びおの珠玉記事
第209回
梅雨・黴雨・梅仕事
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから再掲載しました。
(2015年06月16日の過去記事より再掲載)
梅は桃と同属です。桃は何かと臀(というより、尻と書いたほうがよいでしょうか)に例えられます。梅もまた、犀星にはそう見えているようです。
青梅は、梅酒を漬け込むのに適しています。梅干には、熟して黄色くなった梅を使います。梅干は、一旦作れば年中食べられますが、作る時期は限定されていて、食べるよりも、作る方に旬があります。

梅干には、黄色く熟した梅を
沖縄では一足早く梅雨明けしましたが、他の多くの地域が梅雨入りしています。
梅雨は、黴雨とも書きます。
黴とはカビのことで、ジメジメしたカビの生えやすい季節の雨、というような呼び方です。いかんせん、嫌な呼び名ですから、当て字で「梅雨」としたという説と、梅が熟す頃の雨、という説があります。どちらも説得力がある説です。
梅が熟す頃、ということで、梅雨の合間の梅仕事の時期です。
SNSの普及で、あちこちで梅仕事の写真が見られます。はじめて挑戦、という人も多いでしょうね。ネットをさがせば梅干の仕込み方はたくさん出ています。当「びお」でも過去に紹介しています。
梅の漬け方、市販の「調味梅干」と「梅干」が違うこと、梅酒や梅シロップの作り方も紹介しています。ぜひご覧くださいね。
梅とカビ
梅干にカビが生えると不吉なことが起こる、という言い伝えがあります。
逆説的に、梅干はそうそうカビない、ということを表しています。
ネットを見ると、カビ防止のために消毒する、という話がまことしやかに語られています。上で紹介した記事でも、熱湯と焼酎で消毒しています。
けれど、この工程は本当に必要なのでしょうか?
カビの耐熱性は60℃程度までといわれていて、お風呂の入浴後も、熱いお湯をかけるとよい、などといわれます。ただ、60℃のお湯に触れて一瞬で死滅するかというと、そういうわけではありません。沸騰したお湯で長時間加熱すれば死滅させることは出来そうですが、耐熱容器にしか使えない方法です。
アルコールによる殺菌のメカニズムは、菌の細胞膜の脂質を溶かし、タンパク質を編成させ、さらに揮発することで脱水させる、という多段階の殺菌ぶりです。
ただ、これにもうまく働く条件があって、おおおよそ70%の濃度のアルコールが効果あり、とされています。濃すぎるアルコールでは細胞膜に浸透しないし、薄すぎては効果が無いのです。
焼酎のアルコール濃度は20%〜40%程度、これだと殺菌効果は大きくは期待できません。

今回は容器には使いませんでしたが、梅に泡盛(30°)を揉み込みました。
殺菌専用のアルコールが無い時代に、杉樽で漬けていたような時代なら、杉に焼酎を塗りこむことは、効果があったかもしれません。消毒用の焼酎を再蒸留したのがエタノールのはじまり、ともいわれるように、そういうときの焼酎は再蒸留して、さらにアルコール度数の高いものが使われていたことが想像できます。
ガラス・ほうろうなどの浸透性がない容器の場合は、表面を25°程度の焼酎で拭くことは、そんなに効果があるかわかりません。
そもそもカビの胞子は空気中にもたくさんいます。梅の表面にも付いていると考えてよいでしょう。無菌室ならいざしらず、こと家庭内で、カビの胞子を完全にシャットアウト、など出来はしないのです。
では、どうするか。
そこで、塩の出番です。
塩は食材の細胞から自由水を奪って結合水になります。カビも自由水を利用して繁殖するため、自由水がなくなると繁殖しづらくなります。
というわけで、今回の容器は、洗って乾かしただけ。プラスチックの場合は、細かい傷に菌や汚れが入り込む可能性もありますが、塩に頑張ってもらうので、消毒などはしていません。

塩はだんだん沈みますから、上の方に多目に。
もちろん、容器が汚ないままでいい、ということはありません。焼酎で拭く、という手順は、出来るだけ清潔に保つのだ、という目的を後世に伝えるための様式として価値がありますが、カビの特性から言って、作業・保管する部屋の環境(湿気、温度、その他汚さ)も重要ですから、ゆめゆめ容器の消毒をして油断するなかれ。

塩分20%で梅酢があがってくれば、大抵はカビないと思います。
塩梅
塩梅という言葉は、まさに梅干由来の言葉です。どのぐらい塩をするか、というのは保存性との兼ね合いです。塩が多ければ保存性は高まるけれど、かな〜りしょっぱくなってしまう。味と保存性の兼ね合いが「塩梅」というわけです。
古い言葉では、梅1升に塩3合(重量ではなくて体積ですが)、という言葉もあります。昔の梅干は塩分濃度が高いので、保存性も高くなります。
今は冷蔵庫もあるし、あんまりしょっぱくしたくない、という場合は、漬け込むときの塩を減らしてみてもいいですが、条件によってはカビるかもしれません。昨今の住宅事情、とくに集合住宅では、「冷暗所」が確保できないこともあるかもしれません。条件が悪そうな場所で漬ける場合は、やっぱり塩分多めがよいかなあ。

「冷暗所」がない家も多いです。
それぞれの家庭で好みも違えば、温度も湿度も違います。
こうやったら絶対にカビない、なんていう絶対的な方法はありませんから、出来上がりをしょっぱいだ、しょっぱくないだ、とワイワイやりながら、我が家ならではの「塩梅」を見つけて、まあ、とにかく楽しんだもん勝ち!