森里海から「あののぉ」
第1回
蔀帳造り
香川県三豊市にある仁尾町には、かつて「蔀帳造り」と呼ばれる作り方の民家が数多くあったそうです。「蔀帳造り」は、家の玄関横の二枚の板戸を上下に開閉するしくみで「みせ造り」とも呼ばれたようです。
上部の蔀戸をうわみせ、下部は所謂「ばったり床几」で、折りたたむと壁に造り付けとなり、うわみせと共に雨戸の役目を果たします。下ろすと商品の陳列棚や腰掛けとしての役目を担うわけです。玄関脇にあるこの部屋は「みせのま」とか「表の間」と呼ばれ、商家では主にお店として使われていました。蔀帳造りのルーツは京都と言われ、室町時代以降に中四国、近畿一円に拡がったようです。仁尾町はかつて商家で栄えた町なので、この蔀帳造りが数多く軒を連ねていたようです。しかし、残念ながら現在では、まちなかに2~3軒が残るのみとなっています。
徳島県の海部地方、出羽島や海陽町鞆浦、由岐町(現美波町)にもこの蔀帳造りが残っていると聞き探索してきました。なんと、そこには予想以上に多くの蔀帳造りがかなり良い状態で残っていたのです。ミセとして現役で使われているものはないかも知れませんが、ばったり床几は縁台として地域コミュニティに貢献しているものが結構あるように見受けられました。また、このような共通するデザイン要素が連続して複数連なると、町並みとして一種の秩序のようなものが生まれます。歩行空間としての通りを活性化させる手法として、場合によってはとても有効な手段のように思えました。
かつて数多くの商家で栄えた仁尾町。「蔀帳造り」を復活させることで街の活気を取り戻すきっかけになるのではないかと思うのです。建築にはそんな「力」が確実に内在しています。それを引き出すのも私たち「建築をつくる者」の役割だと思うのです……。
※ 本連載は、菅組が発行する季刊誌『あののぉ』で著者が連載している内容を転載しています。