップ」して販売されるわけですね。ここで興味深いのは、バージョンアップ版が発売された後も、旧バージョンが併買されることです。新しいバージョンとはいえ、あくまでも別商品で、旧版を好む消費者もいる、ということでしょうか。こうした商品ラインナップも、他の製品・業態ではなかなか見られないことですね。
ただ、新製品はギミックの向上もあってか、価格が高くなる傾向にあります。マスターグレードも1万円クラスのものが出ていますし、パーフェクトグレードは1〜3万円台です。これは明らかに大人向けの製品ですね。
高額模型で特定の層を狙うというのはガンプラに限らず、2007年に発売された1/350、47,250円の「宇宙戦艦ヤマト」も、その年代を過ごしてきた人たちにはタマラナイ商品でしょう。
最近の歴史ブームを反映してか、高額な「城」も発売。
3/29に発売予定のGSIクレオスの「1/144 熊本城」は、26,500円と高額ですが、城のプラモデルとしては異例のビッグスケールで、はじめてプラモデルを作る人にも配慮されたキットです。
ガンプラに戻ると、この年(2010年)3月には、ガンプラ販売30周年を記念した新シリーズ、「メガサイズモデル」が発売されました。定価8190円、スケールは1/48、完成時の高さは約37cm。ガンプラ史上最大のキットですが、接着剤やニッパーなども不要の、まさに組み立て式玩具ですね。
これから40周年、50周年を迎え,いずれ3世代に愛されるキャラクターになっていくのでしょうか。そのころは10万円を超える製品もリリースされているかもしれません。