まちの中の建築スケッチ
第90回
築地本願寺
——都心の寺院——
地下鉄大江戸線の築地市場駅を出ると、すでに広い更地となった、かつての築地市場跡地は仮囲いでおおわれている。平日でもお祭りのように大勢の外国人で賑わっているのには、驚いた。「築地場外市場」と呼ばれる食べ物系の店の群が健在であり、舗道にテーブルを並べているほどに、ごった返していた。
交差点で晴海通りを渡ると急に静かになり、西門から、築地本願寺の境内に入ると、親鸞聖人像の出迎えを受ける。以前、大崎順彦先生(1921-1999/耐震工学者)の葬儀で訪れたことがある。寺というよりは、寺院というのが相応しい。何となくインドの仏塔のイメージが残っていたのであるが、本堂の大屋根の改修工事で足場とネットで覆われていたせいか、印象が異なる。正面の堂々とした構えは、屋根の水平面が強調されて見えて講堂のようでもある。たまたま武蔵野大学新入生参詣の日ということのようで、黒いスーツの若者男女が大勢、脇から入っていった。
広場は大きな灯篭があるくらいで、ゆったりしている。正面の建物は古代インド様式をモチーフとした、伊藤忠太(1867-1954)の設計。とても浄土真宗の寺のようには見えない。関東大震災で被災した後、昭和初期に鉄筋コンクリート造で建てられたというが、当時の法主は相当に斬新な意識を持っておられた方だったのだろう。それでも窓や柱頭には、木造のお堂を感じたりもする。
道路側には、いくつもの墓碑の列に加えて、武蔵野女子学院(武蔵野大学の前身)発祥の碑や陸上交通殉難者追悼碑、台湾物故者の碑などがベンチの横に並んでいる。散歩道にされている人も多いのだろう。高層ビルの立ち並ぶ地域において貴重な開けた空間である。左奥に見えるのは、聖路加タワーとレジデンス棟で、ブリッジも見える。
大屋根の修繕工事が終わると、入口のアーチと同形で一回り大きいアーチが姿を現して、本来の姿となる。わが国のお寺は、一般に塀のあるところが多いが、築地本願寺の場合は、西洋の都市の教会のような感じでもあり、広場の開放性もあって、道路側の塀や門は無い方が都市空間として気持ちよいかな、などと想像したりした。