行列のないパリ

ところかわれば

森弘子

夏らしい日がつづき、パリは7月に入って少し浮き足立ってきました。フランスではヴァカンスを毎年1ヶ月程度しっかり取るのがお決まり。それはもはや”国民の権利”というようなもので、このコロナ禍においても例外ではないようです。街中も少しずつ夏期休暇で休業する店が目立つようになり、特に今年は、観光客も少ないことから例年より早く、そして長く休みを取るところが多いようです。

7月に入り、徐々にコロナウイルスによる感染者数が増えているものの、コントロールできているとし、衛生緊急事態宣言は7月12日に解除されました。一方で、抑制措置として、7月20日から閉鎖公共空間においてのマスクの着用が義務化され、着用しないと135€の罰金が課せられることになりました。閉鎖公共空間はこれまでのレストラン、公共交通機関に加え、店舗、学校、行政施設等かなりの数が対象になりました。ここ連日暑さもつづき、店舗内などでマスクをしない人が目立ってきたこともあり、引き締めのための対策という印象です。

6月15日以降、EUからの渡航が自由になったことから、パリにも諸外国からの観光客が徐々に増えています。パリの観光スポット、ルーブル美術館やオルセー美術館、サントシャペルなども7月頭前後に再開しています。そんな観光スポットも、今年は様子が少し違います。一年中通していつでもエントランスに長蛇の列ができるルーブル美術館も、サントシャペルも今年は列がありません。コロナウイルス対策のため、列ができないように、どの施設でも事前予約が必要で、入場人数を制限しているためです。

並ばなくてよく、しかも混んでいない中ゆっくり絵画を見ることができる!ということで、先日十数年ぶりにルーブル美術館とオルセー美術館へ行ってきました。予約は各美術館のウェブサイトで事前に日時を指定し、カードで支払っておきます。

入館は、ほぼ並ばずセキュリティチェックを行い、PDFのチケットをスマートフォンの画面上で表示し、来館者本人がバーコードに読み取らせます。着用義務があるのでマスクは必須。いつもは長蛇の列ができているルーブル美術館のガラスのピラミッド前も、十数人程度エントランスに向かう人がいるのみでした。ルーブル美術館では館内パンフレットは配布せず、3つあるエリアに入るそれぞれのゲートの脇に掲示してあるQRコードを読み取り、スマートフォンにパンフレットをダウンロードする方法がとられていました。(オルセー美術館は通常通り紙のものを自由に取ることができました)

 ルーブル美術館メインエントランス

ルーブル美術館のメインエントランス、ガラスのピラミッドの下の巨大なエントランスホールも人がちらほらいるのみ(撮影は日曜の昼前)

それでも名作が多いドゥノン翼(3つあるエリア(翼)のうちの1つ)中は思いの外人がいっぱい。各翼での入場制限はしていないので、来館者が集中していたようです。エリアによってはコロナウイルス対策で見ることのできない絵画もありましたが、見どころの一つのモナリザは見学可能。やはり人も集中しており、ソーシャルディスタンスを取るため、ここではルーブル美術館内で唯一列がつくられていました。

モナリザ前の行列

足元に1mの距離を取るための水色の丸がある 左右2列設けられており、大体15分程度並んでモナリザの前にたどり着くことができた

オルセー美術館も、通常ある入館時に並ぶ行列はなく、土曜日の午前中でしたが待つことなくセキュリティチェックを終え館内に入ることができました。オルセー美術館ではオーディオガイダンスの貸し出しも通常通り行われていました。両美術館とも、美術館出口付近にあるメインのミュージアムショップを除いて、見学ルートの途中にあるショップは閉鎖されていました。

オルセー美術館内

オーディオガイダンスのレンタル窓口には足元に1m間隔でステッカーが貼られていたが、通常通り貸し出されていた 一方で写真左手の企画展の特設ショップは閉鎖されている

カフェ・レストランも一部は閉鎖されていて、やはり通常通りではないことを感じながら館内を巡りました。それでも一定の条件の中でも、美術鑑賞をできるよろこびはひとしおです。とはいえ、隣国スペインではバルセロナの一部ですが再外出制限が行われるなど、ヨーロッパでも未だにコロナウイルスの収束は見えていません。フランスでも一部の識者によれば感染者数の増加を見ると、再外出制限をするべき状況にある、との意見もあるようです。誰もが安全に自由に文化を楽しめる日が戻ってくることを祈るばかりです。