フランスと日本、子育てにまつわるちがい 出産編
ところかわれば
| 森弘子
「フランスと日本、子育てにまつわるちがい」と題して、前々回では妊娠について、フランスと日本とのちがいをご紹介しました。
今回は出産編。
出産自体が初めてだったのでわからないことだらけでしたが、友人知人から聞く日本での出産とは、やはりちがうところがあるようです。「産む」という全人類に共通する行為ですが、その方法はよく見ていくと国によってやはり特徴がありました。
1.無痛分娩が一般的
フランスでの出産を通して、フランスと日本の一番大きなちがいは分娩の方法だと感じました。フランスの無痛分娩は、「硬膜外鎮痛法」という麻酔を使ったもので、下半身のみに麻酔効果があります。フランスでは社会保障の範囲内で普通分娩か無痛分娩を選択することができ、無痛分娩を選んでも追加の費用はかかりません。また、多くの病院では365日24時間麻酔医師が常駐しているので、普通分娩のように自然に陣痛が来てしかるべきタイミングで分娩室に入り、麻酔を受けることができます。日本でも無痛分娩を行う医療機関が増えてきているようですが、麻酔医師が常駐していない場合が多いため、出産日を予め決めて施術する場合が多いようです。また、費用も普通分娩よりかかります。なお、私が出産したサンクルー市の病院では、2018年中のお産全体のうち88.65%が無痛分娩でした。
2.5日以内に出生届を提出
日本では出生後14日以内に出生届を提出しますが、フランスでは5日以内です。生まれた瞬間から子に人権が発生する概念のあるフランスらしいタイミングと言えます。思ったより早いのはフランス人にとっても同じようで、病室にも「出生届は5日以内に提出をお忘れなく!」という貼り紙がしてありました。5日以内に提出なので、名前は予め決めている場合がほとんどで、日本のように顔を見てから決める・・・というのもなかなか難しい日数です。フランスでは、出生届は住んでいる地域の役所に提出するのではなく、出産した産院のある役所に提出します。日本への届け出は在フランス大使館を通して3ヶ月以内に届け出れば良いので時間的には余裕があります。
3.母子同室
フランスでは多くの産院が母子同室としています。新生児がベッドにずらりと並び、お見舞いの人たちが窓から覗く、というあのイメージはフランスではありません。母子同室になるのは出産してから2時間分娩台の上で経過を見た後すぐ。私の場合、出産はやや難産でしたが経過は順調でしたので、産後3時間後には生まれたばかりの子とともに分娩室から病室に運ばれましたが、その後突如親子で個室に放置されてしまいました。さすがに翌朝から検温などで助産師さんなどが来訪しましたが、難産で体力的にヘトヘトの中、こんなにも産後すぐに生まれたばかりの新生児と生活がスタートするは思ってもみませんでした。夜は希望すればナースステーションで夜12時から翌朝6時まで預かってもらうこともできましたが、母乳育児を希望したので、途中子どもが起きるたびに助産師さんが連れてきてくれ、病室で授乳していました。
4.生後72時間で退院
フランスでは無痛分娩でも普通分娩でも生後3日で退院というのが基本。帝王切開の場合は術後の回復を待ち5日後とする産院が多いようです。もちろん母子の健康に問題があれば経過を見るために退院日は延期されます。入院期間が短いのは、無痛分娩で産後の回復が早いことと、出産費用が社会保障でまかなわれるため、回転を良くしなるべく早く退院させるため、などが理由です。
5.里帰り出産はしない
日本ではよく耳にする里帰り出産。フランスではほとんど聞いたことがありません。元々そのような文化がない、無痛分娩で産後の回復が普通分娩よりも早く手伝いがそこまで必要ではない、父親も育児休暇を取ることが一般的、などが理由として考えられます。個人的な見解ですが、フランス人(白人、黒人ともに)は体格が良く体力もあるので、小柄なアジア人よりも産後の回復が早く、里帰りをしなくても負担が少ないのではと感じました。
母子同室で「あとは自分でなんとかしてね」と放り投げられるフランス、新生児室があり産後の指導もきちんとしている日本。個人主義のフランス(でもなんとかなる)と設備や環境でサポートしてくれる日本のちがいを妊娠中の時と同様、様々な場面で体験しました。ちなみに産後の食事も産後数時間から普通食でクスクスやオレンジ丸ごと一個がドン!とトレーに乗せて運ばれて来ました。体にやさしい和食が恋しく、一刻も早く退院したかったのも今では良い思い出です。